朝起きたら、彼が目の前に立っていた ~目が覚めたカナリヤ~
「カナリヤ、大丈夫!? 」
トーマス様の声で目が覚めた。
背中にびっしょりと汗を書いている。
目の前にはトーマス様の顔。
周囲を見渡すと、見慣れた使用人部屋だった。
そうだ、あれは夢だったんだ。
私は貴族ではなく、トーマス様の使用人だった。
ようやく我に返ってきた。
彼の心配そうな顔に罪悪感を抱く。
私の様子を心配したのか彼は飲み物を作ってくると言い残し、部屋を出て行った。
トーマス様が戻って来るまでずっと私は震えていた。
私が身勝手な夢を見たと知ったら、トーマス様に呆れられてしまうかもしれない。
両手で抱きしめるように自らの肩を抱く。
「どうしよう、どうしよう……」
コンコンと扉をたたく音がした。
入室を告げる声に、あわてて扉を開ける。
トレーの上には、ポットとティーセットと小さな砂糖菓子が乗っていた。
ゆっくりお茶を飲んでいると、気持ちも落ち着いてきた。
それとともに、ガタガタと震えが来る。
あの夢の内容を知られたら。
でも、トーマス様はずっと私の方を見ている。
最後に叫んだ寝言も聞かれてしまったようだ。
話さなければ……
「トーマス様に酷いことをする夢を見たんです」
「酷いこと!? 」
「ええ……」
「トーマス様に抱えられて、膝に横抱きにされたときは首に縋りつき甘えて、顔をそむけるトーマス様の頬に口づけをし……」
ふと気が付くと、トーマス様は両手で顔をおおわれて下を向いていた。
肩が震えている……
怒っている……当然だ。あれだけ身勝手な夢を見たなどと言われ、侮辱されたと……
「……とっトーマス様……」
恐る恐る、声をかけるとトーマス様は突然私を引き寄せた。
バランスを崩しそうになった私を抱き上げ、膝に横抱きにした。
「っえええ!? 」
あわてる私の頭を左手にあて、抱きしめた。
「カナリヤが可愛すぎて、どうにかなっちゃいそう」
そう言ってトーマス様は私の頭上に顔をうずめた。
「これが噂に聞く、マリッジブルーってやつかな。それにしても反則だよ。可愛すぎる」
そうだ……
私は本当にトーマス様の婚約者になったんだ。
「久しぶりに屋敷に帰ってきたから混乱したのかな? 」
平民の私はトーマス様と結婚するために、ソフィア姉さんとアルベール子爵の家の養女になった。
結婚前に礼儀作法を身に着けるために、アルベール子爵の屋敷に逗留させてもらっていた。
そして3か月、ソフィア姉様から指導を受けた。
昨日、久しぶりにトーマス様の屋敷に帰った。照れから慣れた自室が良いとトーマス様にわがままを言い、かつての部屋で就寝したんだった。
寝ぼけて、トーマス様に泣きついたことに恥ずかしくなった。
「朝だね」
彼の声で窓に目を向ければ、カーテンの向こうが明るくなっていた。
今日の予定を思い出し、私の心臓は再び早鐘を打ち始めた。




