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2-6

 普段、帰り道にこの店に寄ることは少ない。それは彩楓とほぼ毎日帰宅を共にしているからだ。無論、彩楓は僕がオタクであることを知っているため、僕がこの店によく通っていることも知っている。だから、以前彩楓からこんなことを言われたことがある。


「私のことなんて気にせずに行ってくれていいのに。てか、一緒に行こうか?」


 その提案を僕は即刻断った。彩楓と一緒にこんなオタクショップに入るなんて無理である。彩楓は僕のために言ってくれているのだろうが、幼馴染を連れてこんなところに入れるほど僕の精神は鍛えられていない。絶対に気まずくなるに決まっている。その雰囲気を想像するだけでも顔が引きつるというのに。


「さて、入りますか」


 実際の所、今日彩楓に用事が出来たのは僕としては都合が良かった。何故なら、今日は僕が買い続けている『銀翼の祈祷師』というラノベのシリーズの最新刊が発売されるからだ。しかも、この『アニメテオ』で購入すると最新刊に担当しているイラストレーター描き下ろしのポストカードが特典として付いてくると言うのだからもう買う以外の選択肢がない。


 この『銀翼の祈祷師』というライトノベルは中々人気が高く、イラストレーターも業界の間では有名な人が担当している。だから、その最新刊にポストカードが特典として付属するという情報がネットに流れた際に「これは戦争になる」と皆が口々に言っていたのだが、出版社側からの配慮か、購入者全員サービスだということが明らかになり、僕を含め『銀翼の祈祷師』のファンは安堵の息をついた。


 ポストカードはどんなイラストなのだろう――期待に胸を膨らませ、僕は『アニメテオ』へと足を運ぼうとして、店の入り口の前にいるあからさまに怪しい人物に足を止めた。


 黒い帽子に黒いサングラス、それから足の辺りまである長く黒いコート――見るからに怪しい。


 唯一分かるのは性別くらいのものだった。腰の辺りまで伸びた黒い髪――男である可能性も否めないが、おそらくあれは女性だろう。


 女性としては比較的背の高いその全身真っ黒な人物は周りをキョロキョロと(しき)りに見渡している。まるで何かを警戒しているような、そんな感じだ。それから、顔を左右に振っているところで気付いたのだが、どうやらあの女性は顔に白いマスクまで装着しているようだ。


 何なのだろう、あの人。


 強盗さんなのかな?


 そして、周囲の人間が怪訝な視線を自分に向けていることに(ようや)く気付いたその女性は驚いたように体をビクつかせると足早に『アニメテオ』の店内へと姿を消した。


「…………」


 何だろう。


 嫌な予感しかしない。


 先程、最新刊に付属するポストカードは購入者全員サービスと言ったが、配布期間にはやはり制限がある。確か、発売後1週間までの限定配布だったか。


 今日が発売日なのでまだ配布が終了するまでは1週間の猶予がある。だから別に今日は一旦家に引き返して明日買いに来てもいいのだが……どうしよう。


「うーん……明日も彩楓の部活が長引くとも限らないしなあ」


 やはり、学校の近くにある場所には放課後についでに寄るというのが一番効率が良いような気がする。それに、僕は学校へは電車通学なので、週末まで彩楓の部活が今日のように長引かなかった場合、休日に態々電車賃を支払ってまでここまで来ないといけないことになる。


 ポストカードは欲しい。


 でも、休日にここまで来るのは面倒だ。


 だとすれば、残された道は1つ。


「はあ……行くか」


 溜息をついて、僕は『アニメテオ』へと歩き始めるのだった。



 ◆ ◆ ◆



 先程も言ったように『アニメテオ』はこのビルの3階の一角に位置する。ビルの一部にしか店舗を構えていないとはいえ、外の壁に大々的に店の名前を載せているというのは、それだけ『アニメテオ』が市場に影響力を与えうる店舗だからである。


 どうやら、都会の方にはビル丸々1つが『アニメテオ』の店舗であるところもあるらしい。この辺りは田舎なのでまだまだ店舗は小さいが、これからも『アニメテオ』の店舗は拡大化を続けていくだろう。最終的には、このビル全てが『アニメテオ』のものになるかも知れない。

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