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劣等貴族のレクイエム -訳アリ転生の人生劇- (休載中)  作者: 山海ハルト少佐
第四章・劣等の真実編
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72話 闇に堕ちないで

本日はかなり短め

「――つまり、だ。帝国は優等民族の地位を守るために、〈抑止力〉の存在を封印していたらしい。俺たちを劣等だと、迫害する対象だという思想を浸透させ、エンティオ人がいればすぐに殺されるという世界構造を創り上げた。……これが、世界を彩る物語の原型だよ。」

「………」

「全て事実だ…いや、らしい。しかしこの話だと、今まで起きた出来事の全てに辻褄が合う。……信じるしかないんだよ。」


 ヴェルスヘルム一世の書と、エミリオからの答え合わせ。

その事実に唖然とし、人間の性に呆れ、頭がおかしくなりそうで…。

そんな話を、俺はレイナとクリスへ伝えた。

 クリスはともかく、レイナには教えるべきか迷っていた。彼女は魔術師学校への編入が決まって、やっと夢への距離が縮まって。……それはもう、彼女にとっては嬉しいことが続いていたのに。その中で、エンティオ人の真実を伝えるのはどうなのか、と。

 ただ、ここまで共に戦った仲間に、俺という存在を守り寄り添ってくれた人間に対して…その成果を伝えないのは如何なものかと。仮に、エミリオと言う創造主によって敷かれた〈運命〉というレールに従って得た、成し遂げたことの価値だとしても。

 レイナは終始、絶句していた。


「あぁ……そんなことってあるのかよ? じゃあ俺たちは生まれたその瞬間から…奴らに殺される運命だったって言うのかよ⁉ 俺たちはそんなクソみてぇな理由で追い詰められて…隠れて生きることを余儀なくされて……みんな死んだんだぞ? ネストも…マニーも…訳も分からないまま…」


 クリスは、獣のような唸りを上げて叫ぶ。目は充血して、あまりにとち狂った話に苦笑すらして…息もできないほどに、泣いた。

その言葉は、全てのエンティオ人が叫びたいことであろう。

自分たちに罪はないのに、なぜ? それもわからぬまま殺されていった、何百、何千、何万もの人々の思い。その思いを背負ったつもりで戦ってきたクリスは、その自重で自壊しそうになっている。

 ……俺はその嘆きに賛同して、共に叫ぼうとはしなかった。

ただ…静かに涙を流そうと。家族の事を思いながら。



「ねぇ…ヴァルター。」

「……なんだ。」


 不意に、レイナが口を開く。


「あなたはこれから、どうしたいの?」

「………」

「帝国に復讐する? 確かに今は〈密告者〉を見つけることが標的かもしれない。でも…あなたにとっての仇は、それだけじゃないんじゃない?」


 密告者への復讐――、家族を虐殺へ追いやった直接の人物を殺すこと。しかし密告者でさえ、結局は帝国の犬も同然。迫害を正義としたプロパガンダに踊らされた、狂信的な優勢思想家に違いないはず。

 俺の本当の復讐とは……帝国を倒すこと。レイナはそう言いたいんだろう。


「密告者を殺した後に待っているのは…本質である帝国。」


奴らが俺たちにしたことの真逆。……ヴィクトル人を虐殺すること。


「……あなたならやりかねない、でもそんなことは無理だよ。ヴァルターは…みんなを殺せるの? アルザスも、ジャックさんも、フィオナ様も。特に、あなたを慕ってここまで協力しているフィオナ様を、女帝陛下を…」

「―――俺は…その…」

「私があなたの立場なら、私にはできない。……復讐は人間から見境(みさかい)を奪う。それに囚われたら…それこそ狂ってるよ。」


 彼女は俺にその是非を問うのか? 俺は、この世界の(ことわり)に善悪を見出したことはない。ヴィクトル人を敵だと見ていただけ。奴らを悪と言うなら、俺は善になるのか? ―――それこそ馬鹿げた話だ。

 それでも俺は敵の本質に近づくため、ここまで生き永らえてきた。

…今更どうしろって言うんだ。


「あなたにはそんな風になってほしくないよ…。私にとってのあなたは、世界の逆境に苦しめられて、それでも戦い続ける…強い人なんだ。一緒に頑張って生きようって、私言ったじゃん? ――だから…闇になんて堕ちないで。」

「………」


 この世界で生きる続けて、強く成り上がること。それが死んだ者たちへの弔いになると信じて、生き永らえて、戦い続けて。――ここまで来た。

 それでも今は、エミリオと復讐の板挟みで。……迫害の真実を知ってしまった以上、俺に圧し掛かるモノは大きくなって。

――みんなを…殺したくはない。でも、それは殺された者たちへの裏切りで、エミリオが許さない。そう思ってしまうから、板挟みの重圧に押しつぶされそうで…

 そんな俺の手を取って、レイナは言うんだ。

「闇に堕ちないで」と。



《逃げることは許さない。あなたは民族の全てを背負っている。……クーベルトの娘が言う事に惑わされるつもり?》


 黙れ。


《あなたの仇の奥には、帝国がいる。帝国の先には創造主がいる。……憎いでしょう、多くの同胞を殺した彼らが》


 それでも……俺の家族は、俺が殺戮者になることは望んでいない。


《あなたの母親は死の直前、私に祈った。『この子をお守りください』と。私はあなたを運命によって、ここまで守り導いてきた。その私を裏切るの?》


 俺は貴様の玩具じゃない。俺が進んできた道は…いつだって自分で選んだか、レイナたちに支えられて進んだ道だ。貴様のレールに従った覚えはない。


《ふざけるな…!》


 今だけは…黙ってもらう。安心しろ、お望み通り復讐はしてやる。

……密告者だけは必ず殺すからな。



 俺は、意識の中に干渉してきたエミリオに言い放った。

頭痛、嫌悪感、悲壮感、干渉によって引き起こされる症状を堪えながら。

―――フィオナより届く、〈匿名捜査官〉の報告を待って。

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