Act.3-02
「同期って、女の子?」
内心は穏やかでなかったものの、平静を装いながら訊く。
朋也はわずかに躊躇い、ゆっくりと首を縦に動かした。
「ついでに……、彼女に変なことも言われたから……」
「何を言われたの?」
つい、口調を荒らげた。
朋也の立場になってみれば、ただの〈友人〉でしかない涼香に詰問される謂れはない。
それはよく理解していたが、負の感情がじわじわと心を支配してゆく。
涼香の苛立ちが伝わったのか、朋也はバツが悪そうに目を逸らす。
「告白とかされた?」
図星だったらしい。
朋也がビクリと肩を上下させた。
「そう」
涼香は素っ気なく言った。
もちろん、心の中は相変わらずどす黒い感情が渦巻き続けている。
朋也に堂々と告白した〈誰か〉が妬ましく、また、ほんの少しの勇気も持てない自分が腹立たしかった。
(私は、『好き』だなんて言えない、絶対……)
朋也の本心を知っているから――いや、そんなのはただの建前で、単純に嫌われてしまうことを恐れている。
涼香には、紫織や〈誰か〉のように真っ直ぐに相手にぶつかるだけの度胸がまるでない。
仕事なら、周りの男達に負けるものかと必死になれるが、恋愛に関しては人一倍臆病なのだ。
先の先まで考えてしまい、一生、自分の想いは閉じ込めたままでいようとしてしまう。
言葉にせずとも、いつかは想いが伝わるかもしれない、などと都合の良いことを考えているのも確かだ。
(でも、高沢には行動だけじゃ伝わらないんだ……)
酔いがしだに醒めてゆく。
アルコールを大量に呷ったはずなのに、本当はまだまだ足りなかったのだろうか。
「山辺さん?」
名前を呼ばれ、ハッと我に返る。
顔を上げると、朋也が心配そうに涼香の顔を覗き込んでいた。
「大丈夫? だいぶ飲んでたから具合悪くなったんじゃねえの?」
邪気のない優しさが、涼香の心の傷を深く抉った。
もう、朋也と一緒にいられる状態ではなかった。
「ごめん、私ここからひとりで帰るわ!」
涼香は精いっぱい明るく振る舞った。
だが、自分でも不自然さを感じたから、朋也もさすがに疑わしげにしている。
「ほんと大丈夫だから! そんじゃ、またねえ!」
脱兎のごとく、涼香はその場を去った。
遠巻きに朋也の引き留めるような声が聴こえた気がしたが、振り返らなかった。
闇を駆け抜けながら、目の奥が熱くなってくるのを感じた。
泣きたくなどない。
なのに、どうして思えば思うほど涙が頬を伝ってゆくのか。
「はあ……はあ……」
朋也の姿が完全に見えなくなった所で、ようやく立ち止まった。
ワンピースの胸元を掴み、その場にしゃがみ込むと、何度も深呼吸を繰り返した。
「泣くなよ涼香。私らしくない」
口に出し、自分を叱咤する。
泣かない、もう泣くもんか。
呪文のように唱え続けていたら、ほんの少しだけ心が穏やかさを取り戻した。