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家のなかのこどく  作者: くろとかげ
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1章『新しい家―その3』

 一年前の、今と同じ三月の、ある日の晩。弥生は母親の死ぬ瞬間を目の当たりにした。

 忘れたくても決して忘れることができない。呪いを思わせるような消せない記憶だ。

 ボロいマンションの、小さな和室。そこで母親は苦しそうに寝込んでいた。

「お母さんは見た目、体が小さくて気が弱そうなんだけど、怒ると結構怖くてさ。頭を()つくらい超絶に厳しかった。そんなお母さんが、突然、寝汗をいっぱい浮かべて苦しそうな息遣いをするようになったの」

「病院には連れていかなかったの?」

「父親は何を考えていたのか知んないけど、お母さんを病院で診てもらおうとしなかった。行ったかもしれないけど、私はそんな話を聞いたことがない。それどころか看病もロクにせず、苦しんでいるお母さんを置いて外出ばかりするようになった。朝になるとこっそり家を出て行くし、仕事の用事でなのか、どうなのかは知らないけど、家族サービスを欠かさなかった父が、土日さえも家を空けるようになったの」

 それでも最終的には父親らしい判断を下してくれるのだと信じて、弥生は一生の行動に口を挟まなかった。

「行き先は?」

「一度も教えてくれなかった」弥生は視線を落として自分の靴を見つめた。「あいつはいつも、何もいわないで困った顔をするばかり。……まるで苦しんでいるお母さんから逃げているみたいに」

「お母さんはどうなったの?」

「それを私に、いわせないで」弥生は下唇を噛み、低い声で呟いた。

 母親は、助けの手を差し伸べられることなく、死んだ。

 当時十四歳だった弥生には、母の死というのは受け入れがたい現実だった。発狂し、混乱のあまり自分でも何をしでかしてしまうのか分からないほどに。

 母の死、そして家族を見捨てるという父の行為が、弥生の心に、悲しみ、怒り、憎しみの種を深く植えつけた。

「そうね。悪かったわ」

 女が申し訳なさそうにいうので、弥生は「大丈夫」と返した。

 これでも弥生は、目の前の女に、自分でも信じられないほどの好感を持った。

 理由は分からない。ただ、同情や哀れみの言葉はもうお腹いっぱい。なのでそれを聞かずにすんだのは良かった。

「あの時は、もう何も考えられなかった。色んな感情が心の中でごっちゃになって、長く苦しめられたわ」

 溢れる殺意で、未だに苦しめられているけれど。と弥生は思った。

「その気持ち分かるわ。私もね、身内を一人、失っているの」

「え……!」

「心に負った悲しい傷は、記憶を消去しない限り消えることはないわ。対処は一つ、傷の痛みに慣れるしかないのよね」

「うん。私だって傷の痛みに早く慣れて、一生(あいつ)をすぐに許してやりたかった。自慢の父親だったから、そうするつもりだった。でも、でもね、思いどおりにはいかなかったみたい。許すどころか日を増すごとに、悪化していったの」

 許そうとすれば、瞼の裏に焼きついてしまった母の苦しむ姿が浮かび上がってくるのだ。

 弥生は察した。

 行動で気を晴らさないと。

「そこで思いついた解決策が、お母さんと同じ苦しみを一生にそっくり味合わせてやる、てこと」

 今の弥生はそのことばかりを考えて毎日を過ごしていた。

 しかし一生の不幸を望む想いこそは強いが、肉体に直接危害を加えるつもりは、弥生にはなかった。

「それで現状は?」

「上手くいっていたら、神社で大声を上げながらお祈りなんかしてないわよ」

 一生を許したわけではない。殺害後に警察に逮捕されるのも怖くはなかった。

 ただ、父親を殺した、そのあとが問題なのだ。

 自分の務所行きが決定されて、家に残される妹の小春のことが心配なのだ。それだけではない。「殺人犯の妹」といわれながら石を投げられることになるだろう。そして村八分という悲惨な境遇が待っているのだ。

 そうなった場合の小春の未来を想像した弥生は、一生の殺害をあきらめるしかなかった。

 本当に思う。殺人は頭の悪い人間がする行いだと。

 幸か不幸か、おかげで弥生はこれまで、親殺しにならずにすんでいた。

 これからもずっと、小春の将来を思い続ける限り、一生は殺せないだろう。

 ずぅーっと殺意という重い荷物を背負ったまま、生きることになる。

「あーあ。殺しでいい方法ってないかなー。アリバイとか小難しいトリックとか、そういうの抜きでさぁ」

 弥生は恐ろしいことを呟いた。それから、

「なーんてね。そんなのあるわけないか」

「あるわよ」

「あるのぉ!」弥生は素っ頓狂な声を出した。

「ええ。怖いことをさらりと零す、あなたにならできそうな殺しがね」

 私ならできそうな……それはいったいどんなのだろう。

「ほ、本当に? 教えてよ。私、決めているの。私の物語にハッピーエンドを迎えるには、あいつの死が必要なんだって」

 弥生は力を込めた眼差しで女を見つめた。

「絶対、なのね。いいわ。そこまでいうなら、あなたに合った方法を――」

 と、その時だ。弥生の体から陽気なメロディが、周囲に鳴り響いた。

 場の空気をがらりと変える、彼女の性格を表しているかのような、けたたましい音楽だった。話しかけていた女の声は、そのメロディに掻き消された。

「あ、ごめん。ちょっと待って」

 弥生はポケットからスマートフォンを取り出した。慎重な手つきで画面に触れ、耳に当てた。

 弥生に電話をかけてきた相手は、憎っくき父親、市松一生であった。

 父親からの電話内容は、どこにいるのかという心配の意と、ベッドの組み立てが終わったから帰っておいでというものだった。

 弥生は、生返事をして一方的に通話を切った。

「ごめん。で、何の話だっけ?」

「…………」

 言葉を遮られて機嫌を害したのか。女は腕を組み、喋らなくなった。

「やっぱり。いうのを止めることにしたわ」

「えー。何でよー。納得いかない」

「大丈夫。あなたならすぐに気づくわ。だってあなた、蜘蛛に好かれているから」

「え。それってどういう意味……」

 気味の悪い発言はちんぷんかんぷんで理解不能ではあったが弥生は聞き返すのを止めた。質問しても、絶対に教えてくれない。すでにそんな確信があった。

「じゃ、帰るわ」女はいいながら弥生に背中を向けた。

 遠ざかる華奢な後ろ姿。

 見つめながら、弥生は手でメガホンを作り、叫んだ。

「あのぉ。名前、教えてー!。私は、市松、やーよーいー!」

 境内に響き渡る声に、女の肩が微かに震えた。弥生の大声に驚いたのかもしれない。

 女は流れるような動作で振り返りながら、

「私は、牧野(まきの)」と女は短くいった。「この神社の近くに住んでいるから、また近いうちに会うかもね。弥生」

 女――牧野はそれだけをいうと、弥生の次の返事も待たずに境内から去っていった。


   ***


 弥生が神社から家の敷地内に戻ったころ、引っ越し業者の人たちはすでにいなくなっていた。がやがやと騒がしく思えていた空気も、今ではすっかり祭りのあとのように静かになっていた。

 玄関ドアの取っ手に触れる、そのまえに弥生は体のあちこちを軽く手で払った。また蜘蛛が衣類についていないかを心配してのボディチェックだ。

「大丈夫、みたいね」

 屋内に蜘蛛を持ち込めば、小春は驚きのあまり卒倒するに違いない。

 しかし今回は蜘蛛の姿はなく、弥生は安心して中に入ることができた。

「おかえり」玄関では一生が出迎えた。「遅かったね。どこまで散歩に行っていたんだい?」

「パパ。お姉ちゃんが大した所まで行くわけがないじゃない。どうせ、時間潰しに近場をうろついていただけでしょ。荷解きを手伝いたくないから」

 小春がつっけんどんな口調で弥生の行動を決めつけた。が、それは半ば当たっているようなものなので、弥生は反論しなかった。

 代わりに、「実はね」と、弥生は含み笑いをしながら靴を脱いだ。

 それから三人はリビングに入って休憩をとることにした。歩き疲れていた弥生は一番にソファーに腰を下ろした。小春は弥生のいるソファーには座ろうとせずに、カーペットの上にちょこんと腰を下ろした。

 一生は冷えたお茶をコップに注いでテーブルの上に三つ置いた。それから小春の隣に座る。

 弥生は出された茶を一気に飲み干すと、森を抜けた先で見つけた神社のことを、小春に向けて得意げに語った。

 しかしどういったわけか。弥生が熱を入れ、鼻息を荒くして話せば話すほど、小春の反応は冷めたくなっていくのだった。

「ふーん」

「僕は知っているよ。その神社。木のトンネルの中に石の鳥居があるんだよね」

 一生は懐かしげに目を細めた。その瞳が少し潤んでいるようだと、弥生は思った。

「パパってこの辺りに住んでいたの?」

「いいや。僕が住んでいたのは、ここからもうちょっと遠い所。でもね、この辺りには頻繁に行き来していたんだ」

「分かった。お母さんに会いに来てたんでしょ?」

「まあね。ちなみに、さくらくんと初めて会った場所も、今、話に出ている神社なんだよね。僕が二十三で、さくらくんがまだ高校生、十八歳のころだったかな」

 一生は自分の妻、さくらにくん(・・)をつけて呼んでいた。

「彼女の顔を初めて見た時はビックリ。一、目、惚れ。しちゃったよ」

「ヒュー。運命の出会いだねぇ」

 小春は両目を輝かせて、食い入るように一生を見つめた。

 一生は、人差し指で頬を掻きながら、恥ずかしそうな口調でいった。

「運命の出会い。本当にそうだと僕は信じているよ。彼女は僕にとって、最高のパートナーで、何よりかけがえのない女性だったからね」

 一生の言葉に、弥生は急な憤りを覚えた。その時には遅かった。

 バンッ!

 大きく乾いた音がリビング全体に短く響いた。弥生が力一杯にテーブルを叩いた音だ。

 両手で叩いたその勢いで、弥生は立ち上がる。

 小春と一生はぎょっとして、その方を見上げた。

「な、何?」「どうした?」と二人が同時に声を発した。

 弥生は一生に、ギロリと視線をぶつけた。

 じゃあ何でお母さん見殺しにしたの、と叫ぶつもりだった。が、唇が震え、声を出すことができなかった。

 何もいえぬまま、弥生は廊下に飛び出た。リビングの向かいにあるトイレに入り、洋式の便座、蓋部分の上に尻を置いた。

 用を足すつもりはなかった。弥生は、「くそっ!」と、拳を強く握り締め、短く叫んだ。

 何が運命の出会いだ。何が最高のパートナーだ。くそ。だったら、どうしてお母さんを見殺しにしたんだ。どうして、どうして。

 妙に恥ずかしげな顔でいった一生の言葉に、弥生の(はらわた)は怒りで煮えくり返っていた。怒りと一緒に原因不明の悲しみが胸の奥から押し寄せ、彼女は涙が出そうになるのを、奥歯をぐっと噛んで、必死に堪えた。

 くそっ。殺してやりたい!

 弥生は心の中で強く叫んだ。一生を殺すことができないと分かっていても、殺したいと思わずにはいられなかった。

「はあー」と、わざとらしいくらい大きく息を吐く。いくら念じても、心が満たされることはない。弥生はそれを知っていた。

「落ち着け、落ち着け」静かに呟きながら、強張らせていた拳をゆっくりと緩め、指を広げる。開いた手のひらを見ると、食い込んでいた爪の跡が四つ、赤く残っていた。ぐっと噛み締めていた奥歯も力を緩める。平常心を戻し、弥生は腰を上げた。トイレを出ようと右手でノブを掴む。

 すると、天井から、ノブを握った手の甲に何かが落ちてきた。

 白色の、糸くずの塊のようなものが降ってきたのだ。降ってきた、という状況を目で見、理解した途端、右手がチクチクするようなくすぐったい刺激に見舞われた。ぞくり、と、悪寒と嫌悪感が同時に全身を駆け抜け、弥生は身を強張らせた。

 白く細いそれが意思を持っているかのように手の甲に絡みつく。そいつには、胴体があり頭があった。足が八本もあり異様に長かった。

 シロオビユウレイグモ――神社で出会った牧野から教えてもらった蜘蛛の名前。

 蜘蛛の足は八本それぞれが不規則な動作を描き、弥生の指から離れようとはしなかった。

 弥生は喉まで出かかった悲鳴を必死に堪え、左手で素早く右手の蜘蛛を払い飛ばした。

 蜘蛛がいなくなっても感触はまだ鮮明に残っている。しばらくは取れそうにもない。弥生は気味の悪さに肩を震わせた。

 次に思ったのは蜘蛛を殺すことだ。小春が、自分と同じ状況に遭えば悲鳴だけではすまない。

 弥生は小春のために、シロオビユウレイグモを探した。

 ところが、タンクの隙間にでも逃げ込んだのか、どうしても見つけることができなかった。

 仕方ない、と蜘蛛退治を早くも止めた弥生。彼女は蜘蛛が外へ出て行くようにと窓をほんの少しだけ空けて、それからトイレを出た。

 リビングに戻ろうと……はせずに、階段の方へ体を向ける。

 階段下から二階を見上げる。八段目からやはり黒い(もや)がかかっているかのようである。

 弥生はそんな重い影に恐怖を感じながら階段をそろそろと上がり、廊下右手の洋室に入る。

 だだっ広いだけだった空間が、今ではずいぶんと部屋らしくなっていた。大量の段ボールがまだ残ってはいるものの、学習机や二段ベッドなどが置かれ、遙かに見映えは良くなっている。

 弥生は二段ベッドに歩み寄った。擦り傷や落書きだらけだけど、それでも新しい部屋に移されたというだけで新鮮味が増し、弥生の目には新品と同じくらいに輝いて見えた。

「なかなか、いいじゃない」

 ベッドは部屋の入り口から見て、左の壁に沿った状態で組み立てられていた。その配置は、壁の姿見と重ならないよう、手前端から一メートル半ほどのスペースを空けていた。

 小学校の入学と同時に一生が買った二段ベッド。どこにでもあるような木製のものだ。ところが下の段にはカーテンが装飾されていた。そしてもう一つ、クリップライトが枕元に備えつけられていた。

「良かった。ライト、ちゃんとあるわね」

 カーテンとライトのあるベッドスペースこそが、弥生の就寝場所であった。

 弥生は姉という立場にありながら下の段で眠るようにしていた。

 その理由に暗所恐怖症というのがあった。

 弥生は母親の死と同時に暗い場所に恐怖を抱くようになってしまい、就寝には明るさを必要としていた。

 そこでライトの登場だ。しかし、上の段でそれを使った時、光がベッドからだだ漏れになる。これに小春が、「眩しい」と激しく迷惑したこともあって、弥生は下の段に移ることにした。それに加え、ライトの光が漏れないよう一段目をカーテンで囲むことにした。

 そんなエピソードを思い出しながら、弥生はすでに寝台に敷いてある布団に触れた。ふかふかの触り心地。弥生は急激な眠気に襲われた。

 弥生は思わず頭を布団に埋めた。あまりの心地良さに、数秒後には眠れる自信があった。

 そんな彼女を阻止するかのように、階段を上がってくる足音が聞こえた。ドスドスと心なしか怒気を込めている感じがする。

「あ! やっぱり。どこに行ったかと思えば、ここで寝ようとしてたんだ」

 足音は小春のものだった。妹は部屋に入るなり、怒声を発した。

「いや寝てない寝てない」

「布団に突っ伏した格好でいっても説得力ないし」

「まー。いいじゃない。ちょっと眠らせてよ」

「は、や、く、お、き、て! 荷物を早く片づけたいの!」

 あまりにも小春が力んでいうので、弥生は渋々体を起こし、だらだらと荷解きに取りかかった。


   ***


 一階は一生に任せ、弥生と小春は、自分たちの部屋となる洋間の片づけに専念した。未開封の段ボール箱から本やら雑貨などを出し、適当な場所に置いたり並べていく。

 午後六時。この家に到着して、三時間半が経っていた。

「終わったかい?」

 見計らったように一生が二階の姉妹部屋に現れた。

「うん。どう? 結構部屋らしくなったでしょー」

 と、小春が得意げな笑顔で答えた。

 小春専用の学習机と本棚には、教科書や、大小様々な雑貨が綺麗に整理整頓されていた。その配置が部屋全体に女の子らしい雰囲気を漂わせた。

「お見事。小春は片づけの名人だね」

「えへへ」

「弥生は、まだ、ちょっと時間がかかりそうだね」一生は苦笑交じりにいった。

 弥生は小春と正反対であり、荷物の整理をしたというより、段ボール箱から出したものを乱雑に床に積み重ねただけであった。

「いいの。私は私のペースで少しずつやっていこうって考えているんだから」

「出した漫画にいちいち目を通しながらやっていたら、いつまで経っても終わるわけがないじゃない。お姉ちゃん」

「まあまあ。段ボールは全部、空にしているんだよね。それだけでも上等だよ」

 一生は特に弥生を注意しなかった。

「さて。片づけも粗方終わったことだし、これからご飯食べに行こうか」

「え。外食! やったぁ」

 小春は両手を上げて笑顔を作った。

 弥生も、外食は嬉しいものであったが、彼女は(かたく)なに仏頂面を通した。喜んだ表情を一生に見せたくないからである。

 笑顔の代わりに、弥生の口から大きな欠伸が漏れた。空腹以上の睡魔が弥生を襲ったのだ。

「私、パス」と、欠伸混じりに弥生はいった。

 一生は思いもしなかった言葉にかなり驚いた様子だったが、弥生の顔を見て、くすりと笑い、すぐに納得した。

「弥生は眠いんだね。だったら外食はまた次の機会にして、今晩は家で食べられるようにしようか」

「えー」小春の猛烈なガッカリ声。「お姉ちゃんなんか置いといて、外食しようよー」

「そうしなよ。私はいいから、食べてきなよ」

 外食に胸を(おど)らせていた小春のこともあるが、弥生にとって最も許されないのは一生に気を遣われることだ。

 一生は一瞬、迷った仕草を取るが、

「そうかい? じゃ。そうさせてもらうね」

 意外とあっさり弥生の言葉に甘え、外食を決定させた。

 小春は予定どおりの外食に、喜びのあまり弥生らの目も気にせずにこの場で着替えを始めた。小春はポンポーンと衣類を脱ぎ散らかし、余計な肉がない色白の肌と、ピンク色のスポーツブラを露わにした。早々と着替えをすませる。妹は地味な掃除用から、外出用のオシャレな服装に身を包んだ。

「じゃあ、お姉ちゃんは夢の中で、のんびり留守番でもしていて。さ、行こ、パパ」

「それじゃ、行ってくるから」

 手を握り合った二人は、姉妹部屋を出て行った。

 階段を下りる足音と、二人の囁き声が、遠ざかる。しばらくして車のエンジン音。

 そしていよいよ何も聞こえなくなった時、弥生は本当の静けさを実感した。

 自分は家の中。一生と小春は外へ出て行ったんだ。

 大きな箱に閉じ込めれた、小さな自分の姿を思い浮かべる。

 弥生はベッドに入って布団に包まり、瞼を閉じた。閉じた瞼の裏に、姉妹部屋の明かりが優しく見える。

 安心感を抱いて、弥生は意識が少しずつ薄れていくのを感じた。

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