こんなにも、理想的な相手だなんて
(プシュケなら、もっと怖がるかな。でも、別に構わないよね?)
アドルフともアレクサンダーとも違う、圧倒的強者の風格。びりびりと肌を突き刺す殺気に、彼女は圧倒されながらも好奇心を剥き出しにする。
(私、この人の真似事もしてみたい……!)
そんな欲求を、どうしても抑えることができなかった。
「わざわざ迎えに来てくださり、本当にありがとうございます!不幸が続いてしまい、私から行きたいとせがむのも憚られてしまって」
「……貴様、随分と馴れ馴れしい」
「まぁ!そうですわよね、よくよく考えてみればきちんとした淑女のご挨拶もまだですのに。私ったら、はしたなくて恥ずかしいわ」
ぺらぺらとどうでもいい言い訳を並べて、デルマは白い頬を桃色に染める。その女を存分に使った仕草に鳥肌が立ったのは、リバーシュではなくアレクサンダーであった。
「改めまして、私の名はデルマと申します。アドルフ・マリーウェルシュの娘であり、あと半年もしないうちに十五歳になります」
ドレスの裾を軽く持ち、無駄のない動作とともに視線を下げる。その後、アルビノの特性を存分に使いきらきらと潤んだ神秘的な瞳を作り上げた。
「明日には発つ」
当の本人は名乗りもせず、漆黒の被りを指で摘み目元を隠した。
(相手を威圧する素敵な仕草だわ!今夜にでも早速、部屋で真似してみようっと)
不躾な態度など意に介さず、デルマはにこにこと笑む。双方の異様な雰囲気に、絶世の美青年アレクサンダーの存在はすっかり霞んでいた。
「……これはこれは、まさか貴殿自ら出向いてくださるとは思いませんでした」
思いもよらぬ男の登場により、生粋のサイコパスもさすがにたじろいでいた。が、それもすぐさま分厚い面の皮に包んで隠す。ふわりと柔和な表情を浮かべながら、アレクサンダーは再び舞台に上がった。
「事前に知らせてくだされば、マリーウェルシュ家総出でお出迎えいたしましたのに」
「必要ない」
「そうはいきません。今後大切な妹が世話になるのですから、兄としてできる限りのことはしてやりたいと思うのは当然です」
アレクサンダーは【邪神】からデルマを離すように、ごく自然に妹の腰を引き寄せる。一瞬強張ったが、これがプシュケなら喜んで飛びついただろうと彼女は思う。
(大切な妹なんて思っていないくせに、兄を演じるのも大変ね)
同じ演者同士、デルマは彼に同情した。自分はやりたくてやっているから問題ないが、どうみてもアレクサンダーの本性はあれなのだ。
普段から嗜虐嗜好を剥き出しにして生活していくわけにもいかないだろうから、今後私という玩具がいなくなったらどこに捌け口を見出すのだろう、と。
(まぁ、いいか。私はもう、ここに帰って来ないかもしれないし)
人質同然で嫁ぐのだから、命の保証などない。これまでは偶々死ななかっただけで、そもそも安寧の地に身を置いたことはなかった。ゆえに、彼女にとっては【邪神】が残虐非道な人間だろうと、なんら問題ない。
アレクサンダーは美しいが、内面は違う。それはデルマにとって好奇心をくすぐるものではあるが、今は圧倒的にリバーシュに食指がふれていた。
「オニイサマ、トッテモウレシイワ!」
演者としてあるまじき棒演技である。




