Down the Rabbit-Hole -ようこそ、不思議の国へ-
鳥のさえずり。
吹き抜ける風。
そして
「ねぇ、起きて? …ねぇったらぁ。」
揺さぶりながら掛けられる声に、アリシアは目を覚ました。
「ん…。頭いた…。」
鈍く痛む頭を押さえながら上半身だけ起き上がると、小さな何かがぶつかるように抱きついてきた。
「よかったぁ!!死んじゃった人かと思ったの。
おねえちゃん生きててよかったぁ。」
腕の中で物騒な事を言い放ったのは、5歳くらいの少女だった。
頭にうさぎの耳のついた、変わったカチューシャをしている。
状況がいまいち理解できないが、とりあえずお礼を言っておく。
「心配してくれてありがとう。
えっと、あなたは…?」
すると、少女はいきなり立ち上がった。
「そうだった!!
お客様に初めて会った時は、自己紹介からするっておにいちゃんに教えてもらったのに…。
ごめんなさい。
わたしは56番目の三月ウサギです。よろしくおねがいしますっ」
スカートの端を持ち上げてお辞儀をして、立てる?と手を差し出してくれた。
ありがとうと言い、それに掴まり立ち上がる。
そして自分も自己紹介をしようと口を開いた時、少女が不思議そうな顔をして
「ねぇ、おねえちゃんは"次のアリス"なの?
それとも"次のキャスト"なの?」
と聞いてきた。
「"次のアリス"…?
"次のキャスト"…?」
何のことかさっぱりわからない。
それよりもまず、
「ねえ、ここはいったいどこなの?」
アリシアの質問に、少女は大きな目をぱちくりさせた。
「ここ?
ここは不思議の国だよ。
おにぃ…じゃなくて、白ウサギさんにお名前もらったでしょ?」
不思議の国…?
自分はそんな名前の国に住んでいただろうか。
思い出そうとしても、記憶に靄がかかったようになって何も思い出せない。
とりあえず白ウサギなんて人物には出会っていないので、首を振った。
「そうなの!?じゃあ、一番最初にわたしがご対面、だね。
えへへ、うれしいなぁ。
おねえちゃ…じゃなくて……あ、そっか。お名前もらってないんだっけ。
そ、それはちょっと大変だよっ
お名前がない人は、この国から消えちゃうの。
急いでおにいちゃんの所に行って、お名前もらわなきゃっ」
言うが早いか、少女はしゃがんで草の茂る地面をノックし始めた。
「おにいちゃん、わたしだよ。三月ウサギだよ。」
すると、少女の目の前に人一人分くらいの穴がぽっかりと現れた。
「それではおねえちゃん、行くよっ」
未だ状況が理解できていないアリシアを余所に、少女はアリシアの腕をしっかりと掴んで、真っ暗な穴へ飛び込んだ。
不思議な穴に吸い込まれながら、アリシアの意識はまたしても途絶えた。