ハジメさんとの邂逅
相手の心理を嗅覚で読み取る事で心理戦を制し、無事オークとのポーカー対決は勝利した。
が、栄光と引き換えに想像を絶する吐き気を得ることとなった。
「ぅおぇぇ・・・・・・」
【他力本人】で拝借したオークの嗅覚は、俺の想像以上に強化され拝借できたらしい。
相手の心理すらも読みうる嗅覚を実現できた一方、鮮度の悪い果実酒、獣人の体臭、あらゆる人種の入り交じった混沌・・・・・・。その全てを一瞬で認識してしまい、脳を揺さぶったのだ。
通常の3倍、いやそれ以上か。
今後この世界、リラックで生き抜くためにもこの力の使い方を勉強していかないといけない。
「いや、まいったよあんちゃん。悪かったよ」
振り向くとそこには先程のオーク達がいた。先程の薄汚れた眼は薄れ、わずかながら親しみを感じる朗らかな眼に変わっている気がした。
「俺の勝ちだ、ハジメさんとやらの居場所を教えてもらおうか?こっちは急ぎなんでな」
「了解だ、確実に教える。だが少しだけおれらの話を聞いてはくれないか?手短だ」
オークの問いに了承する。情報がもらえるのであればなんの問題もない。
「本音を言えば面白くなかった。リラックに来たばかりのルーキーが、あの守護騎士マイと連動して、エンドの暗部でもあった黒霞と撃退したなんで、正直嫉妬したもんだ」
「黒霞って、もしかして盗賊のか?」
俺の問いに、オークが全員肯定の意を示した。
「ああ、あいつらは凄腕の暗殺者だ。人間だと聞いているが正直わからん。元々は王宮勤めとも聞いているが・・・・・・、一言で言えば、善人も悪人も殺す理解不能な存在だ」
「善人も、悪人も・・・・・・か」
「しかし、おれらもあいつらには手を焼いていた。やつらはとにかく金を欲する。黒霞が相手では騎士団もあてにならない始末だ、仲間も狙われ始めたからどこかで決着をつけたかったんだ」
もっとも饒舌なオークは丸太のような両腕を組み直し、一呼吸つける。彼の話に頻繁に頷くことから、恐らく過去からの因縁が本当に続いていたのだろう。
「そこであんちゃんが黒霞を叩いてくれた。気分が本当にすっきりしたもんだ。でもな、力に溺れるやつは溺れる。溺れきれないやつを叩き始める。おれらはな、あんちゃんがどんなやつか知りたかった訳だ。今後エンドで仲良くできるやつなのか、そうじゃないのかを」
「俺と友達になりたいと?」
率直に訪ねる。
「ああ、ワケわからない理由で喧嘩吹っ掛けてくる化物なんかに、自分勝手に言われてもと思うだろうけどな」
ふんすと鼻息をならすオーク。正直否定できないところもある。よくわからない理由で勝負を仕掛けられたこともある。ただ、思ったより不快ではない。恐らく、もといた人間界に充満していた悪意と嫉妬、直面し続けた負の感情よりよほど純粋な申し出とは思う。
異世界に入ってできる、始めての友人。それがまさかのオークになるとは思いもしなかったが。
「ああ、俺でよければ友達になろう。俺は神楽って言うものだ。名前は?」
「おお、嬉しいぜ!おれの名前はポーク!よろしくな」
オークがもっていい名前なのかそれは・・・・・・。
★
そんなわけでポークからハジメさんの居場所を聞いた俺はその場所へ向かっている。既に日が高く登り、そろそろ昼頃だろうか。気温はほどよい春の暖かさに近いが、額にわずかな汗が浮かび、喉が水分を迎え入れたがっている。
と、ここか。
いきついた先は「ほろ酔い神様」という看板を掲げた、木造の古ぼけた建物。ここは西洋風の世界かと思ていたが、若干和のあしらいが目立つ。その赤い提灯、立食に適したテーブル、引戸を加味すると。
「もしかして、異世界の飲み屋なのかここは?」
もしかしなくてもそうだろう。鼻腔を刺激する強烈なアルコールの臭い。そして中から聞こえる楽しそうな声。昼間から飲んだくれが徒党を組んでいるのだろうか。
「ハジメさんとやらは姫様と聞くが、こんなところにいるのかね」
まあ気にしても仕方ない。一縷の希望と圧倒的不安を胸に、異界の引戸をこじ開けた。
するとそこには異空間。
「あひゃひゃぁぁ、うめえ!最高だよ大将!ぐふふふ」
ベロンベロンに酔いつぶれた少女が顔を真っ赤にして突っ伏していた。
ショートに切り揃えられたさらさらの黒髪、姫様と呼ぶには明らかにラフすぎる、運動性を重視したであろうホットパンツから延びる健脚と、自身の性別を主張してやまない巨大な双丘。くりっと彫りが深い猫のような眼の中心は鮮やかな深紅にそまっている。俺より幼く見えるが、間違いなく美少女だ。
「んあー?この時間に入ってるるってことは、あたしのことしってるね。誰ぇ?」
昼から酔っぱらえる姫様とは、リラックはずいぶんお気楽な異世界らしい・・・・・・。




