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家族の絆を築き上げろ

 シュトラウスの本拠地に帰還して、早速黒瀬の執務室に呼び出された。

 重厚なデスクからゲンドウポーズでこちらをじっと見てくる黒瀬から必死に目を逸らす。

 一緒にここにいる田中さんも沈黙を守っていた。

 しばらくして、黒瀬はため息をついた。 


「大川家がファミリアを撃てないのは、家族を繋いでいた大川あかりがコールドスリープから目覚めていないからだと思っていたが……見込み違いだったか」


 心底がっかりしたと言いたげなため息には反発心がむくむくと湧いてくるが、本当のことなのでぐっと言葉を飲み込んだ。

 黒瀬はこちらをジロリと睨んだ。


「もう一度言うがレイヴンを壊滅させたなら君の家族を元の体に戻してやるが……有用性を示せないならスクラップだ」


「ちょ、ちょっとスクラップの話は初耳だよ!」


「そうか? まぁそんなことはどうでもいい。君たち家族が生き延びる方法はたった一つ。強い家族愛を育んで、ファミリアを撃てるようになること。それだけだ」


 ……今の八方塞がりの状態では、もうそれしかないか。

 心の中でおばあちゃんに呼びかける。

 家族に関して私たちに自由はない。本当にそうだったよ、おばあちゃん。家族のためにはどんな状況にも耐えて耐えて耐え切って、成すべきことを成す。そうしたら、おばあちゃんみたいにいつかは楽しく過ごせる時間が来るんだよね。私頑張るよ、おばあちゃん。


 よし、と内心気合いを入れる。覚悟は決まった。家族のために、どんな苦難も耐えてみせる。

 なんだってやってやるぞ!


 でもその前に、いくつか疑問がある。

「シュトラウスの目的は? なんでレイヴンと戦ってるの? 家族愛のある人たちがいないのはなぜ?」


 私たちに組織の命運を背負わせたいのなら、これだけは知りたい。そうじゃなきゃ、戦えない。

 黒瀬はキラーンと目を光らせた。


「いいだろう。教えてやる。シュトラウスの目的はーー」


 急に芝居がかった言い草にちょっと怯む。余計なことを聞いちゃったかもしれない。


「『家族割』を撤回させることだ!!!」


 力一杯黒瀬が力説する。


(か、家族割!!???)

 私はぽかーんとした。


「『家族割』……ってあの家族割? 家族だと色んな支払いがお得になるっていう、あの家族割?」


「そうだが?? それ以外の何がある?」


 さぞ不思議そうに問い返されて、黒瀬と見つめ合う形になった。お互いに小首を傾げる。

 絵面は可愛いかもしれない。おじさんと女子高生の首傾げ。現実逃避。


 執務室内がはてなマークで埋まりそうだったのをみかねて、田中さんがため息をつきながら説明してくれた。


「コールドスリープから目が覚めた人々は再びコミュニティを形成した。大抵の場合、最初のコミュニティは家族だ。しかし、コールドスリープの不具合で記憶野に障害が出た者が続出した。我々シュトラウスはかつての家族が認識できない」


 黒瀬が続ける。


「未来都市は安定した都市運営のため、信頼のある家族に様々な特典を付与した。それが『家族割』だ。かつての家族割は携帯の料金から税金の扶養控除までいろいろあったが、現在の特典はより強力になって家族じゃないと未来都市では生きられないレベルになっている。だから私は、シュトラウスを書類上の家族にして記憶野に障害があっても生き延びられるようにした」


 だが、と黒瀬はデスクを強く叩いた。


「未来都市は、『家族愛がないと家族割は使えませーん』などと抜かして、シュトラウスの家族割を無効化した! 許せん!!」


 ごめん、思ったより真面目な話だった! だけど『家族割』なんて言葉が面白すぎて、頭が混乱する。


「私がポイ活で獲得した運営資金がなければ、シュトラウスの運営ができないところであった。私が超のつく倹約家であることを感謝すべきだぞ、君らは」


 水を向けられた田中さんは折目正しく頷いた。


「おっしゃる通りですね、ボス。ありがとうございます」


 そうだろうそうだろうと、黒瀬は得意げだ。

 田中さんは言葉を続けた。


「でもまぁ、ボスは家族を認識できて、血を分けた息子がいるのに家族割が使えないってことは、家族愛がないってことですよね。その点において同じく家族愛がない大川家をなじっていいわけがありませんよ」


 途端に黒瀬はもごもごと口ごもった。自覚はあるらしい。

 田中さんが私に視線を移して言葉を続ける。


「まぁ、お前たちは記憶野に障害はなかったし、家族愛があればファミリアを撃てる。お前たち一家のコールドスリープ装置を見つけた時はいもしない神に感謝したよ」


「そう、我々の目的に君たち一家が必要なのはそういうわけだ。レイヴンをぶっ飛ばして、実力で未来都市の『家族割』制度を撤回させる! それが我々シュトラウスの目的だ。わかったかね、大川あかり!」


 「お、おう」と、私は頷いた。よくわかんないが、そういうことらしい。

 きりりと黒川は熱のこもった目でこちらをじっと見つめる。


「大川あかり。君がやるべきことは、ファミリアを撃てるようになってレイヴンをぶっ飛ばすことだ。そのためにまずは家族の絆を築き上げろ」


 私はこくりと頷いた。家族を元の体に戻すにはその方法しかないなら、そうするまで。


 こうして、私たち家族による家族愛のための戦いが始まったのであった。


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