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第十六話 発射

 その後、俺たちは『Kanata's green tea』で和風パフェを満喫していた。店内は木を基調とし、それを強調させる白い壁は清潔感を与え、また明る過ぎない照明は何処か懐かしく落ち着いた印象を持たせる。店員の制服は緑と白、紺の三色で構成されており、緑のバイザーと縦ラインの入った白いシャツ、紺色のスカート、深緑のサロンエプロン、シンプルながらもデザイン性に富んだ制服は店のイメージである『次世代和風カフェ』に適合していた。女の子の店員に案内され、店の一番奥に位置するテーブルに着席する。それからまもなく水とおしぼり、メニューを持ってきた店員に小豆パフェを即座に注文した。美月は私も同じものをお願いします、と頼んだ。希望の品は二分弱で届き、俺は相変わらず輝きを放つ至高の一品に目を奪われた。ガラス製のフルート型グラスには下方に直方体に切られたナタデココが沈み、上方には抹茶アイス、小豆、生クリーム、さくらんぼに彩られていた。アイスには甘い餡蜜が掛かっており、先ほど消えた食欲が急激に覚醒する。全く、俺の腹は現金だ。美月はというと、目をキラキラと輝かし今か今かと待ち遠しそうにそわそわしている。訓練時、戦闘時に見せる冷静な彼女とはあまりにもかけ離れていて思わず笑ってしまった。

 「食べようか」

 「うん」

 俺の言葉を食事の合図と受け取ったのか、美月はスプーンを取るのも煩わしく、次々とパフェを口に運んでいく。感想は聞くまでもなかった。スプーンを手に取りアイスを一口。うん、最高だ。最高の味だ。そのまま二人して無言でパフェを口に頬張り続ける。濃いめの抹茶アイスの渋い味と頬が落ちそうなくらい甘い餡蜜の相対する二つのトッピングが口内で旋律を奏で、小豆や生クリームがそこにアクセントを打つ。この和と洋が合わさった独特の甘みは、幾度来ても飽きさせず、自称抹茶ファンである桜井悠太にとって魔術以上に奇跡的な存在であった。

 「さすがだ。ここはちゃんとポイントを押さえている……!」

 「本当に美味しかった。こんなに美味いパフェ、初めて食べたよ。この絶妙な甘さ加減がなんとも」

 高さ二十センチはあるパフェを三分以内に食いきる美月。もう少し味わったらどうなのだと思った。いや無粋だった。この宝を前にして味わおうなどという思考ができようか。否、できるはずがない!

 「そうか、お前にも分かるのか。よし、なら幾らでも食すがよい。我が同胞となった汝に祝福を!」

 「悠太君。頭大丈夫?」

 「いつでも俺は冷静沈着、聡明だ」

 「嘘だね」

 「嘘だ」

 「……」

 いつもより涼しげな店内で心行くまでデザートを堪能する。あぁ、幸せだ。何時間でもここに居たい。結局一時までひたすらパフェ、抹茶オーレ、汁粉を食べ続けた。

 俺が正気を取り戻したのはレジで代金を聞いたときであった。美月さん、パフェ五つも食べたんですか。野口英世が六人、レジの中に吸い込まれていった。

 

 

 「美月、ボスを頼んだ!」

 「任せて。悠太君は雑魚をお願い。私は親玉を集中的に潰すから」

 「了解」

 拳銃を構え次々とこちらに襲い掛かってくる異形共を打ち落としていく。二人の放った弾は寸分の狂いもなく彼らの眉間に命中していき、妙に現実的に再現された腐った皮膚や紅色の血飛沫を撒き散らし崩れ落ちた。何人、いや何体も撃ち殺しても襲撃してくる異形を見て、冷静に状況を判断する。恐らく親玉を叩かない限り、延々と現れ続けるのであろう。

 異形の群れの中でも一際目立つ巨大な黒犬。赤い舌をだらりと下げ、白い眼球がぎょろぎょろと動き回り、皮膚は異臭が漂ってきそうな配色をしている。白い牙が垣間見える口から吐き出された火の玉が俺達を上空から襲い掛かる。それを巧みな足捌きで避けていった。

 「美月、時間が少なくなってきた」

 「残り十秒になったら親玉を集中砲火しよう」

 「OK」

 空になったカートリッジを捨て、弾を補充する。ロード完了の文字を認めると、再び眼前に広がる敵の群れを見据え、照準を合わせた。

 

 昼食及びデザートの後、美月の提案でラクリマのゲームセンター『ゲームワールド』に行く事となった。なんでも、今まで一度も訪れたことがなく、是非ともこの機会に訪れてみたいらしい。別段拒否する理由も無く、行きたいのであればとそこに向かうことにした。ゲームワールドはモールに近接して建設されており、他に類を見ない巨大なゲームセンターで、太鼓の達人やリズム天国といった誰もが知っているアーケードゲームから、インベーダーゲームやパックマンといった、こんなものまだ置いてあったのかと疑問に思うほどレトロ、またはマイナーなものまで揃っている。

 数分歩くとすぐにドアが現れた。左右に開かれた自動ドアから入って進んでいき、二枚目のドアを開けた。

 入ると同時に風、そしてそれに乗った音が顔に吹き付けられた。

 中から響いてくる機会音、人の声、音楽。乱雑に混ざり合い奏でられる壮大な曲がゲームセンター全体を揺るがしている。一見暴力的にも聞こえる旋律に対する不快感は無く、むしろ昂揚していく感覚に捕らわれる。こんな無秩序な音の連なりが何故こうにも心を揺さぶるのだろう。ただ自然と胸の鼓動が高鳴るためか、それとも人々の声に安堵を覚えるためか。普段聞くことの無くなっていた喧騒が聴覚を刺激した事により郷愁にも似た思いを抱かせているのだろうか。分からない。自分の事だと言うのに全く。俺はこうした平和な日々を、騒がしい日常を愛おしく感じているのだろうか。

 俺が下らない事に思索している一方、美月はというと。

 「ここがゲームセンターかぁ」

 と、好奇心に満ち溢れた目で見渡していた。始めはその騒々しさ、微かに漂ってくる煙草の臭いに顔を顰めていたが、すぐに慣れたのか、今では機械の中に収容された人形やお菓子の数々に目を輝かしていた。

 「すごいよ! ねぇ見て見て。あんなでっかい板チョコ初めて見たよ! あ、あそこに巨大なパンダの人形が」

 「落ち着け。景品は逃げたりはしない」

 「でも先に誰かに取られたりしたら悲しいじゃない?」

 「そういうことはよくあるけど」

 「弱肉強食の世界なんだねぇ」

 「いや、そこまで厳しくないけど」

 冷や汗を垂らしながら受け答えする。こんなにはしゃぐ美月を見るのは初めてだ。あまりのハイテンションに若干引いてしまったが、それでも楽しんでもらえてる事と屈託のない笑顔でいてくれる事が嬉しく感じた。

 「あれは何? 恐い絵が描かれてるけど……」

 感慨に耽っていると美月がとある方向を指差し訊ねてきた。そちらに顔を向けると、そこには暗い色彩の背景とグロテスクなゾンビが描かれた看板が設置されたコーナーがあった。確か『イビルキャッスルⅢ』というタイトルだったはず。イビルキャッスルは、次々と襲い掛かってくるゾンビ達を打ち落としていくシュティングゲームで、銃型のコンソールと床にある移動ボタンを併用したマットで操作する。かなりリアルに再現されたゾンビや街並みもさることながら、最新の技術によりどのような細かなものでも繊細に映し出す高画質の巨大なスクリーンと、左右に設置されたスピーカーから発せられる迫力のあるサウンドはこのシリーズのファンだけでなく見る者全てを圧倒する。横で見たことがあるが確かに昨今では見られない操作性とグラフィック性能は他のどの作品よりも抜きん出いて、何度見ても飽きさせない。恐らく一度やったらあまりの楽しさに時間を忘れ、どんどん嵌まっていくだろう。幾度か試しにやってみようか考えたことがあるが、中毒症状が出ることが目に見えているため止めていた。そもそも俺はブレイブソードⅣの攻略と魔術の鍛錬で忙しいからゲームセンターに行く暇がない。

 美月に軽くこのゲームについて説明してやると、「やろう!」と凄く乗り気でいた。期待を湛えた、輝きを湛えた視線をこちらに振り注いでくる。返答は言うまでもなかった。

 

 順調に攻略していき現在第四ステージに進んでいた。全部で六ステージあるので、此処を持ちこたえればエンディングも近い。このゲームは主人公の台詞が一切なく、映像で描かれるシーンによって物語を把握させる手法を取っている。なんでもプレイヤーが感情移入しやすくなるらしい。本当にそうなのかどうかは体験した者だけが分かる。

 さて、今は物語りも中盤を過ぎ、いよいよ終盤へと差し掛かるところだ。街に突如現れたゾンビ、そして連れ去られたヒロイン、彼女を取り戻すため主人公達が黒幕の元へ進んでいく、というストーリーで、今黒幕が自分の友人だと分かったところだ。すぐさま追いかけようと足を踏み出した瞬間、巨大な獣型のゾンビ『ケルベロス』とゾンビ群がその道を塞いだ、って感じだ。

 ケルベロスが口から火の玉を吐いたり、配下と思われる異形達がボスを護るように、あるいはボスの攻撃を補助するように攻撃してきたりと第三ステージまでのゾンビの集団を倒すものとは違った対応を迫られるようだ。それまでは美月と画面を半分にして役割を振っていたが、このステージはもう少し複雑にした方が良さそうだ。

 「美月、ボスを頼んだ!」

 「任せて。悠太君は雑魚をお願い。私は親玉を集中的に潰すから」

 「了解」

 複雑と言っても命中率の高い美月がボスを、素早く何回もトリガーを引ける俺が雑魚を担当するというだけだが。トリガーを引きながら冷静に周りを見て、作戦を立て、実行に移す。これはスポーツや戦闘においても通じるものがあり、実は結構いいトレーニングになるのではないか? と思ってしまった。遊んでいるだけだろと言われたらそこまでだけど。

 銃口から火が吹き異形の者達を次々と闇に葬り込んでいく。絶え間なく、波が押し寄せるように襲い掛かる異形を打ち飛ばしては狙いを定め、また打ち飛ばしては狙いを定める。雑魚の攻撃パターンは一定だ。単調、単純とも言える。ただ量が多いだけ。しかし今その”量”が大きな壁として俺達の行く道を塞いでいた。

 「美月、カートリッジが無くなって来た。早く片付けないと」

 「分かってる。一回ここで手榴弾を投げて一気に前を開いて集中連射するよ!」

 「OK」

 美月は銃のエンブレム部分にあるボタンを押し、三つある内の一つを前方へと放り投げた。きっかり三秒後に画面全体に爆風が広がる。視界が明けると散り散りになった異形の破片と片足が吹き飛んだケルベロスの姿があった。雑魚を一掃する目的を果たすと共にボス本体にも深手を負わすことが出来たようだ。

 二人同時に引き金を引く。銃弾が相手の眼球、眉間、喉仏、双肩、前足、至るところに穴を開けていき、仕舞いには彼の体躯は蜂の巣となった。獣が咆哮を上げ散らばっていく。細胞一つ一つが崩れ、砂のように崩れ、そして、消えた。

 4th stage Clearという文字が画面に躍るのを見て二人でハイタッチを交わす。

 「これであと二ステージか。このまま勢いに乗ってクリアしようね!」

 「あぁ。ここまで来たら、何が何でもエンディングを見よう」

 向かい合い笑みを零す。このゲームをクリアさせる事にもはや疑いの余地もない。いける。きっと二人でこのゲームを終わらせれる。さぁ行こう。ここからが本当の戦いだ――!

 

 そして画面では、主人公達が城内に乗り込みおぞましい量のゾンビが階段を、フロアを埋め尽くしている光景を目の当たりにしていた。

 画面を二人が見て凍りつく。

 白い目を剥き出しにし苦しげな呻き声を口から漏らしているゾンビ。それはいい。そこは今までと全く変わりはない。問題はその量だ。床に、階段に、扉に、天井に張り付き、エントランスの中央にいる主人公達を幾千にも及ぶゾンビ達が囲んでいる。はっきり言って吐き気しかしない。

 「……」

 「……」

 5th stage。迫り来るゾンビ達を撃退し、最奥部に待つ巨人を始末せよ。

 現在残り弾数10。カートリッジ14。手榴弾3。今後のことも考えると、あまりにも絶望的な数字だった。

 「無理だね」

 「無理ゲーだな」

 スタートの文字が出ると共に、俺達は無我夢中で銃弾を放った。

 すみませんでしたm(_ _)m

本来は美月の過去話の予定でしたが、あれも追加、これも追加とやっていたらいつの間にかほんわかデートになってしまいました。

次回は、次回こそ載せるのでそうかご期待を。

それでは何かご意見、誤字脱字報告などありましたら感想またはメッセージボックスの方までお知らせ下さい。お願いします(・ω・)ノシ



まどかマギカ放送決定! 嬉しいです(`・ω・´)

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