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春風 ~四季の想い・第二幕~  作者: 雪原歌乃
第四話 彼女と彼女の間
20/48

Act.1-02

「でも、そうゆう高沢君もいいよ」


 朋也と充、ふたりのやり取りを見守っていた女子が、頬杖を突きながら訥々と続けた。


「つまり、高沢君ってちょっと不器用なんでしょ? クールに振る舞ってしまう人に多い気がするし。私、そうゆうギャップって好きよ」


 深い意味はなかったと思う。

 しかし、恥ずかしげもなく、サラリと『好き』などと口に出してしまうのは如何なものだろうか。

 これには朋也だけではなく、充までも固まってしまった。


「あれ、私なんか変なこと言った?」


 呆然としている男ふたりに気付き、女子が首を傾げながら訊いてくる。


「あ、いやあ、別になんも変なこと言ってねえよ。なあ?」


 充に振られた朋也は、我に返って、「あ、ああ」と同意する。

 喉の渇きも急に覚え、残っていたビールを一気に飲み干した。


「俺、ちょっとトイレ」


 充が思い立ったように腰を上げた。


 残された朋也は、近くにあったピッチャーに手を伸ばしかけた。


「手酌なんてしたら出世しないわよ?」


 朋也よりも先に、女子がそれを取り上げた。

 そして、朋也に向けてそれを傾けてくる。


 朋也が無言でグラスを持つと、女子は上手にビールを注いでゆく。


「ねえ、高沢君」


 ピッチャーを元に戻してから、女子が真っ直ぐな視線を向けてきた。


 朋也はグラスに口を付けた状態で女子を見返す。


「メールアドレス交換しない?」


 いきなりの申し出に、危うくビールを噴き出しそうになった。


 だが、そんな朋也にお構いなしに女子は続ける。


「別に深い意味はないから、友達になってくれればって思って。ついでに私の名前もちゃんと教えとく」


 朋也が返事をする間も与えず、女子は自分のバッグから手帳と携帯電話を取り出した。

 手帳を開き、携帯画面を見ながらメモする様子を、朋也はジッと見守る。


 ほどなくして、女子が手帳の一部を破き、それを朋也に渡してきた。

 考えるまでもなく、携帯番号と名前が記載されていた。


井上誓子(いのうえせいこ)さん、でいいの……?」


 間違っていては失礼だと思い、恐る恐る確認する。


 女子――誓子はパッと表情を輝かせ、「そう!」と大仰に頷いて見せた。


「やっと憶えてもらえたわあ! あ、私のことは『誓子』って呼んでいいから!」


 誓子はそう言ってきたものの、いきなり下の名前でなど呼べるわけがない。

 紫織のように子供の頃からつるんでいれば別だが、誓子とは面識がないといっても過言ではないのだ。

 そもそも、高校からの知り合いである涼香ですら、苗字で呼ぶだけでもかなりの勇気が必要だった。


「まあ、そのうちに……」


 曖昧に濁すのが精いっぱいだった。


 誓子は是とも非とも答えなかった。

 代わりに、朋也の表情を口元を緩めながら眺めている。


(どうも調子狂うな……)


 朋也は誓子から視線を逸らすと、再びビールを飲み始めた。

 そのうち、充が戻ってきたタイミングで誓子は朋也の側を離れ、別のグループの元へと行ってしまった。

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