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第十五話 外出

 あの時から三日間が過ぎた。吸血鬼との遭遇以来美月は根を詰めて鍛錬していた。朝から晩まで、基礎練習から魔術の応用、魔力石の生成又はそれへの魔力の注入、美里やロン、俺との模擬戦といった内容をこなしていることから、当然疲れも溜まっていることだろう。しかし、それを表に一切出さないのは彼女が強いからなのか、それとも弱いからなのか。表面上はいつもと同じように接してくれているが、彼女の笑顔はどこか無理して作っている様に見え、時折見せる悲しげでそれでいて重大なことを決心するような表情は俺をどうしていいのか分からなくさせた。その度に路地裏での彼女の言葉が頭をよぎる。

 『また、私は、ヤツを殺す事が……』

 そこに込められた意味、記憶、心。俺自身が知らない過去が美月を縛り付けているのは確かだ。殺したい程に憎むのだから生半可なものではない筈だ。訊いてみたい気持ちはある。美月と吸血鬼の間に何があったのか、何が彼女を苦しめているのか。けれど訊くべきではない気がする。彼女に追い討ちを掛ける行為をしたくない、というのもあるが、果たして自分がその領域に足を踏み込んでいいのか不安だからだ。

 ならば、何も知らない俺が彼女にしてあげられる事は? 安易に励ましの声を掛けることはしたくない。安易な励ましが傷つける事があるのを知っているから。そうなら、美月が無理しないように、少しでも苦しみを忘れられるようにサポートすべきではなかろうか。メンバーとして、パートナーとして、精一杯支えていくべきなのだろう。


 午前十時を少し過ぎ、俺は腹部の周りを締められる独特の感覚に悩まされていた。理由は何ということはない、単なる空腹だ。朝食は普段よりも多めに取ったのだが、これは何故だろうか。早朝からのトレーニングがいつも以上のエネルギーを求めているのだと直ぐに気付いた。この時間から昼食を、というのは難だが、このままトレーニングを続行するのは些かきつい。仕方がない。早すぎる気はするが外へ出掛けよう。


 神楽月に断りを入れた後、私服に着替え廊下へと出た。

 「あ、美月」

 「悠太君。こんにちは、かな。何処か出掛けるの?」

 すると丁度トレーニングに区切りが着いたらしい美月と出くわした。漆黒のワンピースで身を包んでおり、その容姿は草原での彼女をそのまま持って来たかのよう。前に聞いた話だが、この服は魔力耐性が高いようで、デザインも気に入っているため長年愛用しているそうだ。デザインか。よく見ると胸元に左右対称に広がる翼の刺繍が、双翼の間には透き通った桃色の石が施されている。

 「これから昼食を摂る予定」

 「へぇ。いつもより早いね。そんなにおなか空いたの?」

 「腹と背がくっつきそうなくらい。もうそろそろ胃液が絞り出てくる」

 「そ、それはヤバそうだね」

 薄っすらと冷や汗を掻きながら美月はあははと笑って返す。俺の台詞が半分くらい本気なのを感じ取ったのだろう。若干引き気味だ。言わなきゃよかった。

 「そうだ、一緒に行かない? 一人じゃ寂しいし、来てくれたら嬉しいなぁ、とか」

 微妙な空気になりかけたので咄嗟にそう提案してみた。

 「んー」

 美月は眉を寄せどうしようか悩んでいる。トレーニングを継続するか昼食を摂るかの二択のどちらか選びかねているみたいだ。

 「……ごめんなさい。ここ最近財布に余裕がなくなってきたから遠慮しておくね。宗一君を誘ってみたら? 結構そういうのに付き合ってくれるよ」

 「無理だな。あいつは術式を完成させようと躍起になってたからな。吸血鬼と当たる前までに必ずって」

 あと付き合ってくれるのは恐らくお前だからだと思う。俺が誘ったら返事に鉄鎚ぶつけて来そうだ。

 「そうなの? 術式って事は宝剣でも作るつもりなのかもね。じゃあ優姫ちゃんは?」

 「さらに無理。宗一を手伝うんだって鼻息荒くして興奮してた。多分二人とも一、二週間は部屋から出てこないと思う」

 「そ、そんなになの?」

 微妙に頬を引き攣らせ、でも有り得そうだなと顔が雄弁に語っていた。

 そう。それぐらいの気迫は彼らにあった。優姫に関しては邪魔したら殺されるんじゃないかっていう勢い。恋する乙女は猪に負けず劣らずの爆走っぷりを発揮するということを知らしめされた良き経験だった。

 「ま、あいつらはいいや。それじゃあもうそろそろ行こうぜ。腹が酷い状態になってきた」

 「いや、だからお金が無いから……」

 「大丈夫。俺が奢る」

 「え! そ、そんな悪いよ。悠太君に迷惑掛けるわけにはいかないし」

 「迷惑だなんて思わないって。これは日頃お世話になっているお礼でもあるんだから、ここは一言『ありがとう』って言ってくれればいいからさ」

 「本当に、いいんですか?」

 「『ありがとう』、だろ」

 「……はい。ありがとうね悠太君」

 美月は俺に笑いかけ、提案を承諾してくれた。花が咲いたような笑みは俺の心に澄んだ水を注ぐ。水は渇きを潤し、ヒビがあればそこから滲み込んでいく。胸の奥から優しい、温かい感情が芽生える。

 「行こう。早くしないと混んでくるし」

 「うん、了解。準備してくるからちょっと待ってね」

 女子更衣室の方へ走っていき、数分と掛からずここに戻ってきた。

 俺より一回り小さな暖かな手を取ると、目的地へ向かうべく本部を後にした。本部から出る直前ふとある事に気付いた。

 さっき見せた笑顔、自然な笑みだったなぁ、という事だ。しまった。目に焼き付けておけば良かった。少し後悔しながら隣を見る。

 「何処にいくの」

 「ショッピングモールでいいか?」

 「『ラクリマ』?」

 「そう。そこにする」

 そこには最近よく目にする不安定な表情。まだ不安そうだが、幾分か雰囲気が柔らかくなっていた気がした。


 午前十一時。俺と美月は老若男女、様々な人が行き交うショッピングモールへと足を運んでいた。昼食を済ませた後、俺が美月と共にある店を目指していた。そこは俺のお気に入りのところで是非連れて行きたいと前々から思っていたところで、店名は『Kanata's greentea』という。主に、抹茶を使ったドリンクやデザートが豊富に取り揃えてあり、絶妙な甘さ加減と、和洋を上手く組み合わせた至高の甘味は、抹茶好きにとってまさに理想郷シャングリラと言えよう。

 騒々しいモール内を歩いていく。小さい男の子と女の子が手を繋ぎ、キャハハと明るい声を上げながら横を走り去って行ったり、仲の良さそうな家族が睦まじそうに歩いていたりと、何の変哲も無い平和そのものが世界にちじょうに広がっている。例えどれだけ世間で凶悪な事件だなんだと騒がれていようが、何処かに必ず平穏な光景があって、何処かに悲痛な光景がある。今見えるものはこの世界にありふれたものなのだろうか、それとも見かけること自体が希少なものなのだろうか。前者であってほしい。少しでも混乱より平和が多いのなら、きっと世界は明るい。

 「それにしてもここはいつも賑わってるな。イベントとかあるわけじゃないのに」

 「特別なことがなくても人って結構集まるものだよ。理由があっても、無くても」

 「そんなものなんだな、人って」

 「そんなものだと思うよ。皆、理由なんて重要視してないから」

 皆、理由なんて重要視してない。

 その皆の中にどれだけの人が含まれているのか。その中に、俺は、美月は入っているのか。

 「また何ぼーっとしてるの。最近多いよ」

 「ん? あぁ悪い」

 「しっかりして。今日は悠太君がエスコートするんでしょ」

 「そうだっけ。それじゃ美月様。どうか手をお取り下さい」

 「美月様って……別にいいかな。はい、悠太様」

 恭しくお辞儀をし手を差し出すと、美月は瞳を閉じ、手を重ねた。そしてしっかりと握る。

 「では行きましょうか、美月お嬢様」

 「グレードアップしたね」

 「お姫様でもいいぞ?」

 「一国のお姫様かぁ。実は憧れてるんだよね、そういうの」

 「いつか城を用意してさしあげましょう」

 「期待してるね。頼りない王子様♪」

 「頼りないって言うな」

 「……ぷっ」

 「笑うなよ」

 お互い周りの喧騒に負けない、活気に負けないくらい笑顔を輝かせ、再び歩み始めた。

 

 

悠「んで、やっぱり思うんだ」

作「何を?」

悠「登場人物全員キャラがちょこちょこ変わる」

作「難しいよね。キャラの維持って」

悠「しかも台詞やたら多いし。地の文少なくないか? あと意味不明な文がある」

作「台詞多いのは仕方が無い。地の文は確かに少ないかな。意味不明? 世界は明るいとか理由の重要性とか?」

悠「そう。それ」

作「なんとなく入れてみたかったんだよ。特に最近平和とは何かとか正しいとは何かとか、そういうの呼んでたから自然と手が動いて」

悠「無理するな。一歩間違えればグダグダのボロボロだ」

作「イエッサー」

悠「さて、次は『パフェを満喫したら昔話だ、の巻』か。ついに美月の過去が?」

作「そうだね。美月の胸に秘める想い、熱意、誓い。そういったものを書ければいいなと思ってる」

悠「頑張れ」

作「皆様からのメッセージ、誤字脱字報告、意見など24時間態勢で待ってます。どしどし送って下さい! それでは(・ω・)ノシ」



作「もうそろそろ新しい作品書こうかな」

悠「この作品を完結させたらな」


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