第四章 大学生活
いよいよ大学生活が始まりました。しかし物事はなかなか思ったようには進みません。
しかし、ミユキは持ち前の根性で勉強を進めます。
合格発表当日、大学は込み合っていた。時間になって合格者名簿が掲示板で確認できるようになるとみんな一斉に目で追った。
ミユキも自分の受験番号を探した。あった。間違いなく自分の受験番号だ。涙があふれてきた。
「ありがとう史郎さん。」
思わず口に出た。
喧騒を後に、ミユキは入学手続きの書類を受け取りに大学の建物に入っていった。一通りの手続きを終えると、思い立ったように史郎が在籍していた研究室の教授を尋ねた。
教授は合格したことを聞いて心より喜んでくれた。そこで、ミユキは史郎の研究を続けたいから将来はこの研究室に来たいと話をした。
「残念ながら、私は再来年退官になってしまうから、後任には話をしておくよ。でも、あの研究を引き継ぐなんてできるかな?私も理解できない話だが・・・」
そう言いながら教授は、傍らの書類を手に取り、ぱらぱらとめくりながら、
「中園ミユキさんでしたね、なるほど、トップレベルの成績での合格ですね。
再入学ともなるとかなり頑張られたのでしょうね。その意気込みならもしかしたら達成できるかもしれないですね。」
教授は優しく微笑みながら言った。ミユキは教授にお礼を言って部屋を後にした。
トップレベルだったなんて、自分でも驚きだわ。でも教授は辞めちゃうのか、ちょっと残念。でもこれからが本当の勝負、先生がおっしゃられたように、勉強のペースを落とさないようにしなきゃ。
ミユキはいろいろ思いながら帰路に就いた。
家に着いて両親に合格を報告すると、さすがに東都大学合格であるので、たいそう喜んでくれた。
入学式に出てみると、周りは若い人ばかり。現役生とは五歳の差がある。完全に浮いているようだ。私を気にしているのかな?私のほうを見ているような気がする。
「かなり浪人されたのですか?」一人が、近づいてきてそう聞いてきた。
私は頷くでもなく、かといって否定するわけでもなく、あいまいな態度をとると、相手は勝手に納得して離れていった。
授業が始まっても、私は学費をねん出するために家庭教師や塾の講師をしながら、大学に通うため、遊びに行くとか、サークル活動なんかするような時間は全くなく、気が付いたら学内に話をする相手は全くいないことに気づいた。昼ごはんも学食の片隅で一人で食べているような状態だった。
ミユキはこの大学に勉強をしに来たのであり、だれからの誘いもないことはかえって好都合であった。
教養課程も難なく過ごし、専門課程に進んだところで念願の生体学研究室に配属されることになった。入学前に伺っていた通り、研究室の専任教授は新しく助教授から昇進した山崎利勝教授だった。
「中園さんですね。前任の岩男教授から話は聞いております。あの三村君の研究を引き続きたいそうですが、かなり大変だと思いますよ。私に聞かれても、私も理解できなかった口ですから。」
教授はそう言って大笑いをした。
「もちろん、大学院の進学は考えているのでしょう?」
ミユキは即答した。
「はい、もちろんです。」
「では。学部在学中は私の指示に従って研究活動をしてください。そうしないと卒研単位は出ません。まあ、あなたの成績なら大学院進学は心配ないでしょう。大学院に進めばある程度は研究テーマを選ぶこともできますよ。当然、博士課程まで行くのですよね。そのあとは考えているのかな?」
教授の言葉は、胸にしみた。確かにいきなり好きなことはやらせてはもらえない。博士課程修了まではまだ長い。そのあとはどうするか?そこまで考えていなかった。史郎さんの研究を引き継げる環境、そんなものどこにあるのだろうか?
ミユキが戸惑った様子をしているのを見て教授は続けた・
「もしよければ、そのままこの研究室に残ってくれないかな。私の研究の手伝いをしてくれれば、半分くらいはその三村君の研究に充てる時間は提供できるよ。ただし、給料はあまり出ないけどね。」
ミユキはニコッとして、返事をした。
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
卒業研究も大学院入試も淡々と進み、気が付けば学部の卒業式になっていた。もちろん単位の不足はない。それどころかほとんどの科目が「優」判定で、卒業式は学部代表に選ばれた。
大学は卒業できました。しかし、まだまだ史郎に追いつくことはできません。
ミユキの修業時代は続きます。




