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すべてが壊れた哀れな少女は

「いーち、にーい、さーん、よ、よ、よ?」


 傾いたベッドに手と足を投げ出し、デルマは掌を天に掲げた。ここ最近、自分の指を数えることに夢中になっている彼女だが、なかなか三から次に進めない。


「プシュケ、きょうもひらひらしてた」


 すぐに諦めた彼女は、開いていたそれを言葉の通りに揺らしてみせる。いつ見てもプシュケは、ふわふわとした髪に豪華なドレスを見に纏い、花のように華やかでいい語りがする。


 たとえ自分が同じ格好をしたところで、アレクサンダーにすぐ汚されてしまうだろう。あの男はいつでも自分を踏み付け、突き飛ばし、嘲笑う。


 感情という武器をとうに捨てたデルマに、彼に逆らうという選択肢はない。痛みも苦しみも悲しみも、それらがプラスに働かないということを、本能的に理解している。


 あらゆるものすべてに蓋をする。デルマが編み出した、唯一の生存方法だ。


 妾の子といえど、彼女は辺境伯を父に持つ令嬢。にも関わらず家畜以下の扱いを受けているのは、デルマが化け物であるから。


 母の腹を食い破り、この世に誕生した恐ろしい子。どんなに劣悪な環境下にあろうとも、気を抜けば目を奪われる。天性の魔性性が、デルマの境遇をより最低なものへと突き落としていた。


 当然、本人にはそれを知る術がない。自身が、プシュケなど足元にも及ばぬほどの強い武器を生まれながらにしてその身に宿していることを。


「あれ。これ、なんだろう」


 軋むベッドの上でごろごろと転がっていると、ふとポケットになにかが入っていると気付く。手を突っ込んで取り出すと、それは薄暗い部屋の僅かな灯りを一心に集めてきらきらと輝く。


「プシュケの、ほうせきだ……」


 先ほど、彼女が自分の首から引きちぎって投げたダイヤモンドのネックレス。その一部が、偶然デルマのポケットに紛れ込んでいた。


「わぁ、きれい。とってもすてき」


 初めて触れるそれは、とても硬いのに柔らかい雰囲気を放ち、アルビノの瞳にぴたりと嵌っているようだった。


「なんで、ちぎってなげたんだろう」


 こんなにも美しいものを、要らないと投げ捨てたプシュケのことが不思議でたまらない。いつ死ぬかも分からぬ恐怖と闘う彼女の心情を、デルマが理解できるはずがなかった。


「わたしも、こっちがいいなぁ」


 同じ首につけるものであるなら、首輪よりもダイヤモンドが良い。プシュケであったなら、そうすることができたのに。


 これまであらゆる欲とは無縁だったデルマの瞳は、いつまでもその宝石に夢中だった。

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