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第4話:『通知の鳴らない、海苔の鎧』


客:心音ここね

現役の女子高生。カウンターに座っても、片時もスマホを手放せない。

画面が光るたび、ビクッと肩を震わせ、強迫観念のように返信を打ち込んでいる。

「繋がっていないと、存在していないのと同じ」

SNSの承認欲求と、終わりなきグループトークの波に疲れ果て、心音の瞳はひどく濁っていました。


八恵の「新しい教え」の閃き

八恵は、心音の震える指先と、画面から漏れる冷たい青白い光を見つめます。

祖母のノートには「スマホ」という言葉はありません。しかし、八恵が白紙の頁に書き加えたばかりの、**『歪みが、誰かの心の凹みにはまる』**という言葉が胸をよぎります。

八恵は、あえて心音に話しかけませんでした。その代わりに、いつも以上に丁寧に**「海苔」**を選び始めます。


土鍋の「ため息」と、八恵の所作

「ため息」が聞こえた瞬間。

八恵は、心音が通知に気を取られた隙に、すっと彼女のスマホの前におしぼりを置きました。

「少しの間だけ、目をお休みさせませんか」

そして八恵は、自分の頁に新しく書き加えるべき一節を心に刻みながら、握り始めます。

『外界の騒音を遮るには、黒い鎧を着せなさい。

磯の香りは、遠い海の静寂を連れてくる。

通知よりも先に、自分の喉が鳴る音を聴くのです』


おにぎり:『静寂の黒むすび』

差し出されたのは、最高級の有明産海苔で、隙間なくぴっちりと包み込まれたおにぎり。

中の米が見えないほど、深い漆黒の鎧を纏っています。

五感の遮断と解放:

心音がそれを手に取った瞬間、パリッという海苔が爆ぜる音と、鼻腔を突き抜ける圧倒的な磯の香りが、彼女を取り巻いていた「電子音の世界」を上書きしました。

通知の鳴らない時間:

一口食べると、中から溢れ出したのは、意外にも**「何も入っていない、純粋な塩むすび」**。

情報の洪水の中で、何者かになろうと演じていた心音にとって、その「から」であることの潔さが、何よりの救いとなりました。


結末:画面が消える瞬間

「……あ。私、お腹空いてたんだ」

心音はポツリと呟きました。スマホの画面は、もう数分前から光っています。でも、今の彼女は、それを開くよりも、口の中にあるお米の粒一つひとつの感触を確かめることに夢中でした。

徳さんが横からボソッと言います。

「にいちゃん(蓮)、見なよ。このおにぎりは『鎧』なんだ。外の雑音から、この子のちっぽけな本音を守るためのな」

蓮は、八恵がこっそりノートに新しい言葉を書き留めるのを見逃しませんでした。

「……八恵さん。今の、いい教えだったんじゃないか?」

心音が店を出る時、彼女はスマホを鞄の奥底にしまい、初めて八恵の目を真っ直ぐに見て「ごちそうさま」と言いました。

八恵のノート・追記

『通知の鳴らないおにぎり』

――世界と繋がる前に、自分の空腹と繋がりなさい。

海苔の鎧は、あなたの弱さを隠すためではなく、あなた自身を取り戻すための聖域となる。

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