第八話
翌日、俺は早速、細川グループの投資先のひとつ──理天商事株式会社の新入社員採用面接会場にいた。
(ちなみにアーステック社は、俺の不在を見越して信頼する幹部の多賀谷に代理社長を任せています。
安心してください)
会場には面接を待つ若者が溢れていて、みんな緊張した面持ちだ。
振り返ると、自分が面接を受ける側になるのは初めてだということに気づいて、少しだけ胸がざわついた。
隣に座っていた同い年くらいの女性が、にこりと話しかけてきた。可愛らしい声だ。
「今、緊張してる?」
「うん」
「私もだよ。あなた、面接初めてでしょ?」
「そうだけど、どうしてわかったの?」
「私が初めて面接受けたときの顔してるから!笑
実は私、もう十社面接受けたんだけど、全部落ちちゃってて……」
「そうなんだ。今回は受かるといいね」
「ありがとう。あなたもね、がんばって!」(微笑み)
俺は彼女に笑い返した。
本当は名前を聞きたかったが、その前に僕の呼び出しの声が響いた。
「鈴木さん、どうぞ」
胸を軽く叩いて、面接室へ入る。
質問は思ったよりも具体的だったが、レナと鍛えた話術が自然に出て、特に困ることもなかった。
面接は無事に終わり、俺は慌ただしくベンツに飛び乗って本部へ向かった。
鈴木事務所に着くと、多賀谷と同じく信頼のできる幹部の大門が出迎えてくれた。
「お疲れ様です、社長。面接はどうでしたか?」
「難なく済ませた。ところで、僕が抱える会社(23個も!!)の売れ行きはどうだ?」
「売れ筋は好調です。現状はこんな感じです」(タブレットを見せてくれる)
「なるほど。レクサー社の田中社長にはこのまま事業を継続するよう伝えてくれ。
丸岡株式会社は少し不調だから、後で俺も事業に参加するよ」
「承知しました。平社員をしながら他社の経営にも関わるとは。
優斗様がここに来たときは、社会も何も知らない若者かと思っていましたが、まさかここまで成長するとは」
大門の言葉に、俺は少し照れくさく笑った。
「レナにしごかれただけだ。
これからは仇敵の細川の子会社で平社員の目線を持ちながら、細川グループの動向を探る。焦らず、確実にいく予定だ」
「会長(鈴木おじいさん)はお体、大丈夫でしょうか?」
「心配いらない。
会長は病院に通っているが、元気だ。
最近は無理をしすぎているから、俺に任せているってさ。」
「優斗様もお身体お気をつけくださいよ。鈴木財閥は世界でモナの通る組織で、会社は世界合わせて全50社、会長でも見れていない会社がたくさんあるのですから」
「へへ、まだ二十二だ。若いってことにしておいてくれよ。
それに、鈴木おじいちゃんの目に届かない場所で何が起こってるかわからないから、僕が視察しなきゃ。
でも今は細川を徹底的にやることに専念するよ。」
(鈴木財閥が所有している会社を視察する会に関しては、対細川家が完結した後に連載予定です。
お楽しみに!)
普段の鈴木財閥の事務所は、和やかだ。
だが、ここのところ、対細川家のために色々と忙しいから、
まあ鈴木財閥の権力を使えば、彼らの一派を一瞬で潰せる。
だが、それではダメだ。帝王学を習った以上、相手に権力を振りかざすのではなく、人を助けていくようなそんな人材に細川たちを教育しなきゃ!
だから細川グループを一旦破産させることに決めたんだ。
(もう復讐の気持ちがなくなっているくらい成長できたのも、鈴木おじいさんと仲間たちのおかげだな。
感謝しなきゃ!)
ということでまずは身分を隠し、理天商事の平社員として内部から動く──
(つづく)




