第7話:『病める時の粥(かゆ)おむすび、弟子の祈り』
異変:開かない古本屋
ある朝、いつもの時間になっても徳さんの古本屋のシャッターが下りたまま。
様子を見に行った蓮が見つけたのは、冬の寒さに当てられ、高熱でうなされている徳さんの姿でした。
「……おい、じいさん! しっかりしろよ!」
「……ふん、。騒がしいねぇ、蓮……。今日は、少し土鍋の火が強すぎたみたいだ……」
冗談を言う気力もなく、徳さんは力なく目を閉じます。
蓮の焦りと、八恵の試練
八恵はすぐに徳さんを介抱しますが、ふと隣で狼狽える蓮に言いました。
「蓮くん。今、徳さんが一番必要としているのは、薬よりも『命を繋ぐ火』よ」
「……俺が、作るのか?」
「今の私のおにぎりじゃダメなの。徳さんのことを誰よりも近くで見てきた、あなたの手で握らなきゃ」
蓮は震える手で、土鍋に米を仕込みます。しかし、焦れば焦るほど水加減を間違え、火加減が乱れます。
八恵のノート・新しい頁の言葉
八恵は、あえて手を出さず、ノートの自分のページを蓮に見せました。
『病める者に贈る結び』
――噛む力のない者には、米を花のように咲かせなさい。
握るのではなく、掌の中で転がすように。
あなたの不安をお米に乗せてはいけない。
相手の「弱さ」を、あなたの「優しさ」で包み込むのです。
実践:『花咲きむすび』
蓮は深呼吸をし、徳さんの荒い息遣いに、自分の呼吸を合わせました。
「じいさん……死ぬなよ。まだ俺、お前の店の本、全部読み終わってねぇんだからな」
蓮は、あえていつもより多めの水で、柔らかく、お米が花開いたような「粥おむすび」を炊き上げました。
それは、八恵のような完璧な形ではありません。しかし、力を入れず、ただ徳さんの命を支えるためだけに、三度、柔らかく掌を合わせました。
結末:徳さんの涙と「合格点」
蓮が徳さんの口元へ、その柔らかいおにぎりを運びます。
徳さんは、ゆっくりと目を明け、一口、時間をかけて咀嚼しました。
「……あぁ。酷いもんだな……。形はベチャベチャだし、塩加減もなってねぇ……」
徳さんの目に、じわりと涙が浮かびます。
「……だけどよ、。腹の底から温まるじゃねぇか……。この、不器用な熱さがよ……」
その夜、八恵はノートの蓮の成長を記した箇所に、そっと書き加えました。
『最初の、合格。』
――自分の熱さを忘れた時、おにぎりは初めて「誰かのもの」になる。




