表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
莫迦の真似事ー化け物少女は、無慈悲な邪神の妻となるー  作者: 清澄 セイ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/45

目を逸せないのは、ただ物珍しいからというだけ

「お前は、なぜこの国へ来た」


 リバーシュは不遜な態度に眉を顰めるでもなく、普段通りの濁った声で尋ねた。


「それは、お父様に言われたからです」

「死んだ姉の代わりを務めろと?」

「ええ、その通りです」

「さぞ絶望しただろう」


 その瞬間、アルビノの瞳にぱっと光が灯る。本来の自分など、存在しない。ただ流れる時間に、揺蕩うだけの日々。そこに差し込んだ輝きは、彼女の人生を一変させた。


「いいえ、むしろ逆です!」

 

 知識も教養もない家畜同然だったデルマは、実に人間らしく成長した。プシュケを真似ることで、姿形だけは一丁前に。


「あの時は、本当に嬉しかった!」


 少なくともデルマには、自身のこの感情が本物に見える。


「だって生まれて初めて、自分で考えたんです!こうしよう、ああしよう、それも、あれもって!だけどやり方が分からなかったから、姉をお手本にしました。私と違ってみんなから愛されていたから、たぶん正解なんだろうなって」


 とても嘘や嫌味を口にしているようには見えない、純粋な表情だった。


「それからあなたに出会って、私は雷に打たれました。人は本当に感動するとこんなにも心が震えるものなんだと、身をもって知りました」

「ただ恐怖に支配されていただけではないのか」

「さすがの私でも、恐怖と感動の違いくらいは分かりますわ」


 ふんと顎を突き出して見せたが、そう言われてみれば確かにそうだと納得もできた。初めての体験なのだから、どんな言葉が当てはまるのか正解は導き出せない。


「とにかく私は、自分の意思で希望を持ってここにやって来ました。それだけは事実です」

「では、今は?」

「今、ですか?」


 鋭い光を放つ金瞳に、デルマ姿が映る。予想外の質問に、彼女は何度も瞬きを繰り返した。


「腹を立てたことなど、一度もないと言ったな」

「それは、はい。言いました」

「お前は俺に期待を裏切られ、それに対し不快感を感じたからこそ、今夜は訪ねてこなかった。違うか?」

「不快感……」


 彼女その言葉を、ゆっくりと噛み締めるように反芻する。あの晩からずっと、考えても考えても答えが出ないまま。そのうちに疲れてしまったから、もうリバーシュの部屋を訪ねなくてもいいかな、などと思ってしまった。


(幻滅、失望、期待外れ。辞書で調べたから、意味は分かってる)


 改めて並べてみても、しっくりこない。


「まぁ確かに?天下の【邪神】ともあろうお方が、自ら麻痺毒を飲んで恐怖を紛らわしているなんて、不思議というか本末転倒というか。そんなに嫌なら行かなければいいのに、なんて思ったり思わなかったり」

「……この俺にそんな口を聞くとは、いい度胸だ」

「ご自分で臆病者だっておっしゃったんですよ?怖いわけないじゃありませんか」


 大体最初から、微塵も怖がっていなかっただろう――。彼のじとりとした視線から、そんな台詞が滲んでいる気がした。


「ですが、本当に不思議です」


 デルマはまんまるとした瞳のまま、ずいっと顔を近付ける。不躾にリバーシュのテリトリーに踏み込み、顔の傷を見つめた。


「こんなに立派な勲章をお持ちなのに、臆病だんて信じられない」

「勲章?この醜い傷がか?」

「人は普通、刃を向けられたら反射的に顔を背けるはずでしょう?それを堂々と受け止めているのだから、皇帝から叙勲を賜る以上の栄誉があると私は思いますけれど」


 その言葉に、リバーシュの表情が歪んだ。普段見せる威圧的なものとは違う、どこか後悔を滲ませたような瞳。


(傷の話をすると、なんだか悲しそうに見えるのは気のせい?)


 彼女にとっては、心からの憧れ。アレクサンダーから受けた見るに耐えない腹の傷とは、天と地の差がある。布で覆ってしまうなんてもったいない、いつでも見せつけていればいいのにと本気で思っている。


「やっぱりリバーシュ様は、その傷を含めご自分のことがお嫌いなのですか?」

「なぜそう思う」

「私だったら、もしも自分が【邪神】と呼ばれたら思わず笑ってしまうくらい嬉しいのに、リバーシュ様はいつも険しいお顔をなさっているから」


 いつまでも凝視されているのが不快で、彼は逃れるように顔を逸らした。唯一無二のアルビノは、腹の底まで探られている感覚にさせられる。


「俺には、お前の方が異常に見える」

「具体的におっしゃってくださらなければ、分かりません」

「普通の人間は【邪神】と呼ばれても、嬉しいとは感じない」

「それはリバーシュ様も?」

「当然だ」


 ここまで話すつもりはなかったと、リバーシュは思わず口を噤んだ。そもそもにして、自分はなぜわざわざこの少女を部屋に招いたのか。感情に蓋をして生きてきたこれまでの人生を、根底から崩されそうで腹が立つ。


 関わらなければいいと頭では理解していても、どうしてかそれができなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ