Act.1-02
「でも、そうゆう高沢君もいいよ」
朋也と充、ふたりのやり取りを見守っていた女子が、頬杖を突きながら訥々と続けた。
「つまり、高沢君ってちょっと不器用なんでしょ? クールに振る舞ってしまう人に多い気がするし。私、そうゆうギャップって好きよ」
深い意味はなかったと思う。
しかし、恥ずかしげもなく、サラリと『好き』などと口に出してしまうのは如何なものだろうか。
これには朋也だけではなく、充までも固まってしまった。
「あれ、私なんか変なこと言った?」
呆然としている男ふたりに気付き、女子が首を傾げながら訊いてくる。
「あ、いやあ、別になんも変なこと言ってねえよ。なあ?」
充に振られた朋也は、我に返って、「あ、ああ」と同意する。
喉の渇きも急に覚え、残っていたビールを一気に飲み干した。
「俺、ちょっとトイレ」
充が思い立ったように腰を上げた。
残された朋也は、近くにあったピッチャーに手を伸ばしかけた。
「手酌なんてしたら出世しないわよ?」
朋也よりも先に、女子がそれを取り上げた。
そして、朋也に向けてそれを傾けてくる。
朋也が無言でグラスを持つと、女子は上手にビールを注いでゆく。
「ねえ、高沢君」
ピッチャーを元に戻してから、女子が真っ直ぐな視線を向けてきた。
朋也はグラスに口を付けた状態で女子を見返す。
「メールアドレス交換しない?」
いきなりの申し出に、危うくビールを噴き出しそうになった。
だが、そんな朋也にお構いなしに女子は続ける。
「別に深い意味はないから、友達になってくれればって思って。ついでに私の名前もちゃんと教えとく」
朋也が返事をする間も与えず、女子は自分のバッグから手帳と携帯電話を取り出した。
手帳を開き、携帯画面を見ながらメモする様子を、朋也はジッと見守る。
ほどなくして、女子が手帳の一部を破き、それを朋也に渡してきた。
考えるまでもなく、携帯番号と名前が記載されていた。
「井上誓子さん、でいいの……?」
間違っていては失礼だと思い、恐る恐る確認する。
女子――誓子はパッと表情を輝かせ、「そう!」と大仰に頷いて見せた。
「やっと憶えてもらえたわあ! あ、私のことは『誓子』って呼んでいいから!」
誓子はそう言ってきたものの、いきなり下の名前でなど呼べるわけがない。
紫織のように子供の頃からつるんでいれば別だが、誓子とは面識がないといっても過言ではないのだ。
そもそも、高校からの知り合いである涼香ですら、苗字で呼ぶだけでもかなりの勇気が必要だった。
「まあ、そのうちに……」
曖昧に濁すのが精いっぱいだった。
誓子は是とも非とも答えなかった。
代わりに、朋也の表情を口元を緩めながら眺めている。
(どうも調子狂うな……)
朋也は誓子から視線を逸らすと、再びビールを飲み始めた。
そのうち、充が戻ってきたタイミングで誓子は朋也の側を離れ、別のグループの元へと行ってしまった。