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第2話:『砂の味と、黄金のおこげ』


訪れた客:剛田ごうだ

50代。IT企業の創業者。

高級スーツに身を包み、鋭い眼光を持つが、その頬はこけている。

かつては「食うか食われるか」の世界で、ライバルを蹴落とし、社員を使い捨て、巨万の富を築いた。

しかし、気づけば周囲には誰もいない。そして一ヶ月前から、どんな高級食材も口の中で「砂」のような無機質な味に変わってしまった。

八恵との対峙:土鍋の「重み」

剛田は、いら立ち紛れに店に入ってきます。

「ここが評判の店か。いくら出せば、俺に味を思い出させてくれる?」


八恵は動じず、ただ静かに土鍋を火にかけます。

「うちは時価ですよ。あなたの『お話』の重さが、そのまま代金です」

剛田は鼻で笑いながら、かつての極貧時代、一個のおにぎりを弟と分け合ったこと、そして成功のためにその「心」を切り捨ててきたことを、独白のように吐き出します。

「……手に入れたのは、金と孤独だけだ。これじゃ、あの頃の空腹の方がまだマシだったよ」


土鍋の「おこげ」が放つ香り

話が佳境に入った頃、土鍋から香ばしい、少し焦げたような匂いが漂い始めます。

八恵はあえて、少しだけ火を長く止めませんでした。

「見てください。このおこげは、お米が熱さに耐えて、底で踏ん張った証拠。

あなたが傷つけてきた人も、あなた自身も、この熱さに耐えてきたんじゃないですか?」


八恵が握るおにぎり:『玄米のおこげ結び』

八恵が差し出したのは、精米しきっていない、少し無骨な玄米のおにぎり。

その表面には、土鍋の底でこんがりと焼けた**「おこげ」**が張り付いています。


味の復活:

剛田が一口齧ると、まず「ガリッ」という力強い食感と、苦味に近い香ばしさが突き抜けます。

「苦い……。いや、これは……」

その苦味の奥から、噛めば噛むほど溢れ出す、野生に近い米の甘み。

それは、彼が切り捨ててきた「泥臭い努力」や「人の温もり」の味でした。

涙の理由:

「砂じゃない。味が……する」

成功というメッキが剥がれ落ち、一人の「飢えた男」に戻った剛田の目から、熱い涙がこぼれます。


物語の結末:再出発

店を出る時、剛田の表情からは険しさが消えていました。

彼は八恵に、財布からではなく、胸ポケットから一枚の名刺を差し出します。

「代金だ。……いつか、真っ当な人間として、この名刺に恥じない仕事ができたら、また食べに来させてくれ」

八恵はそれを受け取らず、代わりに彼の手のひらに、余ったおこげをそっと乗せます。

「それは、出世払いということで。……次に来る時は、誰か大切な人と一緒にいらしてくださいね」

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