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地球からゴミが消えたら

作者: 雉白書屋

 ある時、この地球上からゴミが消えるようになった。理由はわからない。なったから、なったのだ。

 空き缶、使ったティッシュ、タバコの吸い殻、お菓子の袋、バナナの皮。路上、家庭のゴミも大きさ重さ関係なく全てだ。あれはゴミだ、と認識すればパッと消えてなくなるようで皆、驚きながらも歓喜した。

 一体どうして? お寝坊な神様がやっと目覚め、慌てて人々のためになるようなことをしてくれたのか。

 しばらくの間、ワイドショーなどを賑わせていたが、やはり原因解明には至らなかった。

 大した問題はないのではないか。排泄物も消えるようで、トイレ業者やゴミ回収業者らが職を失うのではないのか、といったぐらい。そう言われた。

 だが、議論が終わることはなかった。新たな問題が浮上したのだ。


 人が消える。


 街という街からホームレスが消えたことに気づいたのは、彼らが消え始めてから数週間経ってのことだった。 

 誰かがゴミと認識したのだろう。それは誰だ? 誰の仕業だ? 人間だ。それも多くの人間だ。分からないことだらけだが、それでも法則というものは、判明していた。

 ある一定数の人間がそれをゴミと認識すればそれは跡形もなく消えるのだ。

 なんと残酷な話だ。だが、いくら耳障りの良い、歯の浮くような言葉で取り繕っても心に嘘はつけない。

 彼らの臭いに鼻を摘まみ、顔を顰めなかった者がどれだけいるだろうか。

 いたとしてもそれはこの世の人間の大多数だろうか。

 涙を流しているのは本心からなのか。

 その心の中では笑い、喜んではいないだろうか。

 堂々と笑う者もいた。それもたくさん。そして彼らはまたこう思ったのだろう。


 消えろ、と。


 ゆえに消えた。囚人が消えた。まだ捕まっていない犯罪者はその認識が難しいのか消えはしなかったが、各地の刑務所に収監されている者たちが消えた。

 普段、人権がどうのとデモをしている連中は静かにしていた。それだけでなく皆、人の顔色を窺うようになり始めた。それは恐れとそして観察。

 

 そして、また人が消えた。


 ヤクザが消えた。知的障害者が消えた。認知症患者が消えた。引きこもりが消えた。統合失調症患者が消えた。生活保護者が消えた。カルト教団が消えた。近所の迷惑者が消えた。ネット炎上する連中が消えた。騒がしい子供が消えた。咳がうるさい老人が消えた。病人が消えた。同性愛者が消えた。差別主義者が消えた。胡散臭い者が消えた。醜い者が消えた。酔っ払いが消えた。太った者が消えた。老人が消えた。B型が消えた。

 

 善い人間がいたら粗探しがしたくなるものだ。綺麗な部屋。ゴミがなければ探したくなるものだ。


 だから、人は人をよく観察した。あれはいらないか。あれはゴミか。消えた者を大事に思っていた人が悲しみに暮れ、また気が狂った。そしてそれも消えた。


 消えた。消えた。消え続けた。


 しばらく経って、地球はかつての美しさを取り戻した。

 ともすれば此度の現象は、この地球の仕業かもしれない。

 人が、風に乗って肩についたタンポポの綿毛を払うのに労力など要さないように、それは簡単なことなのではないだろうか。

 尤も、それをゴミと思わなければ、慈しめば簡単も何もない話だが。

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