第一話
高校二年の夏、俺は突然、転校することになった。
朝のホームルームで担任がその一言を告げた瞬間、教室は静まり返った。——そりゃ驚くだろう。昨日まで“完璧な優等生”だった俺が、いきなり姿を消すのだから。
小学校から高校まで、名門校を渡り歩き、常に学年一位。家は裕福で、努力も結果も裏切らない。
彼女もできて、三人しか推薦をもらえない国内最高峰の大学進学も、ほぼ確定していた。
順風満帆。そう思っていた——あの日までは。
クラスでは、俺と彼女、そしてもう一人。
その三人だけが特別扱いされていた。当然、周囲の嫉妬は凄まじかった。
筆頭は細川。大企業「細川グループ」の御曹司だ。あいつは金と権力を盾に、教師すら黙らせていた。
そして、八月十七日。地獄のような日が訪れた。
放課後の体育館裏、十人近くの男子が俺を取り囲む。
「調子に乗るなよ、天才様」
拳が飛び、蹴りが続く。血の味が口に広がった。
——やめろ。
頭の中で何度も叫んだ。けれど体は反射的に動いていた。
細川の頬を、殴り返していた。
その一発が、俺の人生をすべて壊した。
数日後、理事長室。退学処分。理由は「暴力行為」。十対一で襲われた側なのに、殴ったのは俺だけ。
——細川の父親が、この学校の最大スポンサーだと知らされたのは、そのあとだった。
家に戻ると、父と母が待っていた。怒鳴り声が響き、母は顔を覆って泣いた。
「お前はこの家の恥だ」
「細川社長に逆らったら、生きていけないのよ」
父は最後に静かに言った。
「……もうこの街を出よう。田舎でやり直すんだ」
こうして俺たち一家は、祖父母の住む村へと引っ越した。“都会の落ちこぼれ”として。
田舎での生活は、静かすぎるほどだった。
朝は鳥の声、昼は風の音、夜は虫の鳴き声。
農業を手伝いながら、ぼんやりと「これでいいのか」と自問していた。
だが、胸の奥に燻る悔しさだけは消えなかった。——あいつらに奪われたものを、取り返したい。
そんなある日。十月九日。村外れの坂道で、一人の老人が座り込んでいた。
「おじいさん、大丈夫ですか?」
白髪の老人は顔を上げ、にこりと笑った。
「おぉ、助かった。道に迷ってしまってのう。畠山村まで行きたいのじゃ。」
「僕、畠山村に住んでます。案内しますよ。」
「そうか、それはありがたい。お前さんのような若者が、わしの後を継いでくれたらええのう。」
意味深な言葉に首を傾げつつ、老人を村へ連れ帰ると——祖父母が驚いた顔をした。
「……鈴木さん!?三十年ぶりじゃないか!」
夕食の席は賑やかだった。家族全員が、鈴木という老人の話に夢中になっている。俺だけが、輪に入れずに黙っていた。
だが、老人が不意に言った。
「今日の朝な、この家の孫に助けられてね。とても親切な子じゃった。」
母は苦笑いを浮かべた。「でもこの子、高校で暴力をふるって退学になったんですよ?」
鈴木さんは少しだけ目を細め、静かに言った。「そうか……だが、人にはそれぞれ理由がある。私はこの子を信じるよ。」
その言葉に、胸が熱くなった。誰も信じてくれなかった俺を、初めて肯定してくれた人。涙が勝手に頬を伝った。
夜。二人きりの縁側。鈴木さんはゆっくりと湯呑みを置いた。
「細川……か。あの家も変わってしまったな。」
「え?鈴木さん、細川を知ってるんですか?」
「ふふふ。まあな。だが、あの家が恐れる相手も世の中にはおる。」
「細川グループより上なんて、ないですよ。」
「そう思うか。……だがな、少年。人の本当の力は“金”ではない。“信用”じゃ。」
そう言って鈴木さんは立ち上がった。そして、静かに告げた。
「お前を養子に迎えたい。うちへ来なさい。」
「えっ……養子? なんで俺なんかを?」
「お前に“投資”してみたくなったんだ。」
その笑みの奥に、ただ者ではない気配があった。この出会いが、俺の運命を変えるとも知らずに——。
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