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青年は必要最低限なものを全てその場で買い揃え、移動途中で愛玩動物が怯えないようにと、自分の外套を頭からすっぽり被せて大事に抱えて足早に帰宅した。自分に比べて体毛が酷く少ない身体では、日が沈み冷え始めた外気に体温を奪われてしまうかもしれないと危惧した故だったが、傍から見れば人攫いのようにも見えただろう。青年はそんなことすら考える余裕もなかった。

とにかく、この腕の中で震え続ける小さい愛玩動物を温かい自分の部屋に入れて安心させてやりたかった。

家の中で飼うのならゲージが必要になるかもしれない、という店員の言葉を青年は聞き流した。

これほど大人しいのなら、むやみやたらと部屋の中の物を散らかす心配も無いだろう。

自分にとっては薄いドアも、この愛玩動物にとってはドアノブを捻るのも至難の業だ。

それに、これが部屋の中をうろうろと歩き回る様は非常に可愛らしいだろうと、青年は思ったのだ。

店員の説明によると、これの食べ物は基本的に火を通さねばならないらしい。

生のまま食べられる物はサラダくらいで、新鮮な魚の切り身なら生でもいける。

食べ物は小さく切り刻んでやると良いとアドバイスをもらった。

トイレについては、しつけさえきちんとすれば自分と同じ場所でも可能らしい。

むしろ、部屋の中にトイレを作っても決してそこでしようとはしない動物なのだと店員は言った。

言葉についても、根気強く教え込めば数ヶ月で片言の会話が可能になるという。

衣服も数着そろえてやれば自分で着替え、洗濯までするようになるというから、知性はそれなりに高いらしい。

値段もお高かったわけだ。だが青年は決して高い買い物をしたという気分にはならなかった。

青年の一目惚れだった。ゲージの前に立った瞬間に、視線を逸らせなくなったのだから。

他の客に買われる前で本当に良かった。青年は今日何気なく立ち寄ったペットショップでこれを見つけた幸運に感謝すら覚えた。

自分の部屋に辿り着き、そっと床に愛玩動物を降ろす。愛玩動物は外套を被ったままじっと座り込んでいたが、しばらくすると部屋の中をきょろきょろと視線だけ泳がせた。

「ここが今日からお前の住処だ。」

安心させるために声をかけたが、愛玩動物は外套の中で身体を硬直させ、身動きひとつしなくなった。

どうしたら安心させてやることが出来るのか、青年は内心おろおろと焦った。

こんなに焦ったのは、初めて仕事をした時以来かもしれない。

「...そうだ。名を決めよう。」

青年はここでようやく愛玩動物の名を決めていなかったことを思い出した。

自分の名を覚え、それを呼ばれていることに気付けば、少しは安心するかもしれない。

「お前の名か...どんなものが良いか。」

うぅん、と青年が唸り声を上げれば、愛玩動物は外套の中でびくりと身体を揺らした。

「名...黒い髪...小さい...」

外見の特徴からその名を考えるのは誰しもが同じかもしれない。

青年も例に漏れず、愛玩動物の外見からその名を考えた。

「...ネネット、はどうだろうか?」

ネネとは「黒」という意味で、最後に「ット」が付くのは小さい子供たちの渾名のようなものだ。

実に安直な名づけ方だったが、愛玩動物は「ネネット」という単語にパっと外套から顔を出した。

青年はそれを見て、どうやら気にいってくれたようだと思った。

「お前は今日からネネットだ。」

愛玩動物は、不思議そうな顔をしながらも小さくコクリと頷いた。

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