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春風 ~四季の想い・第二幕~  作者: 雪原歌乃
第六話 揺らめきの行方
37/48

Act.2-02

「兄貴はまだ三十ちょいじゃねえか。ジジイになるにはまだ早過ぎるし」


「三十過ぎたらあっという間だぞ?」


「なんの脅しだよ、それ?」


「別に脅しちゃいない。事実だ」


「偉そうに言うほどのことじゃねえだろ……」


 朋也は一口サイズに裁断したジャガイモを咀嚼してから、それをビールで流し込んだ。


「どうせ兄貴のことだ。紫織とのトシの差のことも未だに気にしてんだろ? 紫織はそんなもん、ちっとも気にしちゃいねえってのに」


「ん? 俺が気にしてるように見えたか?」


「俺はそこまで鈍感じゃねえよ」


「そうか」


 朋也の指摘に宏樹は短く答え、朋也に倣うように肉じゃがの肉を口に入れた。


「で、紫織の友達絡みの話って?」


 不意を衝いて、宏樹が話題転換をしてきた。


「今日は俺の話を聴くために来たわけじゃないだろ?」


 確かに宏樹の言う通りだ。

 だが、いざとなるとやはり切り出しづらい。

 それ以前に、上手く頭の中で内容を整理出来ずにいる。


 どうしたものかと考え込んでいたら、焼き鳥の盛り合わせが運ばれてきた。

 素材によって味付けを変えているのか、塩とタレの二種類が違う皿に盛られている。


「焼き鳥は熱いうちに食うのが礼儀っつうもんだろ」


 適当なことを言って話題を逸らした朋也は、早速塩の焼き鳥に手を伸ばす。

 何だろうと思いながら口に入れてみたら、モツだった。


「モツの焼き鳥なんて初めて食う! うめえよ!」


 焼き鳥に無邪気に喜ぶ朋也を前に、宏樹は微苦笑を浮かべている。

 だが、話を急かすわけでもなく、宏樹もまた、塩の皿からレバーの串を一本取り、ゆったりと口に運んでは噛み締める。


「お、ビール空だな」


 ビール瓶に手を伸ばした宏樹が咄嗟に気付いたらしい。

 たまたま側を通りかかった従業員を呼び止め、追加のビールと、自分が飲みたかったのか、日本酒の冷やも注文していた。


「時間はまだある。急ぐ必要はないよな」


 ひとり言のように呟き、宏樹は新たにタレの皿からぼんじりを取った。


 ビールと冷や酒はほどなくして運ばれてきた。

 朋也は温くなったコップの中のビールを飲み干すと、真っ先にビール瓶に手を伸ばして宏樹に注ぎ口を差し出した。


 朋也から進んでビールを勧めてくるのは予想外だったのかもしれない。

 宏樹はわずかに目を見開き、けれどもすぐに口元に笑みを湛えながら朋也の酌を受ける。

 そして、今度は無言で朋也からビール瓶を受け取って注いでくれた。


 やはり、冷蔵庫から出したての、しかも栓を抜いたばかりの冷えたビールは格別だ。

 調子に乗って一気に呷り、素早く自分で手酌して新たにコップに注いだ。


 酔いが回ってきた。

 辺りの風景もぼんやりとしてきて、身体もふわふわとしている。

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