表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
春風 ~四季の想い・第二幕~  作者: 雪原歌乃
第五話 言葉に出来ない
31/48

Act.3-02

「同期って、女の子?」


 内心は穏やかでなかったものの、平静を装いながら訊く。


 朋也はわずかに躊躇い、ゆっくりと首を縦に動かした。


「ついでに……、彼女に変なことも言われたから……」


「何を言われたの?」


 つい、口調を荒らげた。

 朋也の立場になってみれば、ただの〈友人〉でしかない涼香に詰問される謂れはない。

 それはよく理解していたが、負の感情がじわじわと心を支配してゆく。


 涼香の苛立ちが伝わったのか、朋也はバツが悪そうに目を逸らす。


「告白とかされた?」


 図星だったらしい。

 朋也がビクリと肩を上下させた。


「そう」


 涼香は素っ気なく言った。

 もちろん、心の中は相変わらずどす黒い感情が渦巻き続けている。

 朋也に堂々と告白した〈誰か〉が妬ましく、また、ほんの少しの勇気も持てない自分が腹立たしかった。


(私は、『好き』だなんて言えない、絶対……)


 朋也の本心を知っているから――いや、そんなのはただの建前で、単純に嫌われてしまうことを恐れている。

 涼香には、紫織や〈誰か〉のように真っ直ぐに相手にぶつかるだけの度胸がまるでない。

 仕事なら、周りの男達に負けるものかと必死になれるが、恋愛に関しては人一倍臆病なのだ。

 先の先まで考えてしまい、一生、自分の想いは閉じ込めたままでいようとしてしまう。

 言葉にせずとも、いつかは想いが伝わるかもしれない、などと都合の良いことを考えているのも確かだ。


(でも、高沢には行動だけじゃ伝わらないんだ……)


 酔いがしだに醒めてゆく。

 アルコールを大量に呷ったはずなのに、本当はまだまだ足りなかったのだろうか。


「山辺さん?」


 名前を呼ばれ、ハッと我に返る。

 顔を上げると、朋也が心配そうに涼香の顔を覗き込んでいた。


「大丈夫? だいぶ飲んでたから具合悪くなったんじゃねえの?」


 邪気のない優しさが、涼香の心の傷を深く抉った。

 もう、朋也と一緒にいられる状態ではなかった。


「ごめん、私ここからひとりで帰るわ!」

 涼香は精いっぱい明るく振る舞った。

 だが、自分でも不自然さを感じたから、朋也もさすがに疑わしげにしている。


「ほんと大丈夫だから! そんじゃ、またねえ!」


 脱兎のごとく、涼香はその場を去った。

 遠巻きに朋也の引き留めるような声が聴こえた気がしたが、振り返らなかった。


 闇を駆け抜けながら、目の奥が熱くなってくるのを感じた。


 泣きたくなどない。

 なのに、どうして思えば思うほど涙が頬を伝ってゆくのか。


「はあ……はあ……」


 朋也の姿が完全に見えなくなった所で、ようやく立ち止まった。

 ワンピースの胸元を掴み、その場にしゃがみ込むと、何度も深呼吸を繰り返した。


「泣くなよ涼香。私らしくない」


 口に出し、自分を叱咤する。


 泣かない、もう泣くもんか。

 呪文のように唱え続けていたら、ほんの少しだけ心が穏やかさを取り戻した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ