第三話 戦闘
11/4/23 文章追加
「ん~、やっぱり記憶とか消さなくちゃいけないのかな」
目覚めていく意識の中、最初に聞いた言葉がそれだった。
「でも、まだ忘却は完全に出来ないし、失敗したら何が起こるか」
うっすら目を開ける。
見えてきたのは先程の少女だった。そして俺は何故かその少女に膝枕をされていた。
あれ、何で俺生きてるんだろう。まだ完全に冴えていない頭を無理矢理働かせ考える。確か俺は頭を撃ち抜かれたはず。魔力が高密度に圧縮された魔弾によって。なのに何で生きている?
・・・・・・。
いや、そもそもあれに殺傷能力がなかっただけなのかもしれない。なら生きているのは別段不思議でもないか。
そんな風に自問自答し終わり、少し冷静さを取り戻した俺は、少女の方を盗み見る。
「ん~」
目を瞑って真剣に何か考え事をしていた。そういえばさっきから記憶がどうのこうのと言っていた気が。とりあえず放っておこう。大したことじゃなさそうだし。
「あ、そうだ。おもいっきり弾をぶつければ記憶なんて吹き飛んじゃうよね」
全くもって大したことじゃなかった。
「ちょ、ちょっと待てぇ!」
「きゃあ!?」
突然の殺人宣告に驚き、制止の声を掛けると同時に体を勢いよく起き上がる。
「……」
目の前で少女は口を開けてぺたんと座り込んでいた。今何が起こったか分からないといった様子をしている。
「ん?」
「え?」
違和感を感じ、じっと少女の顔を見る。うまく言葉に表せれない。けれど確かにさっきまで草原に佇んでいたときと、今目の前にいる少女は何処か違うものを感じる。なんというか、雰囲気そのものが変わっている。先程は神聖でずっと遠くの高いところにいる雰囲気を持っていたが、今は年相応の(と言っても年齢は知らないけれど)空気を纏っていた。
少女は急いで立ち上がり、おずおずとしながら訊ねてきた。
「あ、あの」
「はい」
「大丈夫ですか? 頭を思いっきり打ち付けていたようですし」
「全然、なんともないです」
「そうですか。良かった」
少女は安心した表情を見せる、そう言った。その直後にハッと何か大切なことを思い出したとばかりに勢い良く訊いてきた。
「あの、さっきのって見ました?」
必死な形相で問いてくる少女に気圧されながらも、「さ、さっきの光の群れ?」と確認する。
「はい。と言うことは見たんですね?」
「多分そういうことになるんじゃないかな」
少女はそれを聞くと、深呼吸をした。俺もそれに倣い深呼吸する。なんだか落ち着いた。その代わり嫌な汗が出てくる。
嫌な予感。
片腕を上げ俺の方に手のひらを向ける。少女の周りにオーラのようなものが揺らめいているのが分かった。あれ、もしかして魔力なのか。とんでもない量だぞ。
「それでは――忘れさせて頂きます!」
目の前に魔力が一気に集まっていくのが見え、咄嗟に右に跳んで弾を避ける。空気を薙ぐ音が聞こえた。
コンマ数秒の差で少女が放った光の弾が、俺の元居た位置に寸分の狂い無く中る。固いものを無理矢理抉るような今までに聞いたことのない重低音が耳に届いてきた。
見るとそこには一メートル四方のクレーターが見事に出来ていた。背筋が凍るのを感じる。
「記憶が飛ぶどころじゃねぇだろうがあああぁぁぁぁぁぁ!」
むしろ首が吹っ飛ぶ。あるいは砕け散る。全く洒落にならない。
「いいんです。これくらいの方が丁度いいんです!」
「いや明らか度を超えてるだろ!」
返せ。俺の純情を返せ。今のドキドキは明らかさっきまでのものとは違う。切ない思いは死ぬ思いに変わってしまった。全く、一体どんな変化だっていうんだ。
「つーか記憶消す必要はないだろっ」
「魔術を見られたら消さなきゃいけない決まりなんです!」
「頭も消し飛ばさなきゃいけないような決まりじゃなかったはずなんだけど!」
それでは恐怖の規則になってしまう。いや、なってしまっているのか、現にこうして。
俺の言葉は届いていないのか、今も尚少女は魔弾を繰り出している。その魔弾は一向に俺に当たらず、少女は苛立ちを露わにしていた。その結果、弾は俺に当てるどころか、どんどん遠ざかっていっている気がする。それ自体は嬉しいことだ。あんなもの食らったら一溜まりもないだろうし。
けれど。
俺は避けながら地面を見る。そこはもう荒れ地と言っていいほど破壊されていた。土は掘り起こされ、生々としていた草は見るのを躊躇われる程酷い状況に俺はまずいなと思った。ここに通うようになってから二ヶ月、少しばかりだが思い出の詰まったこのお気に入りの場所が崩壊していく様を俺は見たくはない。けれどどうすればいい。あの魔弾を止めるには本人を止めるか、魔弾を完全に防ぎきって相手の魔力を消費させ切るしかない。俺が障壁を出して、果たしてどれほどの数の弾幕を防ぐことが出来ようか。
「ちょこまかと――! いい加減忘れてください!」
「自分に頭があった事をか!?」
生きている実感ならすでに忘れたというか、どこかに置いてきてしまった。多分そこら辺を探せば見つかるだろうよ。
少女を見る。新たに弾丸――しかもさっきより大きいものを打ち出そうとしている。しっかり密度を保っているところを見れば凄いというか、酷いというか。
ちっ、と舌打ちをする。何か方法はないのか。相手を無力させる『何か』。相手の攻撃を防ぎきる『何か』――――。
そこであることに気がついた。そうだ。防ぎ切らなくてもいい。相手は一般人に魔術を見られたがためにこのような殺戮行為をしてるんだ。なら相手に自分が一般人ではないことを解らせればいい。
右手に魔力を籠める。自分の脳から魔術の構成を出力する。自らに、世界に働きかけるように呪文を紡いでいく。
<Load [Protect] Stand by, start>
何かが末端神経の一本一本から脊髄を通り右腕の神経を駆け抜け、右の手の平より放たれる。
硝子が割れたような儚く幻想的で現実的な音が響き渡る。すぐそばにまで迫っていた魔弾は手のひらを中心とする蒼く円い障壁に阻まれて霧散した。役目を果たしキラキラと輝きながら散っていく障壁。俺は上手く魔術が行使されたのに安堵する。そして少女は。
「早く忘れなさい!」
俺の魔術行使に気付いていないらしい。というよりも見てすらいなかったみたいだ。
「ま、待てよ! さっき魔術を使ったの見ただろ!」
「魔術って、そんなものあるわけないです!」
「んじゃあお前が今使ってるものは何だ!」
魔術師が魔術そのものを否定するとか何事だ。そんなんで正常に行使できるものなのか?
「ほら、槍が現れたぞ。しかも青色に少し輝いている! 不思議だろ」
障壁を捨て、槍を魔力で生成する。あまり長時間の展開は無理だが、相手を納得させるという目的には相応しいだろう。何も無いところから出現させたんだ。手品とか思われない限りこれで十分――
「そうですね。不思議ですね」
「そこは魔術を使っているわぁあなたも魔術師だったのですねだろ!」
ではなかった。全く理解されていない。おいそこの少女よ。いい加減気付けよ。俺は魔術師だ。
会話により少し冷静さを取り戻してきたのか、魔弾の狙う位置が速く、そして的確になってきた。一定方向へ逃がし、態勢を崩すように周りを打ち抜き、回避できない箇所へ止めの一撃を打ち放つ。例え回避されても相手の体力を奪う事が出来るため、決して無駄な行為とはならない。この集束率と技術。並大抵の鍛錬では実現は不可能だろう。ここまで精密な射撃だともう混乱なんてしていないのではないかと疑ってしまう。焦った状態でこんな技を繰り出せないだろうし。手に持った槍で幾つかの集束弾を弾こうとするが、たった一つに中っただけで霧散してしまった。かなり強度があるな。込められる魔力量は相当な量だ。身体に魔力を通し軽く身体強化する。もはや体力勝負、長期戦を覚悟したほうがいい。気合を入れ次の襲撃に備えようと構えた。
が、その次がなかなかやって来ない。不審に思い少女を見ると、片腕を上げた状態で、会話前と同じように茫然と立ち尽くしていた。
「え、あれ・・・・・・? もしかして、魔術師さん?」
ようやく気付いてくれたみたいだ。
戦闘開始から早二分弱。なんとか少女の魔弾から逃れることが出来たのだった。
数週間ぶりの投稿。
三日間の定期テスト。
テスト明けの休みをフルに使っての執筆。
帰ってきた答案たち。
親の生暖かい目線。
親の一言「次はもっと頑張りなさい」
私は死地から帰ってきた。
ということで、またしばらくは執筆に専念出来そうです。
あとがきとか感想文とか苦手なので、ここらで。
それではまた次話で。