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第七話 起床

 白い光が視野に飛び込んできた。

 「――――」

 眩しい。一番最初に感じたのはそれだった。

 止めろ、もう少し寝かしてくれ。今はとても疲れてるんだ。

 懇願するように俺はきつく目を瞑る。それでも容赦なく飛び込んでくる白光は、目蓋の一本一本の血管がくっきりと見えるほど強く、俺に起きろ、目を覚ませと理不尽に命令をしてくる。その命令はどうやら拒むことを許さないらしい。視神経から通った情報は脳に伝達され、眠気が流れるように消えていくのが感じられる。

 分かった。起きればいいんだろ?

 少しやけくそ気味に勢いよく布団を剥いだ。

 「――――っ」

 霧が晴れるように視界が広がっていく。

 そこには見覚えのある空間が広がっていた。周りを見渡すと、清潔さを形にしたとばかりに真っ白い空間があり、そこにあるベッドの内の一つに俺は横たわっているのに気がついた。

 何故だろうとしばらく思考し、納得する。……あぁそうだった。確か俺はあの男に殺されかけて、気を失ったんだ。きっと誰かが俺たちを見つけて救急車でも呼んでくれたんだろう。死んで天国に来たわけではない事を祈るか。

 体の節々を動かし問題が無いか確かめる。打ち身や擦り傷などがあって多少動きづらいけれど、特には支障はなさそうだ。ひとまず病室を出て、医者か看護婦に目覚めたことを知らせようと、何か履き物を履こうと下を見た。

 「……はい?」

 何故か。

 そこには、何故か寝袋に入ってすやすやと眠る風流美月の姿があった。

 思考が一瞬間停止する。

 何故だ。

 どういう事だ。

 一体何が起きているんだ。

 普通に暮らしていて体験することはないだろう有り得ない状況に頭が混乱する。本当にどういうこと? 少しの間でも現実逃避をしようと一旦布団をかぶり直し、三十秒数えてからもう一度下を見る。

 「すー、すー」

 予想通り全く同じ光景が眼前に広がっていた。先と変わらず安らかな顔で気持ちよさそうにすやすや寝ている。

 「ってか、おい起きろ」

 さすがにこのままにしておけないし、この寝袋少女を起こすか。もう一度履く物がないかベッドの周りを探して見たけれど、履く物どころか埃さえ見当たらない。仕方なく裸足でベッドから降り、美月を揺らす。

 「おーい。起きろー」

 「ん、ん~」

 少し煩わしそうに身じろぎしただけで全く起きる気配はない。もう少し強く揺する。

 「んっ、ん~。あと、五分」

 「ベタな反応だな。起きろ。目覚めろ」

 「あと十分」

 「増えてるし」

 「あと五光年」

 「それは距離だ」

 しかも結構な距離あるし。

 「ボケてないで早く」

 「すー、すー」

 そうこうしているうちにまた眠り込んでしまった。さてどうしよう。

 この女の子が病院の床で寝袋に入って寝ているシュールな光景。それをパジャマ姿でじっと見る少年。誰か通った人に勘違いされそうだ。

 「本格的に起こさないとな」

 どれだけ揺すっても駄目だったし、生半可のことのことでは通じないだろう。しばし考え俺はとある方法を思いつく。うむ、これなら確実に眼を覚ますだろうな。

 「恨むならば自分の眠りの深さを恨め」

 寝袋の端をしっかりと掴み、

 「せいっ!」

 思いっきり転がしてやった。ごろごろと凄まじい勢いで転がっていく美月。ちなみに俺が寝ていたベッドは入り口に最も近い場所に位置しており、美月が寝ていたのは廊下側。そしてドアとベッドの間に障害物は存在しておらず。

 「うぅぅぅぅぅぅぅいだっ!」

 美月は壮大な音と共にドアにぶち当たった。

 「うー、うー、うー」

 美月は蓑虫状態でのた打ち回った後、脱皮するようにして寝袋から這い出てきた。一種のホラーシーン。

 「あいたたた」

 寝ぼけ眼を擦りながら起き上がり、美月は周りを見渡していた。キョロキョロと首を動かす様はリスにどことなく似ていた。笑いを堪えようと口を塞ぐ。面白い。

 美月は俺に気付き驚いた様子だったが、事情を察したのか不愉快そうにこちらを見る。

 「何笑っているんですか」

 足を曲げぺたりと座り込み、ジト目で睨んでくる。それに対し俺は出来る限り爽やかな顔で挨拶した。

 「あ、おはよう。起きた?」

 「そりゃごろごろ床の上を転がされた挙句ドアにぶつかりましたから。しばらく痛みに耐えなくてはならないほどに」

 絶賛不機嫌中だった。というか寝起きなのに頭の回りが速いな。とりあえず。

 「申し訳ございませんでした」

 「別にいいです。そもそもこんな所で寝ていたのが悪かったですし」

 「いえ、僕が全て悪かったです」

 「気にしないで下さい。けれど、次回同じようなことがあったら優しく起こしてください」

 同じようなことが起きないで欲しい。こんな特殊な場面にもう二度と出くわさないことを願うか。

 「それに桜井さんに用事があってここに来たんですから」

 美月は立ち上がり服のしわを伸ばしながら言った。

 「はぁ、俺に」

 ということは恐らく・・・・・・吸血鬼についてだろうな。実際に被害にあった人物に話を聞こうってところか。

 「大体予想ついているみたいですね。それではちょっと場所を変えませんか? 少し混んだ話なので」

 「分かった。んじゃ行こう」

 美月が寝袋をベッドの下に仕舞った、いや隠したのを確認すると一緒に部屋の外を出た。

 

 年内に投稿することが出来た・・・・・・!

上旬に公開する予定だったのに、結果はこれ。

もっと精進せねば。

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