第十一話 憂鬱
「はぁ」
そんな不安と困惑を吐き出すように溜め息をついた。
天候は曇り。空一面に広がる灰色とは裏腹に真夏の地上は蒸し殺されるのではないかと思わせる程の熱気を含んでいた。そのためか、目の前の視界はゆらゆらと揺らめく感覚に支配され、強い眩暈を感じる。不快指数を容赦なく上げていく外気を身に受けながら、ただただコンクリートで舗装された固い道の上を歩き続けた。そうしながらこの後、いやこれから美月に対しどう接すればいいのか延々と悩み続けた。
どう声を掛ければいいのか。
どう仲直りすればいいのか。
それ以前にどう顔を合わせればいいのか。
何分経ってもこの疑問は解消されず悶々と悩む、焦りが込み上げてくる。
まずい。これから同じ仕事場で働いていくというのに、初っ端から険悪とかどうなんだ。やはり何事も無く平和且つ楽しく過ごしていきたいと思うのは誰もが願うことではなかろうか。俺自身それが一番だと考えている。
「・・・・・・仕方がない。今更発言を取り消すこともできないしな」
取り消す気も更々無いが。それでも好きな人を傷つける発言をしてしまったことに少なからず負い目を感じる。時の流れに任せるしかないのだろうか。
そうしている内に本部が見える辺りにまで来てしまった。あと数分経たずに着いてしまうだろう。こうなったら後は何も深く考えずに行った方が返っていいかもしれない。
結局何もいい案が浮かばぬまま、白色のビルへと向かった。
「おい、そこの桜井」
ビルまでほんの四、五メートルの地点。門前には一人の少年が佇んでいた。茶髪のツンツン髪をくしゃくしゃ掻きながら、明らか殺意を含んだ声でそう言った。変なのが現れたぞ。
「お前、風流を泣かせたらしいじゃねぇか青二才」
初対面なのに酷い言われようだ。
「お前と風流が言葉を交わしただけで処刑だってのに、その上悲しませやがって・・・・・・覚悟は出来てるんだろうな」
「待てよ。発言が何もかもおかしくないか!?」
「知るか」
流された。
「何処の誰かは知らねぇが」
「さっき自分で桜井って言ったばかりだろ」
「俺を怒らせたこと後悔させてやらあ!」
理不尽の塊みたいな少年は何処から取り出したのか、鉄鎚――無骨な、破壊そのものを形にしたような鉄の塊を手に握っていた。
それを認めたと同時に俺は大きく後ろへステップした。ビル街に響き渡る地面を抉る低い破滅の音。元自分が居た場所を見ると半径一メートル強の見事な円いクレーターが出来上がっていた。
もはやおぞましいともいえる域にまで達する既視感に眩暈を感じる。相手がこちらを殺す勢いで来ている所まで何もかもが似ていた。違いといえば場所と性別と、あとは解決方法が一切見当たらないことぐらいだろう。死ぬな。
少年は地面から鉄鎚を引っこ抜き、体勢を立て直すと、次は外さないとばかりに魔力を体中に巡らし襲い掛かろうとする。なるほど、やっぱり彼も魔術師だったのか。どこか納得しつつ魔力を手元に集束させ、呪文を唱える。
「<Load [Star Light] Start>」
手から生み出された白き球は掌の上でふわふわと浮く。直径五センチくらいの球は集束弾としてはかなり小さな部類に入るものだ。攻撃という面からしてみれば恐らく最低な魔術。
「そんなもの出してどうする!」
それを見て少年は、俺がまともに集束もできない初心者だと推測したのだろう。少年はにやりと笑うと球ごと俺を潰そうと鎚で横に薙ぎ飛ばしに来る。俺の身体まで残りニメートル弱、そこで。
「なっ!?」
全てを包み込むかのように、球が白く燦燦と輝いた。
相手の目を眩ます、ただそれだけに特化した補助魔術。これは美月に教えてもらった魔術の一つ『スターライト』。この術の利点は目晦ましのみならず、術者の視界を奪わない、つまり俺自身に全く影響は出ないのだ。多用するわけでもないが、会得しておけば案外役に立つと言っていたのを思い出す。あぁ、その通りだ。ありがとう、助かった。
あまりの光の強さに少年は反射的に顔を背け鎚の横への力を殺しながら半円を描き、止まった。
すぐさま敵を打ち砕こうと動き出すが。
「いない?」
先程まで、正確には光の奔流が始まるその瞬間までいた筈の桜井とやらが辺りを見渡してもその姿を認めることは出来なかった。
逃したか。
ちっ、と舌打ちをした後少年は自分のアジトへと戻っていった。
11日。3日間の定期試験終了。
PC使って小説を読む。
地震発生。寮から出ることに。
12日。実家に戻る。
そうして今日。投稿する。
人生で一番忙しい四日間だった。
今回は短い話でした。
次回が少し長めになるの、かな?
どこで区切るかなかなか悩みますよね。
丁度いい長さで書き終わればいいのですが、これまた難しく。
話は変わって。
これ以降美月さんの性格・キャラが多少変わります。
それに伴い前投稿したものも多少修正していく予定です。
修正と言っても口調を変えたり、誤字や矛盾をなくす程度なので、読み直しをする、という事態にはならないのでご安心(?)下さい。
何か矛盾している点、誤字脱字、こうした方がいいんじゃない? というアドバイスなどあれば宜しくお願いしますm(_ _)m
それではまた次回。