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ユウキさん

 目覚めた俺は宿屋と思わしきベッドで眠らされていた。


 どうやらマイは気絶した俺を運び、どうにか最寄りの町まで連れてきてくれたようだ。あんな華奢な体でよく頑張ってくれたものだ。全身の軋みを感じつつもどうにかベッドより起き上がった。


「‥‥‥痛え」


 全身の筋肉が、苦痛の嘆きによる主張を止めない。


 俺の体に共鳴するように、木のベッドもギッと音を鳴らした。


 この痛みが俺が本当に別の世界を引きずりこまれた事を証明してくれた。俺は本当にマイとかいう奴の手でトラックに轢かれ、よくわからない謎の力すらも行使するまでになったのだ・・・。


「俺は一体…‥どうしちまったんだ?」


 おぼろげながらもわずかに覚えている、現実離れした破壊の感覚。単なる一般人である俺が本当にやった事なのだろうか‥‥‥。


 襲ってきた盗賊は、俺が消してしまったのか?‥‥‥そして、マイは?


 ベッドから身を起こし、周りを見渡してみる。


 小窓からそよぐ緩やかな風と暖かな日ざし。落ち着いた調度品に飾られた部屋。若干古臭い気もするが、元居た世界と大きく変わらない印象だ。この部屋からは敵意を感じるどころか優しさすら感じるが‥‥‥。


「あら、やっと起きたの」


「‥‥‥ん?」


 声をする方向を振り向くと、ドアから妙齢の女性がパタパタと入ってきた。中年女性のようにも見えるが、お世辞抜きで三十代くらいに若くも見える。


 身長は女性にしては大きい部類だろう。適度に鍛えているのか体躯も引き締まっており、絶世の美貌をもつ不思議な女性だ。


(綺麗な人だな‥‥‥。二十代にも見えるし、もっと行ってるようにも見えるが、何歳だ?)


「‥‥‥今、年のこと考えたでしょ。捌くわよ」


「すみません微塵たりとも考えておりません」


「なら良いのよ」


 エプロン姿の彼女の背よりキラリと光る細長い得物をみたような気もしたが、見ていないふりをしておく。きっと危険な目に遭うだろうから。


 身なりをさっと整え、新米の教師が話すかのように、これから大事な話をしますというように彼女は表情を引き締めた。


「こほん。おそらく貴方は今自分の身に起きている事がまったく分からないという前提で会話を致しますね。私はリラックの一都市である、エンドの街で酒場を経営しているユウキと申します。副業で街の冒険者を束ねる責任者でもあります」


 副業で凄い事やってるな。というか冒険者ってあの冒険者か。


「‥‥‥一つ聞きたいのですが、貴方は何らかの方法でマイに殺された記憶はありますか?」


「‥‥‥ええ。救済だ神隠しだ訳の分からない事を聞かされながらヒャッハァという声と共に引っ越しトラックに轢き殺されました」


「あぁ‥‥‥やはり」


 ユウキと名乗る女性はこめかみに手を当てて悩みのポーズをとる。若干大げさに見える気もするが。


「事の経緯はマイから確認をしております。あの子は後でお仕置きを施すとして‥‥‥私の経験から察するに」


「察するに?」


「‥‥‥貴方はきっと元々この世界の住人ではなく、マイに連れられてこの世界にやってきた、そうですね?」


 一瞬の沈黙の後、俺は同意の意を示した。


                 ★


「そして何らかの敵に襲われ、貴方はよくわからないままその存在を撃退。その後に気を失った‥‥‥それで間違いありませんね?」


「ええ、間違いありませんよ。ユウキさん」


 俺の現状を憂いているのか、値踏みをしているのか。読み取れない目線が数秒。そしてユウキさんが演算を終えたか、おもむろに口を開く。


「了解、分かりました。それでは僭越ながら、貴方にこのエンドの街で生きる術を授けます」


「生きる術、ですか‥‥‥?」


 唐突に現実的な言葉が俺の脳裏に突き刺さる。


「でもまずは寝起きで頭も回らないでしょうから朝食を摂りましょう。簡単に準備をしてきます。お風呂を沸かしておりますから、入ったら階段を下りてきてくださいね」


 おお、この世界に風呂文化もあるのか!と嬉しくなる。


 確かに俺の体は汗と若干の泥臭さを感じる。マイも必死に運んでくれたような気がしたが、記憶もおぼろで覚えていないのが正直なところだ。自分で清潔にするべきだろう。


「‥‥‥ちょっとまだ事態に頭が追い付いていませんが、今はお言葉に甘えます。色々とありがとうございます、ユウキさん」


「いいのよ、色々変わって疲れたでしょうし、ゆっくりしてきてください」


 俺の意志を聞き、ユウキさんは部屋を出る為に歩を進めた。そしてドアの取っ手に手をかけて。


「あ、別室でマイも休んでいるので静かに歩いてあげてくださいね?貴方の事、ずっと心配していたんだから‥‥‥」


 優しい微笑みをくれた彼女はパタンとドアを閉め、奥に消えていった。


 優しい女性だ。時おり本性も見えるような気がするが......母親みたいな雰囲気すら感じられる。


 しかしながらぽつんと取り残された俺は、落ち着くべく周りを見渡す。


「‥‥‥俺みたいな奴にも、優しくしてくれる人っているんだな」


 ぽつりと、本音が漏れる。優しさに対する術を知らないからかもしれない。意を決めた俺は、ドアに手をかけて部屋の外に出る。


 右に出ればほのかに温かい蒸気を感じるのでそちらが風呂なのだろう。小窓から差す朝日に導かれ、風呂を目指す。


「‥‥‥そういえばマイもこの家にいるのか」


 マイが目覚めたら後でじっくり尋問してやるか。この世界の事も知りたいし。


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