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春風 ~四季の想い・第二幕~  作者: 雪原歌乃
第七話 素直になりたい
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Act.1-02

「――主任、なんか言ってました……?」


 おずおずと訊ねてみると、夕純は、「そうじゃないけど」と言葉を紡いだ。


「あの人、表立って優しさを見せないのよ。昔っからそう。だからいつも損しちゃう。根はすっごくいい人なんだけどねえ」


「――いい人がこんなに人をこき使うんですか……?」


 つい、憎まれ口を叩いてしまった。

 言ってしまってから、しまった、と思ったが、夕純はむしろ愉快そうにケラケラ笑った。


「そこなのよ。気になってしょうがないけど、どうやって声をかけたらいいか分かんないから、わざとそうやって仕事を頼むの。ほんとは彼、そんなことは自分で全部やるつもりだったのよ。ほんとに、もうちょっと素直になれば可愛げがあるのに……。ま、私も人のことは言えないけどね」


 そこまで言うと、夕純は微苦笑を浮かべながら肩を竦めた。


「ちょっとめんどくさいかもだけど、嫌わないでやってちょうだいな。何度も言うけど、あれでもいい人なのよ?」


 夕純と主任は同期だと聞いたことがあるが、それにしても、ずいぶんと主任を擁護する。

 もしかしたら、主任に対して特別な感情でも抱いているのだろうか、などと思ったが、改めて訊くことも出来ない。


「で、ほんとに大丈夫?」


 夕純がまた、涼香に訊ねてくる。

 『大丈夫』と言ったのに、全く信用されていない。

 いや、本当は大丈夫と言いきれないのだが。

 もしかしたら、夕純は全てお見通しなのかもしれない。


(この際、ちょっとでも話を聞いてもらおう、かな……?)


 涼香は少しばかり考え、「あの」と意を決して切り出した。


「私、とてもヤな女だと思われたかもしれません……」


 夕純は首を傾げながら、真っ直ぐに涼香に視線を注ぐ。


「誰に?」


「えっと……」


 いざとなったら、やはり口籠ってしまう。

 とはいえ、口火を切ってしまった以上、今さら言ったことを取り消せるはずがない。


「なんてゆうか、その……、男友達に、です……」


 涼香の言葉に、夕純が目を見開いた。


「涼香、男の子の友達なんていたの?」


「ええ、まあ……」


「ふうん……」


 夕純は顎の辺りに手を添え、さらに穴が開くほど涼香を見つめる。

 涼香の深層心理を探ろうとしているのが、ありありと伝わってくる。


 気まずい沈黙が流れる。

 やはり、言うべきではなかっただろうか。

 しかも今、夕純とふたりきりとはいえ、ここは職場だ。

 そもそも、プライベートな問題を持ち込む場所ではない。


「――すいません……」


 耐えられなくなり、とうとう涼香から謝罪してしまった。


「別に謝ることなんてないけど」


 夕純は微苦笑を浮かべ、続けた。


「なんにしても、ここでゆっくり話せることじゃないわね。良かったら、仕事が終わってからでも相談に乗るわよ?」


「え、でも……」


「いいから」


 涼香が言いかけた言葉を、やんわりと、けれども強い口調で夕純はシャットアウトした。


「やっぱ心配だもの。高遠君じゃ話しづらいけど、私ならいいんじゃない? 同じ女なんだから、ね?」


「はあ……」


 半ば、強引に決められてしまった。

 だが、夕純がきっかけを作ってくれたことにホッとしたのも本音だった。


「じゃあ、お言葉に甘えて……」


「甘えてちょうだい」


 夕純は嬉しそうに、ニッコリと頷いた。

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