お母さんの小粋な改造ジョーク
地球に隕石が落ちてくると分かったのは百年前だ。
世界中がパニックになったらしい。だが、五年も経つと覚悟が決まって争っていた国々も人類の脅威の前に一致団結した。
百年かけてコールドスリープ装置が量産され、世界中に配られた。隕石で破壊された地球の環境がある程度回復するまで人類を眠らせる装置。試算は数百年だった。安全性は百年間あらゆる実験で確かめられ、人類の運命を託すにふさわしいとでっかい太鼓判が押された。
開発した人たちはノーベル賞を三回受賞した。
地球最後の日、私たち家族はリビングに並べられたどでかい棺桶みたいなコールドスリープ装置に入った。
特に別れを惜しむでもなく、実にあっさりと数百年の眠りに落ちた。億が一そのまま死ぬ可能性もあったけど、まさか死ぬ以上に奇怪なことになっているとは……。
いや、夢ですよね? コールドスリープから目が覚めたら家族が全員巨大戦闘ロボットに改造されてた??? そんなアニメで見るような悪の組織みたいな真似が現実で起きてる訳が……。
頭を抱えて呆然としていると、白いロボットからまた声が降ってきた。
「ああ、うるさい。あんたの大声には私も五メートル浮くわ。今の私二十トンあるんだけどね。あっはっは。体重管理アプリも絶句するわ。誰が巨デブよ。まぁ、私も最初は驚いたけどね、体が無いもんはしょうがないし騒いでも何も解決しないから慣れなさい。ね?」
うお、本当にお母さんみたいなこと言う。
お母さんは小説家で、変な言い回しをたくさんする。これはイタズラにしたって他の人には真似できないだろう。
えっ、信ぴょう性が出てきた。やだー!
夢だと思い込みたい私は、咳き込むような勢いで問いかけた。
「本当にお母さんなら、自分のペンネームとその由来を言えるよね?」
「疑り深い子ねぇ。私は大川 詩子。小説家。ペンネームは松城ブラウス。由来は名前の上でも真っ白なブラウスでぱりっと正装して、新人だった頃の心意気を忘れないためよ」
「それは雑誌取材用のでっち上げで、本当の理由は……?」
「着る物に悩むのがめんどくさいからよ。ペンネームを真っ白ブラウスにしとけばトップスは決まるでしょ。あとはボトムとジャケットだけ揃えればいいから楽だし。改造されてからもボディは白に塗装してもらったわ」
「うわああああ、本当にお母さんだああああああ!」
このテキトーさはお母さんにしか出せない。お母さん、本当に巨大戦闘ロボットに改造されちゃったんだ!
「えっ、そうするとお父さんとお兄ちゃんもここにいるの!?」
「そうよ。隣の緑のタンク型が智さんで、その隣の黒の二脚がひそか。何で喋んないのかって? 智さんロボットに改造されてめちゃくちゃ落ち込んでるから現実逃避でスリープしてるの。ひそかは仮想空間にダイブしてゲームしてるわ。まぁこの子はいつも通りね。私の子って感じだわ」
うわあ、めちゃくちゃありうる。気の弱いお父さんに、我関せずのお兄ちゃん。そして、テキトー抜かすお母さん。私が知る家族そのまんま。
ええぇ……、ほんとにみんな改造されちゃったんだぁ……。
現実が処理しきれなくてしばらく呆然としていたが、さっきのおじさんに肩に手を置かれて我に返った。
「まぁ、悪いがそういうことだ。改造した側が言うセリフではないと思うが、お前の家族には助けられてる。落ち着いたらうちのボスのところに行こう。挨拶がしたいらしい」
私は現実に追いつけないまま、唸りながら頷いた。