An invitation of Wonderiand -招待状をどうぞ-
「あれ、もうこんな時間?」
窓から差し込む夕日に、アリシアは本のページを捲る手を止めた。
「いっけない、夕飯の用意しなっくちゃ。」
読みかけのページに栞を挟み、テーブルに置いて書庫を出る。
中庭を突っ切ってキッチンへ向かおうとしたが、ふと足を止めて玄関へ急いだ。
そして、恐る恐るポストを開けて
「やっぱり、今日もないかぁ…。」
と深いため息をついた。
「お父さん、大丈夫なのかなぁ…。」
アリシアの父、ルイス=キャロルは作家だ。
アリスという少女を主人公にした『不思議の国のアリス』、『鏡の国のアリス』で一躍有名になった。
のはよかったけれど、そのおかげで大勢の貴族達から「自分の子供をモデルにした物語をつくってほしい」や、「次はこんな話が読みたい」等と注文が殺到してしまい、それに応えるため、近隣諸国を飛び回る羽目になってしまった。
父が旅立つ時、アリシアはまだ幼く身体が弱かったので、祖母と一緒に家に残った。
父は相当忙しかったらしく、ほとんど家には帰ってこなかったが、手紙はマメに寄越していた。
特にアリシアの誕生日には1度も欠かすことがなく、小さな物語まで付けてくれた。
アリシアは今日、17歳になった。
頻繁に送られていた手紙は、もう7年も前から途絶えている。
父を信じて一緒に待っていた祖母も、もう3年前に亡くなってしまった。
それでも、アリシアは父の帰りを待ちながら1人明るく暮らしている。
「さぁて、今日のご飯は何にしようかなぁ。」
ポストを閉めて、少し危なっかしい足取りでキッチンへ向かった。
キッチンに入ると、調理台の上に一通の手紙が置いてあった。
「あれ、今日は手紙なんて来てないはずなのに…。」
よく見てみると招待状のようだ。
不思議に思い、封を切った。
すると、突然手紙から黒い霧のようなものが辺りに立ちこめた。
それは、あっという間にアリシアを包み込んだ。
頭がくらくらして、全身の力が抜けていく。
重たい瞼を必死に開けると、テーブルのうえのジャムターツが見えた。
そして、小さな鈴の音を最後にアリシアは気を失った。