必殺の他力本人!
「エンドの灯籠」というのが、騎士団の名前らしい。
ユウキさんが言うには、ギルドである「赤い旗手」から歩いて5分とかなり近所だと言う。
このエンドという街は大通りにたいして沿うように街が並ぶ、特殊な作りをしている。言うなれば、お城から伸びるメインストリートから延々と街が延びているという形だろうか。
「おおっ」
その街に、人獣、ひれの生えた人間、脚がない幽霊、機械のような人間など、多種多様な生物が商売したり、町を闊歩したり、喧嘩したり、井戸端で酒を飲んでいたり、楽しそうに生きているのだ。
「何て言うか・・・・・・今更ながらまるでゲームの世界だな」
思えば、この世界に来てからマイとユウキさんといった、いわゆる人間としか接してこなかった。しかし、俺は本当に異世界転生とやらをしたらしい。
「おーい、そこのあんちゃん」
「ん?」
どうやら俺が呼ばれたのだろうか。声のする方向に振り向いてみる。
振り向けばそこには古びた酒場の椅子に肘をかけて座り込む三匹の豚頭がいた。
恐らくオークとかいう種族だろう。いわゆる悪役だが多いイメージだが、この三匹はなぜか目付きがやさしい。そして、なんとなく何かをたくらんでいそうな眼だ。
「あんちゃんだろ?エンドをうろついてた盗賊達を思いっきりぶっ飛ばしたの」
「聞いたぞ聞いたぞ!なんか良くわからない光を出して蒸発させたんだろ?」
「あの光がまじでエンドン焼きかけたんだからな?本気で豚の丸焼きになる所だったぜ」
ぶひぶひと声をかけてくるオークたち。正直一斉にしゃべられているのであまり聞き取れていないが、何故か聞いたこともない言語体系のはずだが、意味はなんとなく分かる。脳内には見たこともない単語が羅列していつが意味は分かる‥‥‥そんな不思議な感覚だ。
とりあえずこちらの言葉も通じるであろうという認識で、返答を試みる。
「はいはい、静かにしてくれ。一斉にしゃべられちゃ叶わないから簡潔に答えるぞ」
オークたちは首を縦に降ったことを承認と取る。どうやら言葉は通じるようだ。
「正直俺も訳が分からずあの力を使ったんだ。その後は気を失った手前なんとも言えないが、俺がやったという事実に代わりはない」
おおお、と周囲から感嘆の声が響く。こんな怪しい人間の声を早速信じるとは、エンドの街はお人好しが多いのかも知れない。
・・・・・・と思ったが、そうでもないようだ。回りのお人好しとは別に、目の前のオーク達は口角こそ上がれど目が笑っていない。獲物を狙う獰猛な姿そのものがきりぬかれて存在している。
(さんざん見たな、あの目は・・・・・・)
期待を振り撒き、当然と言わんばかりに徹底した好意の搾取をし、平然と次を要求してくる人外の眼。
人間界で腐るほど見てきたその眼を持つオーク達の反応をうかがう。
「あんな眼をした人間は、ろくな事を言わないさ」
「「「「ん??」」」
「いや、何でもない。それで、俺への本題はなんなんだ」
俺の問いに、鼻を鳴らすオーク達。まるで話が早いと言わんばかりに至近距離へ詰めてきた。漏れでる生暖かい鼻息は強烈な獣臭と共に、本当にそこに実在している事実をまざまざと示してくる。
「あんちゃん、人を探しているだろう?それもあったことのない人間を。さっきからそんな匂いをしてるからな」
「匂いで行動がわかるのか」
「おうよ、職業柄尋問が多いからな。すぐわかる」
どんな職業だ。オークという時点で察しがつくが。そんな想像しつつも間髪いれずに喋り倒してくる。
「そこでだ、おれはあんちゃんの探している・・・・・・そうだな。女の場所を知っている。その場所を教える事を景品に、ひとつ賭け事でもしないかい?」
「・・・・・・賭けだ?」
オークの言葉に、酒場の奥で響くがやがや声が強まった気がした。
「そうともさ。このエンドはな、いろんな奴が集っては各々の流儀を振りかざして生活する自由と混沌の都市。マダムが敷く最低限のルールを守れば互いの取り決めがそのまま法律になるってことよ」
「なるほどな」
「だからおれはあんちゃんの求める情報、探し人の情報を対象に賭けを申し込む。なあに、こんなのはただの遊びだ。エンドに来たてのあんちゃんはスカンピンだろうから、負けても対して求めねえ」
一匹の言葉につられるようにゲラゲラと笑うオーク達。酒場こいつらが本当に言葉通りに遊びなのか、言葉と裏腹に金をせびるのか、真意は知らないがどうでもいい。
推測に過ぎないが、あの眼をするやつは信用できない。
せっかくの機会だから試してみようと思う。
俺のスキル「他力本人」はきっと今みたいな状況にぴったりなのだろう。
★
酒場に入り、奥まったテーブルに対峙するように座る。薄暗ぐ、埃が軽く喉をつく場末の空間。
「まああんちゃん、ひとまず飲みや」
ドンと乱暴におかれたのは、すごし汚れた大ジョッキ。泡が満ちたビールのような飲料がなみなみ注がれている。
「この賭け事が済んでからな。で、何をやるんだ」
そういうと、オークは手先を器用に使い、にやつきながらトランプのような紙束を取り出し、仲間に渡す。手慣れたようにシャッフルしたあとは、互いの手前に二枚ずつおき、残りは山札。木でできた色とりどりの小さな丸い欠片は、恐らくチップの代わりだろう。
「昔むかしにあんちゃんと同じところから来た奴が広めたんだ。わかるだろ?ポーカー」
「・・・・・・ああ、わかる」
異世界でポーカーをやるとは思わなかった。多少嗜んでいたから問題はないが、案外俺みたいな転生者が多いのだろうか。
「リラックホールデムと呼んでいる。あんちゃんのいた世界ではテキサスホールデムとか言っていたかな?」
要はは互いの手札の2枚と場で共通に公開されている5枚、計7枚で強力な役を作るポーカーだ。
プレイング次第では最弱の手札で最強の手札を無力化する、ロマン溢れるゲームだ。
(さて、無事に使えるかな)
突然だが、俺のスキルは大まかに言えば「他人の能力を超強力にして一時的に借りて使える」能力だと思っている。どかで解釈の違いはあるかも知れないが、ユウキさんの見解もあり、大筋は間違っていないだろう。
そして、ポーカーは究極的に統計学と心理戦。故に敵の心理が把握できればそれだけで優位に立てる。
(他力本人、使えるか・・・・・・?捕捉対象は、目の前のオーク)
その瞬間、極めて鋭敏な嗅覚を所有すると共に、強烈な匂いが脳裏を突き刺す。
その表情とは裏腹に、強烈な弱気を示す強烈な腐臭が。
(ああ、文字通りブタなのか、おまえは)
使用方法も何となくわかった。敵の手札も理解した。不正万歳、あとは簡単だ。
以外にも敵は公平に勝負を仕掛けてきてくれたようだ。嘘の臭いはしない。
そして俺の手札は最強の初期手札、2枚のエース。
すまない、俺の生まれは不幸だが、ここぞの運は最強なんだ。
「なんか気にくわないから、さっさと料理してやる」
数十分後、圧倒的敗北による顔面蒼白の豚頭と、強力過ぎる嗅覚に負けて嘔吐を続ける人間が酒場に君臨した。




