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仕事の帰り道、ペットショップに立ち寄ったのは完全な気まぐれからだった。
この街一番の大きさを誇るペットショップには、たくさんの愛玩動物が売られている。
一般的な小動物から、稀少なものまで様々なペットが取り揃えられており、そのどれもがとても愛らしい。
青年は本来ペットを愛でるという趣向は持ち合わせていなかったが、ペットショップの盛況ぶりに少しだけ関心を抱いた。この時点ではまだ、自分が何か生き物を飼うということは全く考えておらず、最近ずっと仕事が忙しくささくれだった神経が可愛らしい生き物たちによって少しでも癒されればいいというほどの心情だった。
「抱っこしてみますか?」
店員にそう声をかけられたのは、ひとつのゲージの前で立ち止まって5分ほど経った頃だっただろうか。
「いいのか?」
「はい、もちろん!この子、女の子なんですよ。」
営業スマイルを浮かべた店員に勧められ、青年は傍にあった消毒液で手を消毒した。
店員に手を引かれておっかなびっくりという風にゲージから出てきたその愛玩動物は、青年を見上げてポカンと口を開けた。その様子がなんとも可愛らしく、青年は自然と目じりを下げた。
店員から手渡されたその愛玩動物は、自分の胸よりも随分と下のほうに頭があり、青年の腕ならば片手でひょいと持ち上げられるほど小さい。着せられている衣服から出ている腕や足は細く、体毛は見られない。
そっと両腕で抱き上げてみると、「ひゃっ」と高く可愛らしい声を漏らしながら胸元にしがみついてきた。間近で見た愛玩動物は腕や足こそ体毛が無くつるつるすべすべとしていているが、頭の毛だけは黒く艶々と長く、その先がさらりと青年の腕を撫でた。少しこそばゆい。
「...小さく細いな。これは子供なのか?」
「えぇ。生まれたてではありませんが、あと数年もすれば立派に成長しますよ。」
なるほど、と青年は今一度自分の腕に抱いた愛玩動物を見下ろす。
店員と言葉を交わしている間は恐らくじっと自分の顔を見上げていたのだろうが、視線が合うとすぐさまパっと逸らしてしまう愛玩動物に、青年は出来るだけ怖がらせないようにと、だがじっくりとその様子を観察した。
肌は全体的に白くハリもあるから、健康状態は良いのだろう。売り物だから当たり前なのだが、店員に乱暴に扱われた形跡も見当たらない。
身体の作りはどこもかしこも小さく、青年が少し力をこめると折れてしまいそうだから、この愛玩動物が無駄に反抗せず大人しくここまで連れてこられたことに安堵を覚えた。
たまに、ペットショップに連れてこられる前に随分と暴れて手酷い扱いを受ける場合があると耳にしたことがあるから、青年は心底この愛玩動物が大人しい気質で良かったと思った。
それにしても、小さい。指はまるで糸のように細く、こんな手では何も掴めないだろう。
顔のパーツも小さい。口など、恐らく一番大きく開けたところで青年が普段食べている肉の塊の端すら噛み切れないだろう。
ただ、瞳だけは他のパーツに比べて大きいと思えた。先程ぽかんと口を開いたときに、瞳も最大限に見開かれていたのだが、ポロリと零れ落ちるのではないかと一瞬思った。
青年は恐る恐る艶々の黒髪に手の平を滑らせた。その感触のなんと滑らかなことか!
青年は熱心に黒髪を撫で続け、店員はその様子に内心ニヤリと微笑んだ。
「この子は今朝入ってきたばかりですが、けっこう気にして立ち止まるお客様がいらっしゃるんですよ。」
もしかしたら、明日あたり引き取りに来られるかもしれません。と店員が言うやいなや、青年は焦ったように視線を愛玩動物から店員へ向けた。
「...これの詳しい飼い方を教えてくれ。」
こうして、珍しい愛玩動物は今日手にしたばかりの臨時ボーナスを全額はたいた青年にお買い上げされることとなったのだった。