きらきらと輝く宝石ひとつぶ
「口を開くなと言っただろう」
「ご、めんなさい」
頭の悪い彼女は、何度も何度も同じことを言われる。幼子でももっと成長するだろうが、デルマには向上心も知識欲もなにもない。
「いいわよ、豚。なにが言いたかったのか、話してみなさいよ」
挑発的に鼻を鳴らすプシュケの首元には、きらきらと輝くダイヤモンドのネックレス。
「これじゃないから、かゆくならない」
デルマは、自身の首に繋がれた鎖をしゃらしゃらと振ってみせた。冬は冷たく、夏はかぶれる。首輪はなにかと、不便だと感じていた。
「……それ、お兄様からもらったの?」
「アレクサンダーが、つけた」
聞かれたことには、すべて素直に答える。プシュケは忌々しげに眉を顰めながら、デルマの傍に転がっている首輪に嫉視を向けた。
「わざわざ新しいものを、よりによって今日もらったの?」
「……プシュケ」
「信じられない、こんな屈辱ってないわ!」
アレクサンダーがデルマをただの憂さ晴らしの道具としてしか見ていないと分かっていても、妬まずにはいられない。最近呼吸もままならないほどに病状が進行していることも、心を乱す大きな一因となっている。
地味でつまらないお飾りの婚約者と、薄汚れた妾の子。前者など相手にしていないが、なぜか目の前のこの女だけはどうしても許せない。
兄からの負の感情を一手に受けるデルマが、目障りで仕方なかった。
「……こんなもの、もう要らない!」
輝くダイヤモンドを乱暴に千切ると、それを彼女に向かって投げつける。アレクサンダーよりもずっと弱々しい力だなと、デルマは呑気に思った。
「それは、十三歳の誕生日に父さんと母さんがお前に贈ったプレゼントだろう」
「ええ、そうよ?今朝わたしを見て、二人がなんて言ったか知ってる?この一年、ずっと着けていてくれてありがとうって!まるで、予想外みたいな言い方をしたのよ⁉︎」
「考え過ぎだ、プシュケ」
「いいえ、絶対にそうよ!みんな毎年、私が誕生日を迎えることに驚いているんだわ!」
我を忘れて泣き叫ぶ彼女を、アレクサンダーが宥める。自分だけに向けられる美男からの甘言は、麻薬のようにプシュケの体を痺れさせた。
「ここは空気が悪い。お前の部屋へ行こう」
「ええ、そうね。お兄様の言う通り」
「後で掃除させておく」
華奢な妹の肩を抱きながら、アレクサンダーはちらとデルマに視線を移す。彼女は状況を把握しておらず、ただ無垢な瞳でアレクサンダーをじいっと見つめた。
「……ちっ」
面倒な妹の肩を突き飛ばし、今すぐデルマの首に付いた鎖を引きたい衝動に駆られるのを、彼は短い舌打ちと共に部屋に残して出ていった。