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秘伝ノートの真実:『白紙の頁(ページ)と、八恵の味』


ある夜、カウンターでノートを熱心に読み返していた八恵に、徳さんがお茶をすすりながら言います。

「八恵ちゃん、そのノートの半分から先が真っ白なのは、ばあさんが書き忘れたわけじゃないんだよ。……そこは、あんたが**『お米の向こう側』**を見た時に、自分で埋めるための場所なんだ」


八恵の葛藤

それ以来、八恵は客におにぎりを出すたびに、「自分だけの教えとは何か」と自問自答するようになります。

しかし、意識すればするほど、祖母の教え(マニュアル)に縛られ、以前よりも「型」にはまったおにぎりになっていく感覚。

そんな時、古本屋の蓮が、ぼそりと一言。

「八恵さんの握る飯、最近なんだか『教科書』みたいな味がするな」

その言葉に、八恵の手が止まります。

「教科書……?」

「ああ。美味いけど、八恵さんの顔が見えないっていうか。俺、ばあさんのノートを食いに来てるんじゃなくて、あんたのおにぎりを食いに来てるんだけどさ」


初めての「書き込み」

その夜、店を閉めた後。

八恵は一人、土鍋に残った最後の一膳分のご飯を見つめます。

誰のためでもなく、今の自分のために握る、一個のおにぎり。

祖母のノートには書いていない、八恵だけが知っている感覚がありました。

それは、都会で挫折し、味覚を失い、この路地裏で必死に「自分」を結び直してきた彼女にしか分からない痛みと、その先の静かな覚悟。

八恵は震える手で、琥珀色のノートの白紙の頁に、ペンを走らせました。

『迷う時は、お米と一緒に迷いなさい。

完璧な円じゃなくていい。その歪みが、誰かの心の凹みにぴったりとはまるのだから』

それは、祖母の洗練された教えとは違う、泥臭くて、けれど誰よりも今の悩める人々に寄り添う、八恵だけの「第一歩」でした。


変化:『八恵のおにぎり』の完成

翌日、店を訪れた蓮に、八恵は少し形がいびつなおにぎりを出しました。

「はい、お待たせ。……今日は、私の教えで握ったわよ」

蓮がそれを口にした瞬間。

これまでの「奇跡」のような温かさとは違う、**「明日もまた、なんとか生きてみよう」**という地熱のような、じわじわとした活力が湧いてくるのを感じました。

徳さんがそれを見て、ニヤリと笑います。

「……やっと、このノートも『一冊』になったか」

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