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守護騎士マイ

 神様にはお役目があります。


 迷える魂を救済する事。迷える人々を導く事。私は常に運命の篝火を焚き、常世を照らす存在。


 幾億の時を超え、ようやく出会えたこの魂に。傷つき、破れ、底が見えぬほどの深淵を抱いた彼の魂。常人では支えきれず、生命ごと崩壊するだろうその魂へ。


「私は‥‥‥私だけは、貴方の味方です」


 神楽椋。22歳。一般企業勤めのごく普通の日本人男性。しかし、かつてその生命が私に与えてくれた温もりと恩義を私は一秒も違えず記憶をしております。


 私の全てを、彼の生命へ吹き込みましょう。


 ★


「てめえこの野郎!トラックなんて古典的な方法で殺しやがって!もっと他に方法はなかったのか!」


「ふぇぇ、すみません、すみません!でもこうするしかなかったんですよう」


 ぐりぐりぐりぐり。


 俺は今、マイのこめかみに「適切な激痛」を与えている。


 結局あの後、俺は目を覚まし、膝枕をしてくれていたらしいマイに迫り、その悪行を吐かせた。


 状況を整理すると、どうやらマイが協力者と共に俺をトラックで狙った結果、俺はひき殺されたようだ。‥‥‥まあ、正直それは別に良い。そこまで未練もないし。


 そして、俺達が今いる場所は、エメラルドグリーン色の霧が包んでいる謎の異空間だ。マイ曰く、これは現世と別世界をつなぐエレベーターのようなものらしい。


 音も匂いも無く、足場も霧で隠されている為に若干不安ではあるが、足元からひんやりとしたコンクリートのような感触が伝わることから、きっと問題はないのであろう。


 最近の世間ではこのような展開が流行っているので、何故かそこまで大きな動揺は起きなかった。


 ‥‥‥やる事も無いし、とりあえずマイへの制裁を継続する。


 ぐりぐりぐりぐり。


「痛い痛いいたぃ!」


「うるせぇ!俺の受けた痛みに比べりゃ屁でもないだろ!」


 マイの銀髪がさらさらと踊り、その衝撃をアピールしている。


 ぱっちりとした瞳には涙が浮かび、騒いだ影響からか頬がわずかに紅潮していた。


(なんか残念っぽそうななんだけど、何気に美人だよなこいつ)


 そろそろ俺の拳がマイのこめかみの貫通式を開催できるかという所で、さすがにやめておいた。


「うー‥‥‥、ひどいですよう」


「人を轢き殺しといて何がひどいだ!」


「私はただ指示しただけです、やったのは相棒です」


「よし反省してないな、今度は頭蓋を貫通させてやる」


 マイの顔がしょぼんとしたのでそろそろやめておく。そろそろ聞きたい事があるからだ。


「マイ。結局俺は神隠しとやらで、どこに連れてこられたんだ?」


 単刀直入に、明確に問いかける。


 その問いに対し、マイは頭をぐりぐりされて乱れた髪をさっとと整え、姿勢を正し、俺の全てを見透かしているかのよう視線を向けて語り始めた。


「神楽さんがやってきたこの世界は、“リラック”と呼ばれている世界です。神楽さんが住んでいた世界とはまた異なる、パラレルワールドのようなものだと考えて下さい」


 別人格としか思えない、マイの澄んだ語り口。冷涼な流れは耳に抵抗なく届く。


「異世界‥‥‥ってやつか」


「そうです、そして貴方が幸せになれるかもしれない世界でもあります‥‥‥」


 祈るような眼差し。


「俺が幸せになれるかもしれない……か」


 ‥‥‥そんな世界がこの世にあるのか想像もつかない。


 しかし、目の前にいる銀髪の少女は明確にその可能性を提示した。かもしれないという、あくまで可能ではあるが。


「神楽さんが住んでいた世界よりは色々原始的で、ちょっと牧歌的な世界ですがきっと住みやすいと思います」


 マイと色々話しているうちに、周囲の霧が少しずつ晴れてきたように感じる。


 頬を一陣の風が吹き抜け、わずかながら小鳥が鳴く声がする。鼻腔には新緑の香りが届き、頭上には広大な青空が顔をのぞかせ始めた。


「本当に、俺は別の世界に来ちまったってのか」


「ええ、そうです」


 マイは俺の前にてこてこと駆け寄り、満面の笑みで語りかける。


「それでは神楽さん。ようこそ、“リラック”へ!」


 その言葉は、俺の新たな人生の到来を祝福する、可憐な祝砲であった。


「私は貴方の安寧を守り抜く守護騎士、マイ。今後は大船に乗ったつもりでいて下さい!」


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