Act.2-02
「兄貴はまだ三十ちょいじゃねえか。ジジイになるにはまだ早過ぎるし」
「三十過ぎたらあっという間だぞ?」
「なんの脅しだよ、それ?」
「別に脅しちゃいない。事実だ」
「偉そうに言うほどのことじゃねえだろ……」
朋也は一口サイズに裁断したジャガイモを咀嚼してから、それをビールで流し込んだ。
「どうせ兄貴のことだ。紫織とのトシの差のことも未だに気にしてんだろ? 紫織はそんなもん、ちっとも気にしちゃいねえってのに」
「ん? 俺が気にしてるように見えたか?」
「俺はそこまで鈍感じゃねえよ」
「そうか」
朋也の指摘に宏樹は短く答え、朋也に倣うように肉じゃがの肉を口に入れた。
「で、紫織の友達絡みの話って?」
不意を衝いて、宏樹が話題転換をしてきた。
「今日は俺の話を聴くために来たわけじゃないだろ?」
確かに宏樹の言う通りだ。
だが、いざとなるとやはり切り出しづらい。
それ以前に、上手く頭の中で内容を整理出来ずにいる。
どうしたものかと考え込んでいたら、焼き鳥の盛り合わせが運ばれてきた。
素材によって味付けを変えているのか、塩とタレの二種類が違う皿に盛られている。
「焼き鳥は熱いうちに食うのが礼儀っつうもんだろ」
適当なことを言って話題を逸らした朋也は、早速塩の焼き鳥に手を伸ばす。
何だろうと思いながら口に入れてみたら、モツだった。
「モツの焼き鳥なんて初めて食う! うめえよ!」
焼き鳥に無邪気に喜ぶ朋也を前に、宏樹は微苦笑を浮かべている。
だが、話を急かすわけでもなく、宏樹もまた、塩の皿からレバーの串を一本取り、ゆったりと口に運んでは噛み締める。
「お、ビール空だな」
ビール瓶に手を伸ばした宏樹が咄嗟に気付いたらしい。
たまたま側を通りかかった従業員を呼び止め、追加のビールと、自分が飲みたかったのか、日本酒の冷やも注文していた。
「時間はまだある。急ぐ必要はないよな」
ひとり言のように呟き、宏樹は新たにタレの皿からぼんじりを取った。
ビールと冷や酒はほどなくして運ばれてきた。
朋也は温くなったコップの中のビールを飲み干すと、真っ先にビール瓶に手を伸ばして宏樹に注ぎ口を差し出した。
朋也から進んでビールを勧めてくるのは予想外だったのかもしれない。
宏樹はわずかに目を見開き、けれどもすぐに口元に笑みを湛えながら朋也の酌を受ける。
そして、今度は無言で朋也からビール瓶を受け取って注いでくれた。
やはり、冷蔵庫から出したての、しかも栓を抜いたばかりの冷えたビールは格別だ。
調子に乗って一気に呷り、素早く自分で手酌して新たにコップに注いだ。
酔いが回ってきた。
辺りの風景もぼんやりとしてきて、身体もふわふわとしている。