『出雲神話真実― 徐福と大国主』第一話 黄泉比良坂
第0話からお読みいただき、ありがとうございます。
ここから物語は、実際の神話の舞台へと入っていきます。
ユイが見るものが「神話」なのか「現実」なのか、
その揺らぎも含めて楽しんでいただければ幸いです。
ユイが目を開けると――
目の前に、巨大な岩が立っていた。
まるで世界の境を閉ざす、門のように。
岩は道を塞ぐように据えられ、
その向こうから、冷たい風が吹き抜けてくる。
どこか――
この世の空気ではない。
ユイは小さくつぶやいた。
「ここ……どこ?」
手の中の円空仏が、
ほんのりと温かい。
その温もりだけが、
この場所で確かなものだった。
岩の向こうから、風が鳴る。
そのとき――
背後から声がした。
「そこより先は、
生きた者の道ではない」
振り向くと、
そこに一人の老人が立っていた。
いつからいたのか、気配がなかった。
老人は静かに言う。
「そこは――
黄泉比良坂だ」
ユイは、もう一度岩を見る。
この先が、死者の国へ続く道。
そのとき――
円空仏が、かすかに震えた。
まるで、進めと告げるように。
ユイは気づく。
ここは、ただの場所ではない。
神々の国へと続く、境なのだと。
冷たい風が、木々を揺らしている。
岩の前に――
一人の若い女性が立っていた。
静かに手を合わせ、祈り、
やがて深く一礼して、去っていく。
少し離れた場所では、
別の男も同じように祈り、
言葉もなく頭を下げていた。
人はここに来て、願う。
届かぬものへ。
帰らぬものへ。
ユイは、その想いを胸に受け取った。
そして――
一歩、踏み出す。
山あいの道を、ゆっくりと下っていく。
そのとき。
懐の円空仏が、
かすかに揺れた。
導くように。
遠くに――
水の光が見えた。
それは、静かに流れていた。
だがユイには、なぜか分かった。
あの水は――
ただの川ではない。
お読みいただき、ありがとうございます。
黄泉比良坂――
神話の中では「死者の国への入口」とされる場所です。
この物語では、その境界をどう描くのか。
そしてユイが何を見るのか。
次話から、物語はさらに深く進んでいきます。
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