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春風 ~四季の想い・第二幕~  作者: 雪原歌乃
第二話 甘く苦い恋の味
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Act.2-02

「――どちらさん、でしたっけ……?」


 相手の素性が分からない以上、素直に訊くしかない。

 しかも、年上かも年下かも分からないから、無難に敬語を使った。


 そんな朋也に、彼女は、「まあ、無理もないか」と小さく溜め息を吐いたあと、訥々と続けた。


「山辺涼香よ。あ、名前を言ってもダメか。えっと……、加藤紫織とずっとつるんでいた女、って言った方が分かりやすいかしら?」


(ヤマノベ、リョウカ……?)


 朋也は心の中で彼女の名前を反芻する。

 だが、紫織とつるんでいた、というキーワードで、朋也はようやくハッと気付いた。


「――もしかして、同じクラスにもなったことあった?」


 さらに問うと、彼女――涼香はパッと花が咲いたように満面の笑みを見せた。


「やっと想い出してくれたのねっ? そうそう、高二と高三で紫織と三人で同じクラスだったの!」


 そう言うと、「良かったあ」と胸を撫で下ろす。


「ほんとはいきなり話しかけるのもどうかと思ったんだけど、高沢君らしき人を見たら、つい懐かしくなっちゃって。でも、そっくりさんだったらとんだ大恥だったわね。本人でほんと良かったわあ」


 涼香は言いながらケラケラと笑う。

 元から屈託ない性格だとは思っていたが――第一印象だけは全く違ったものの――、今でも全く変わってなさそうだ。


「ところで、高沢君はここで何してたの?」


「何って……、ちょっとメシでも食おうかと思ってただけだけど?」


「あ、そっか。ちょうどお昼時だもんね」


 涼香は朋也をまじまじと見つめ、それから少し間を置いてから、「ねえ」と続けた。


「良かったら、これから一緒にご飯食べない?」


 あまりにもサラッと誘われ、朋也は一瞬、答えに窮した。


「――もしかして、迷惑、だった……?」


 なかなか答えない朋也に、涼香がおずおずと訊ねてくる。

 何となく悪いことをしているような気持ちになり、さすがに内心焦ってしまった。


「いや、迷惑とかじゃないけど……」


「――『けど』?」


「むしろ、山辺さんの方に迷惑かけるんじゃないか、って……」


「どうして?」


「いや、だってさ……」


 朋也は少し躊躇ったが、思いきって言葉を紡いだ。


「つまり、彼氏とか? 俺と一緒にいるトコを見られたら誤解されるんじゃない?」


 朋也の言葉に、涼香は目を丸くさせた。

 そのまましばらく凝視されたが、そのうち、声を上げて笑い出した。


「あっははは……! そんなのないない! 私彼氏とかしないし! てか、全然モテないもの! だからその手の心配ご無用!」


 公衆の面前で、涼香は恥じらいもなく笑い転げる。

 時おり、近くをすれ違う人がチラッとこちらに視線を送ってくるから、朋也としては気まずくて仕方ない。


「わ、分かったから山辺さん。だからそろそろ笑うのは抑えて……」


 やんわりと注意され、涼香はそこで、「ごめんごめん」と言いながら、ようやく笑うのをやめてくれた。


「それじゃ、場所移そうか? あ、誘ったのは私だから奢るから」


 どうやら、一緒に食事をするのは決定事項らしい。

 別に拒否する理由もないから良いのだが。


「食べたいものとかある? それとも、私に任せてもらってもいい?」


「俺は別にどっちでも」


「遠慮深いなあ。まあいいわ。じゃ、私の行きたいトコにさせてもらおっかなあ」


 そう言うなり、涼香は先に遭って歩き出す。


 朋也は少し遅れて、そのあとを追った。


(ラーメン屋、じゃなさそうだな)


 涼香と並んで歩きながら、特にラーメンが食べたいという気分ではなかったしいいか、と朋也は心の中で自分に言い聞かせた。

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