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莫迦の真似事ー化け物少女は、無慈悲な邪神の妻となるー  作者: 清澄 セイ


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ようやく気が付いた、本当の感情

(確かに彼の言う通り、私は普通じゃない)


 いくら真似事をしてみても、家畜同然の暮らしをしてきた事実は消えない。アレクサンダーに好き放題おもちゃにされていたことも、プシュケのストレスの捌け口になっていたことも、それらに対し一切の感情を持てなかったことも。


「ああ、やっと分かりました!」


 この状況でぱっと華やかな声を上げたデルマに対し、リバーシュは再び視線を戻す。彼女は声色と同じくらい可愛らしい表情を浮かべながら、合点がいったというようにぽんと手を打った。


「私は、寂しかったんだと!」


 ようやくぴたりと当てはまる言葉を見つけた彼女は、爽やかな瞳でリバーシュを見つめる。


「以前あなたがおっしゃった理屈でいうと、私は化け物です」

「……唐突に、なにを言い出す」

「だってリバーシュ様は、恐怖を感じない人間は化け物だと」

「それは、ただの軽口だ」

 

 デルマが毎日のように化け物呼ばわりされていたことを知らないリバーシュからすれば、彼女の反応を不可解に思うのも仕方がない。普通は、それが自分を指しているとは考えないのだから。


「私は勝手に、リバーシュ様に自分を重ねていたのだと気付きました。ですがそうでないと分かって、寂しさを感じてしまったのです。孤高を貫くあなたに憧れ、私も彼の【邪神】になりたいと思っていたから」

「お前が、この俺に憧れだと?」

「ええ、その通りです!」


 この荒唐無稽な話を、リバーシュはにわかに信じることができない。が、真実だとするならばデルマの行動に合点がいくのも事実。妙な手紙を送り、まったく恐れる様子もなく、醜い傷をきらきらとした瞳で見つめる。例えるならば、教祖を崇める熱烈な信者のごとく。


 そしてあげくには、寂しい――などと。


「お前は女だろう。戦場に立つ必要もなければ、剣を振る腕力さえもない」

「ええっと。そういう意味ではなくて、リバーシュ様の生き方に憧れたと言いますか」

「何百、何千と無意味な殺しをしてきた俺に、よくそんな馬鹿げたことを」

「無意味?それは違います」


 それまで首を傾げていたデルマが、はっきりと否定する。トルスタンに関するあらゆる書物や新聞、ゴシップに至るまで読み漁った彼女には、今の言葉に反論するだけの知識が備わっていた。


「リバーシュ様の成し遂げた功績を鑑みれば、正直申し上げて名誉伯爵は妥当なものではありません。他の貴族たちの反発を買うことを避けたのかもしれませんが、それにしても皇帝陛下はもっとお考えになるべきでした」


 感情論ではなく、これは事実。敵味方関係なく斬り殺す非道な人間だろうがなんだろうが、トルスタンの勝利に必要不可欠な存在に感謝するべきであり、異端者として扱われることには納得がいかない。


「戦いは、勝利こそがすべてです」


 その言葉は鋭い刃となり、リバーシュの胸に突き刺さる。もうどれだけの長い年月、薬で精神を狂わせながら戦ってきたか分からない。自分が死にたくないから、相手を殺す。戦では至極当然であるのに、彼は敵味方関係なく恐れられている。


 それは、誰よりも圧倒的過ぎるから。リバーシュの並外れた能力を、理解しようとせず嫌厭する。彼の犠牲のもとに、今の平和が成り立っていると分かっているはずなのに。


「リバーシュ・キース・ウェルガムンド様。あなたは、とても立派な【邪神】です」


 頓狂な台詞を大真面目な顔で口にするデルマを見ながら、リバーシュは胸に広がる違和感を隠せなくなっていく。馬鹿げた世辞だと、鼻で笑うことができない。


「それだけは、紛れもない真実だとお忘れなきよう」


 そう締め括るデルマだったが、ふと考えてみれば最初はこんな話だったかな?と不思議に思った。ずっと胸につかえていたもやもやをやっと言語化することができたというのに、なぜだかよく分からない方向に話を流してしまった。


「……ふっ」


 真剣な眼差しで見つめられたかと思いきや、今度は右に左に首を傾けている彼女がおかしくて、リバーシュは思わず息を吹き出した。普段は引きつっている頬も、ほんの一瞬緩んだように見える。


「立派な【邪神】だと?随分奇妙な言い回しだな」

「まぁ、一般的にはそうかもしれませんね」


 どう考えても、彼を崇める為に付けられた二つ名ではない。にも関わらず、デルマだけは本気でそれを魅力的に感じているのだ。リバーシュ本人でさえ、そんな風に思ったことは一度もないというのに。


「やはりお前は、ただの馬鹿かもしれん」

「まぁ、酷い!私はずっと、リバーシュ様に賛辞を送り続けていますのに!」

「だから、それが馬鹿だと言うんだ」


 貶され慣れているデルマだが、さすがに理不尽だと頬を膨らませる。そんな彼女の様子に、リバーシュはとうとう喉を鳴らしながら笑った。

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