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第二十一話 約束

今回は今までよりも長めです。

覚悟して(?)読んでください。

では、どうぞ。

 食器類の片付けを終えた後、俺は幸音と一緒にお喋りを楽しんでいた。最近こうしてゆっくり顔を合わせる時間がなかったからか、それとも明日戦地に赴くからか、俺は無性に幸音と話をしたくなった。

 リビングのソファーに隣り合って座り、学校でのハプニング、周りで起きた珍しい出来事といった、他愛無い話をする。思えば小学生の時からずっと、幸音と何か話すときはここに座っていた。

 両親が家を空けるようになり、一週間に一度しか帰って来ない時がしばしばあったあの頃、俺は妹と二人で過ごすことが非常に多かった。放課後の時間や休日はそれぞれ魔術の鍛錬、または授業があったので離れてはいたが、それ以外はずっと一緒だった。仲良く食事を摂り、仲良く話し、仲良く一緒に寝た、平穏そのものだった日々。全ての喜び、怒り、悲しみを共有してきた日々。言葉を交わした、心を交わしたあの時間があったからこそ、俺たちは仲良くやっていけているのかもしれない。例え、外部から様々な影響を与えられたとしても、きっと永遠にこの絆が切れることはない。

 「どれで千雨ちゃんってば、そのまま頭からバケツの中に突っ込んじゃってもう大変。しかも水が入ってたから、頭はぶつけるし、制服が濡れて下が透けちゃうしパニックになっちゃって」

 「ご愁傷様だな。本人災難、男子役得って感じだな」

 「千雨ちゃんには心の底から同情するよ」

 憐憫の色を帯びた目をし、幸音はぱちんと手を合わせた。ご愁傷様という意味合いだろう。本当にその千雨という子にとって災難に他ならない。

 「・・・・・・」

 「・・・・・・」

  話し始めて十数分が過ぎた頃、ふと会話が途切れる間があった。理由もなく黙り込む俺たち。

 時計の音がやけに大きく聞こえる。コチコチカチカチと機械的な音が部屋に響き渡る。時が止まっている。隣に座る幸音は顔をこちらに向けじっと俺を見据えていた。どうしたと訊く。

 「最近よく十時辺りに帰ってくるから、何かあったのかなって思って」

 いつか、必ず聞いてくるだろうと考えてはいたが、俺は答えに窮した。まさかここまで直球で疑問をぶつけてくるとは思わなかったのだ。自然と目線が膝元まで下がる。固く組まれた自分の手がくっきりと紅白に分かれる。

 内心の動揺が伝わったのか、幸音はやっぱりと眉を下げ心配そうな顔で覗き込んでくる。

 「それは、私に言えないような事?」

 その言葉は、過去の兄妹の姿からはあり得ない疑いだった。

 「・・・・・・」

 何も言えず黙りこくってしまう。

 言えない。

 言える訳がない。

 俺が死ぬ可能性のある戦場へ行くのだと聞いたら、幸音は必死の想いで止めようとするだろう。もし幸音がそのような事を言うようだったら俺は問答無用で引っ叩くだろう。

 家族を危険に晒したくはない。誰も、誰かが傷つくところなんか見たくはない。その気持ちは同じはずだ。

 ・・・・・・ならば、自分勝手に、自己判断で戦いの場へ出ようとする俺は一体なんだ。家族に一言も告げずに出ようとしていた俺は。

 愚か者なのだろう。

 大馬鹿者なのだ。

 それ以外の何でもない。

 先ほどまで自分がしようとしていた行為は家族に対する裏切りだ。信用していないと言っているようなものだ。俺が魔術を身につけ、何を守ろうとしていたのか。大切な人を守るためではないのか? 守る手段として選んだ魔術によって死ぬ。そうしたら俺は道化以外の何者でもない。

 家族を信じろ。幸音に全てを伝えるんだ。妹の目をしっかりと見る。今までの事、明日の事を伝えよう。適当な量の空気を肺に取り込み、第一声を発しようとした。

 「言わなくてもいいよ?」

 しかし、幸音がそれを遮った。

 「隠してたってことは、言いたくない事か言ってはいけない事なんだよね。どっちなのか、それとも両方なのか分からない。でも、私は隠したままでも全然大丈夫。無理して明かせなんて言わない。だって強要したって仕方がないもん」

 幸音は目を伏せ、今まで見た事のない、大人びた、それでいて穏やかな面持ちで伝える。普段ののほほんとした、能天気な幸音とは懸け離れた気色。これまで共に過ごしてきた中で初めて見る幸音だった。

 「心の底からそう思ってる。別に家族だからって何もかも明かしたり、教えたりする必要はないんじゃないかな。強要するなんてもってのほか。やっぱり行き過ぎはよくないし、逆に相手のこと全部知ってたらちょっと気持ち悪いかも」

 結構難しいねと、幸音は困った顔で笑い、幸音は先を続ける。

 「でも、私の考えだけど、やっぱ頼ってほしいかな。幼い頃から一緒に暮らしてきたんだよ? 遠慮なんてして欲しくない、遠慮なんていらない。些細な事でも、重大な事でも相談して欲しい。自分一人で抱えきれなくなったら頼って。悩みがあるならばしばし言って。迷惑だなんて思わない。むしろ嬉しいくらいだから」

 ソファーの前に置かれたガラス製の丸テーブルの上には、マグカップに入ったココアがある。既に冷め切っていて、湯気などとっくに消え去っていた。マグカップの中を覗くと自分の目がゆらゆらと映っている。見た事もない混沌に満ちた瞳が真っ直ぐ俺を見据える。気がふれそうになり視線を外へ逸らした。

 「ん、自分で何言ってるのか分からなくなってきちゃった。えっと、とにかく、私が言いたい事はね」

 視線と視線がぶつかる。彼女の熱意、不安が流れ込んでくる。

 「少しは”家族”を頼って。私はお兄ちゃんに昔から頼ってきたから。病弱だった私に、いつも外の楽しい話を聞かせてくれたり、親身になって世話してくれたり。私は恩返ししたいの。大好きな、お兄ちゃんに」

 温かいものが心に広がっていくのを確かに感じた。ようやく気付く。俺の命は俺だけのものではないという事。蔑ろにしてはいけないんだ。そしてもう一つ気付いた事、幸音はもう子供じゃない。自分の考えをしっかりと持ち、自分の足でしっかり歩けるまでに成長したんだ。

 「・・・・・・ありがとう。お前みたいな妹がいて、俺は誇りに思う」

 「そんな、いきなり褒めてどうしたの? 私は昔から最高の妹だって自負してるよ?」

 えっへんと胸を張る幸音。普段よりも可愛く且つ頼もしく見える我が妹に、俺は一つ約束をしようと考えた。小さな、けれど大切な約束。

 「なあ、幸音」

 「なに?」

 「約束、してくれないか?」

 「約束・・・・・・どんな?」

 俺の発言からやや間を空けて幸音が訊く。先程よりも不安の色が濃い気がするのは気のせいではないだろう。

 「もし都合が良かったらさ、明後日この家で待ってくれないか。それで、俺の帰りを出迎えてくれ」

 その内容に首を傾げる。いつも通りじゃない? と言外に訊いていた。

 「別に無理にとは言わないけど」

 なるべく強要と取られないようにそう付け足す。が、それが気に入らなかったらしく幸音はわざとっぽくこほんと咳払いすると、ぴしっと指を突き出した。これまた可愛く且つ頼もしく感じる。

 「別に無理にとは言わないけど、じゃないよ。我が家の長男らしく『明後日は家にいろ!』ぐらいは言わないと」

 「強要なんてもっての外って聞いた気がするけど」

 「強要じゃないよ。兄としての威厳を持ってもらいたいだけ」

 「そうなのか」

 「あと、私の考えはしょっちゅう変わるから」

 「駄目じゃん」

 「安心して。いつでも頼ってほしいって想いは変わらないから」

 花が咲いたような笑顔は、ついに俺の胸の内にある淀みを綺麗に消し去った。心に羽が生え、大空を舞っていくイメージが浮かび上がる。

 俺は思う。

 二週間前の自分は一体何を考えていたのか。桜井悠太、十六歳、高校生の三つだけで説明の足りる人物だと考えていた。違うだろう? そうじゃないだろう? 家族とか、友人とか、様々な人たちからの助けや支えがあって、初めて自分が成り立つんだ。いわば、”今の自分”は様々な奇跡に巡り合って存在しているんだ。他の人たちや自分の身を守れるように? 素晴らしく高貴な思考じゃないか。けれど、それは自分の身を犠牲にした上で成り立たせるものではない。何故守りたいと思う。平和が、平穏が好きだからだろう? いつまでも皆が笑顔でいられるなら、どんなに幸せな事か。そう考えたからだろう。ならそれらは何かを犠牲にした上で成り立たせるものなのか? 否、そうして形成された平和は偽物でしかない。

 おい、桜井悠太。自分を大切にしろよ。危険地帯にわざわざ突っ込んでおいて死ぬなよ。元よりこうなることは分かっていたなんてほざくなよ。お前が消えて泣くやつがいる事を忘れるな。お前の理念を叶える最低条件は一つ。生きる事だ。守れ。全てを守り抜け。さもなくば、必ず地獄に叩き落してやる。

 「ねぇ、お兄ちゃん」

 「どうした」

 「私からも一つ約束して」

 「あぁ、分かった」

 「明々後日しあさって、一日デートして。必ず、拒否は不可です」

 「拒否は出来ないのか」

 「何があっても絶対だよ」

 再度指を突きつけ、これは命令ですと言わんばかりの勢いで告げてきた。

 「はぁ、分かった。約束する」

 「本当?」

 「本当だ」

 念に念を押す幸音に俺は淀みなく返答する。

 「嘘つかない?」

 「つかない」

 「誓って?」

 「誓って」

 互いに笑い合う。緩やかな時間を楽しむ。

 「絶対、だよ」

 寂しげに呟いた幸音の声がしっかりと俺の耳に届いた。大丈夫だ、幸音。約束はちゃんと守るから。だから、おかえりって笑顔で迎えてくれ。


やっとバトル準備終了しました。

やっとドタバタバトルコメディっぽくなります。

長かったです。ここまで来るのに約一年くらい掛かってしまいました。

もう初投稿から一年が経つのです。

光陰矢のごとしとはこのことです。

一周年記念。

・・・・・・やりたい。

めっさやりたい。

やらない手はない。

けれどネタがない。

というわけで。

現在必死になってネタを模索中です。

今のところグループ内での模擬戦について書こうと考えてます。

丁度8/17で一周年ですが、すみません、破ります。

一周年と数ヶ月記念になります。

番外話は書きあがり次第投稿するので少々お待ちを。


今回も何か意見・質問・指摘などがありましたら、感想フォームの方まで。

では(・ω・)ノシ


※新しい小説『夢と願いの学園恋歌』を載せました。そちらの方も読んで頂ければ光栄です

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