第十一話
私は宿坊から一歩足を踏み出す。
その時だった。
私の足元の地面が崩れ落ち、地面と一緒に私の体も下へと落ちていった。
下へと落下している際に、私の意識はこの世を離れた。
『こん……のい…ない。』
私はその言葉と共に目を覚ます。
一瞬だけ聞こえたあの声は一体何なのだろうか。
ところどころかすれて聞こえなかったが、どこかで聞き覚えのある声だった。
私は自分の腰をさする。
落ちた拍子にぶつけてしまったようだ。
腰に痛みが走る。
上手く立てずに困っていると、上の方から物音がした。
その物音は段々と大きくなっていく。
物音は穴の上から聞こえてきているらしい。
私は上を見た。
そこにいたのは鬼だった。
私はその光景を目にし、恐怖に襲われる。
鬼が飛び降り、こちらに向かってくる。
鬼はその刀を大きく振り上げると、こちらに向かって振り下ろした。
私は咄嗟に目を瞑る。
しかし、いつになっても、私が感じるはずの痛みが来ることは無かった。
不思議に思った私はゆっくりとまぶたを開ける。
目を開けると、すぐ目の前には鬼の刀があった。
しかし、私に触れる直前のところでとまっている。
その信じられない光景に驚いていると、鬼は刀を鞘がけに戻した。
そして仮面の下から見える鬼の口元が動いたと思うと、鬼は私の前から姿を消してしまった。
姿を消す前の鬼は、私に何かを語り掛けているように感じた。
鬼がいた足元に、ひとつの深い黒をした宝石が、暗闇の中で美しく輝いていた。




