【短編】性悪悪女と辛辣メイドの、お見合いミッション始動!
「性悪令嬢のせいで、伯爵家に使用人がいなくなった」
「へぇ」
「トレスタ。メイドとして働かないか?」
「木こりの娘じゃ、お屋敷なんて無理無理。言葉遣いも悪いし」
「いや。性格が悪いトレスタだから向いてるんだ」
「おいおいおい。村長さんよ。面と向かって、失礼だけど?」
でもま。お屋敷に来てみた。
雪かきする使用人がいる。
シルエットがやたら丸い。
「ここで、メイドを頼まれたんだけど……」
「助かるわッ! さ。雪かき手伝って!」
やたら元気な使用人だな。
「勝手に決めていいの?」
「だって私が伯爵令嬢ですもの!」
「性悪の?」
「なッ!? 下賤の者が失礼ねッ! 早く雪かきしなさいよ。門から玄関まで!」
下賤の者って。こりゃ確かに嫌われるなぁ。
まぁでも、二人で雪かきした。
伯爵家ともなると、門から玄関まで遠いんだ。
やっと終わって、疲れて、屋敷に入ってびっくり!
「いったいどうなってんの!? 掃除してないじゃん! なにより寒い!!」
「アンタ、ホント失礼ねッ!」
「アンタじゃなくてトレスタ!」
「私はパジー様。庭師のビリーが、料理も掃除もしてるの。文句言わないで!」
「このお屋敷を一人で?」
「だって、みんないなくなっちゃったんだもん」
「とりあえず、薪は?」
「もうない」
「はぁ!? 薪割りしよう。教えるから」
で、二人で薪割り。
「なぜ割るの? 太くていいのに」
「燃えにくいし、乾燥しにくいから。てか、なんで知らないの? 湿った薪なんて燃やしたら、煙で部屋の中が大変じゃん」
「伯爵令嬢なんだから、知らなくて当たり前でしょッ!」
文句言いつつ、パジー様は斧を振り下ろす。
斧さえ握ったことないのは、動きでわかる。
「どうして、だれもいなくなったの?」
「お姉様の嫁ぎ先に、みんな行っちゃった」
ガスッ! ガンッ! パキン。
「酷いお姉様だねえ」
「悪いのは私だから。いやしい庶子は家門の恥。お母様を悲しませる存在。だから、虐めたの──────」
うんうんうん。聞けば聞くほど、悪いのはパジー様だった。
虐めを見た使用人が、出ていくのも無理ない。
「パジー様。お手紙ですよ!」
精悍な青年が、手紙を持ってきた。
「お母様から? お父様から?」
「伯爵様です」
「ビリー。ありがとう」
受け取った手紙を、パジー様は胸に当て、嬉しそうに微笑む。
「親、いたのかよ!」
「ちょっと」
ビリーは私を物陰に連れ込む。
「伯爵夫妻は、双方愛人の家に入り浸り、パジー様を放置してる。物知らずなのも仕方ないんだ。あまり酷いこと言わないでくれ」
「でも、パジー様は極悪だよ?」
「俺は屋敷内の事件は見てないけど、十分罰は受けただろ?」
「知らないけどさ」
「優しくしてくれ。両親に帰ってきて欲しくて、雪かきしてるんだぞ?」
「……」
雪かきに、そんな意味があったとは。
ほんの少し同情してしまう。
「ビリー! トレスタ! 大変! 春にお見合いだって!」
「伯爵令嬢ですから、十五歳で結婚も普通なのでは?」
「この屋敷に来るのよ!? 掃除しなきゃ!」
「まだ時間はあります。頑張ります!」
ビリーは頑張るのか。
私も、ちょっと頑張ってあげてもいいかな。
だってパジー様は、使用人棟の暖炉で手を温めてるんだ。
「ここにいるわ。あの広い屋敷を温めるのは大変だから、しょうがないでしょ?」
さみしいのがわかってしまう。
パジー様が白い毛皮のコートを脱いだ。
目を疑う!
「着ぶくれだとしても、丸いとは思ったよ? まんまるじゃん!!」
それはもはや、人ではなく、脂肪。
「わかってる。甘い物が好きでね……」
「もう何も食べちゃいけない! 見合いでしょ! 掃除の前に脂肪でしょうがぁ!!」
「失礼だわッ!」
「熱々の風呂入ろう! 脂肪を煮こもう!」
「お風呂ってね。あっためるの凄───く大変なのよ?」
ん? んんん?
「くさッ! ずっと身体洗ってないな?」
「へへ。ばれたか!」
「笑い事じゃないから! よし、バスタブを厨房に運ぼう!」
「なんでよ?」
「何回もお湯を運ぶより、楽だから」
「やだ! ビリーに見られちゃう」
「シーツを天井に吊るして隠せばいい。ほっといたらニキビだらけで、お見合いどころじゃなくなる! さぁ。運ぼう!」
「三人しかいないと、やりたい放題で楽しいわねッ!」
「パジー様は明るいねぇ」
「ええ。救われます」
パジー様、私、ビリーで、バスタブを運ぶ。
「雪に感謝するの初めて。水汲みがすごい楽ね!」
私達は厨房風呂を完成させた!
「あぁ!! 最高だったわッ! けどね。次からトレスタが先に入っていいわ」
「なんで?」
バスタブを覗くと、お湯が残ってなかった。
「ですが。厨房が使えないのは困ります。外になりませんか?」
ビリーが言うので、厨房の外にバスタブを移動する。
露天風呂には、最初に私が入ったけど、かなり爽快!
「パジー様。外、最高……!? ってなに、ココア飲んでんの!?」
「だめ?」
「痩せるんでしょ!?」
パジー様は両手で大切そうにカップを握り、手放さない。
「ってなに、ビリーはフォアグラ焼いてんの!?」
「パジー様がお好きで?」
「わかったよ。仕方ない。料理は私が担当する。まったく」
夕食を私が作った。
「これ。オニオンスープよね? とろけるチーズはどこ? ベーコンの塊も見つからないのだけど?」
「ないっ!」
「メインはいつ出てくるの? デザートは、なぁに?」
「これだけ。痩せるってのは甘くない。腹減ったら雪を食えっ!!」
「トレスタ酷いわッ! スイーツのない生活なんて虐めよッ!」
雪かき、スープ、薪割り、掃除、スープ、水汲み、風呂、スープ。
どうしても耐えられない時は、ゆで卵とナッツ。
翌日からの生活はこんな感じ。
「うわぁ!!」
パジー様の部屋が、一番散らかってた!
「着れなくなったドレスばっかりよ。捨てなきゃね」
「いや。着よう! 痩せて、また着よう!」
「トレスタ……。着るわ! 着てみせるッ!!」
庭園にスノードロップが咲く。
床も窓も磨き上げた!
ついに、お見合い相手の馬車がやってきた!
「こんな日焼けしたマッチョが、伯爵令嬢だと?」
馬車は去った────
「ちょ。私がマッチョって?」
「パジー様も、トレスタも、雪焼けしたマッチョです……令嬢とは程遠く……」
「やり過ぎちゃったかも……」
燃え尽きたパジー様、ビリー、私で、落ち込む。
「パジー。いったい何があったの?」
「何しに来たのよ、ソティル!」
華やかで美しい女性が屋敷を訪ねてきた。
とたんにパジー様は、毛を逆立てた猫のように敵意を剥き出す。
「お母様は?」
「帰ってこないわよ?」
「パジー。私が結婚相手を紹介しても? この屋敷に住み続けるのは大変だわ」
「いやよ。私はここにいたい」
「お父様とお母様を待つの?」
「それもあるけど、ビリーとトレスタと離れたくない。帰って!」
あっさり、女性は帰ってしまった。
「パジー様。今のは?」
「私が苛め抜いた庶子。お互い大っ嫌いなの」
けど、お見合いにさえ帰ってこない親よりマシなんじゃ?
数日後、家令、執事、料理人、家庭教師、メイド、庭師、合計二十人もの使用人がやってきた。
三人のおかしな暮らしは突然終わる。
厨房横露天風呂は撤去。
パジー様も自分の部屋で寝るように。
どんどん、パジー様は白く綺麗になる。
本来の姿に戻るのに、落ちていく筋肉がさみしい。
だって、なぜかビリーまで変わっていく。
家庭教師と家令は、ビリーをビシバシ鍛える。
「俺だって、やってみせます!」
「『俺』じゃない『私』」
「私にお任せください!」
庭園で蝉が騒ぐころ。
「パジー様。お慕いしておりました。結婚してください」
「だってビリーは平民でしょ?」
「ソティル様が養子にしてくださったので、伯爵家に婿入りできます」
「大丈夫かしら?」
「ソティル様が『庶子の私がなんとかなったのよ? 大丈夫』と応援してくださって、勇気を出しました」
「私もね、ビリーが大好きだった!」
そうだったのか。
凄く嬉しい!! けど、少しさみしい。
「トレスタもずっとそばにいてね。三人でこれからも頑張ろうね!」
「まったく。仕方ないなぁ」
なぜか、新婚旅行は三人で、私の村に。
「村長。何かお困りはありますか?」
「伯爵様に、恐れ多い!」
ビリーはもう庭師には見えない。
若いけど立派な貴族に見えて、村長は恐縮してしまう。
「正直に言えば? 粉ひき水車とパン窯が、この村にも欲しいんでしょ?」
つい、私が口を出す。
そして、領内の水車とパン窯の増加が、ビリーの領主としての初仕事になった。
「おいしい匂いのする領地になったわね」
「ダメだよ。食べ過ぎちゃ」
「もちろん。今は、一人占めじゃなくて、みんなにお腹いっぱいになって欲しい」
パジー様と、紅葉の下を散歩してる時に、貴族の夫婦が追いかけてきた。
「パジー! 勝手に親の身分を剥奪するなんて!!」
「お二人とも、今の今まで、気がつかなかったのですか!?」
「ぐぬっ」
「私とビリーは、領民の役に立つ領主になろうと、新婚旅行で誓ったのです! それにはまず、役目を果たさず、財政ばかり悪くするお二人を追い出す必要がありました」
「今まですまなかった。金が必要なんだ! だからパジーは金持ちと結婚してくれ!」
ん?
この父親は娘を金づるとしか思ってないのか?
それをわかって、パジー様はお見合いのために努力したのか?
無性に腹が立つ。
今度は母親が猫なで声を出す。
「ねぇ。パジー。私は実のお母様なのよ? 困らせないで?」
「もういらない」
「親を追い出すなんて、許されないことよ!」
「追い出すも何も、元からいなかったのに」
「トレスタ。そうなのよ! 元からいないと思ったら、とっても心が軽くなったの!」
ガチャン!
門番が伯爵家の門を閉める。
鉄の柵の奥から、まだパジー様の両親は手を伸ばす。
今日も伯爵家の庭園は壮大で素晴らしい。
この門から玄関までの道を、必死で雪かきしたパジー様はもういない。
ここで私を下賤の者と呼んだパジー様はもういない。
領民を思う立派な伯爵夫人になっていた。
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