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3-2

 きっと、宝船はあの場で自分の素性が暴かれることを避けたかったのだろう。普段の彼女のキャラからは考えられない素性の隠し方をした時点で気付くべきだったのだが、あの時の僕は色々と動揺してしまって、考えを正確に纏められないでいたので仕方ない――とはいえ、気付けなかったのは僕である。反省。


 宝船は珠玖泉高校では優等生として通している。そんな人物が『アニメテオ』などというオタクショップに入り浸っていることが知れたら学校での宝船の評判はどうなるか。


 別にオタクという人種が悪いものだと言っているのではない。アニメやゲーム、漫画やライトノベルは素晴らしいものだ。僕はそれを胸を張って言うことができるし、特に理由もなくオタクを毛嫌いしている人々の方が間違っていることも知っている。


 だが、それは僕の考えであり、それはオタクな人々の考えであり、世間の考えとは食い違う。


 価値観の相違――自分にとっての主観と他の誰かにとっての主観は悲しいほどに違うのだ。


 僕にとってオタクは正義だ。しかし、他の誰かにとってオタクという人種は悪かも知れない。


 宝船はそんな価値観の相違を恐れたのだろう。


 オタクだからと言って学校での宝船の評判が絶対に下がるという訳じゃない。だが、確実に今まで宝船のことを優等生として見ていた人々の中から違った見方をする者が現れるだろう。


 世の中とはそういうものだ。


「僕に自分がオタクだと学校に言いふらされると思ったのかねえ……」


 電車から降りて、改札口を出た僕は家への道を1人歩きながらそんなことを呟いた。茜色に染まった住宅街はとても閑静で素晴らしく心地よい。


 宝船のためにも今回のことは誰にも口外しない方がいいだろう。いや、元々彼女があんな場所にいたという事実を他の誰かに言いふらすような真似をするつもりはなかったが。


 僕は自分がオタクだという事実に誇りと似た何かを持っている。だから、僕は他の誰かにオタク趣味が露になったとしても特に何も思わないし、特に何も感じない。


 けれど、だからと言って、宝船の気持ちが全く分からない訳ではない。


 オタク趣味はオタク文化への耐性がない一般人に対してそう易々と暴露していいものではない。そこら辺にいる人に突然「あのさ、あのアニメの○○たん可愛いよね」とか言っても気持ち悪がられるだけだ。それとも、宝船のような超絶美少女が言えば気持ち悪がられないのだろうか。それだと何だか傷付くが。


 ……とにかく。


 自分がオタク趣味を持っているということが周囲の人間に知れた時、どれだけ仲の良い人物でも、オタク趣味に全くの耐性がない人物ならば、その時点でその人物との今後の接し方は確実に変わるだろう。何度も言うがオタク趣味が悪いと言っているのではない。


 僕は世間体の話をしているのだ。


 あからさまにオタク趣味を露見させている僕が世間体の話をしても説得力は皆無かも知れないが。


 だから、きっと、宝船はその世間体のために、僕の前で偽名まで使って何とかその場を誤魔化そうとしたのだろう。


 彼女にだって大切なものがある。


 それはきっと僕よりもたくさんあって、それはきっと僕なんかじゃ抱え切れないような大きさのものなのだろう。


 これが、今回の一件で、僕が僕なりに考えて、分かったことだ。よって、ひょっとしたらどこか間違っているところがある可能性がある。その時は素直に謝るしかない。


「あっ、直斗ーっ!」


 住宅街の家と家の間に延びる道路を歩いていると、聞き慣れた声が僕の耳を打った。顔を上げれば、僕の家の前でこちらに向かって手を振っている彩楓の姿がそこにはあった。

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