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劣等貴族のレクイエム -訳アリ転生の人生劇- (休載中)  作者: 山海ハルト少佐
第四章・劣等の真実編
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67話 劣等狩りの密告者

 ―――劣等民族の紋様

エンティオ人が発現させる、優等と劣等を見分ける唯一の方法。

何らかの外的要因により、その感情が極限まで高ぶった時、それが発現する。

少なくとも、定説ではそう言われている。


「師団長…、この〈匿名捜査官〉とは何ですか? 資料によれば、この捜査官の報告で事態が動いたようなんですが…」

「おや、ヒューリーズ殿のような人間なら知っているかと思っていました。」


 俺のような人間…と言う言葉が気になるが。

資料内に何度も出てきたそのワードを、その正体を訊ねる。


「帝国軍内部で、特別な任務を与えられる軍人の事ですよ。基本的には表に出せないような任務が多いので、普段はその名を明かさないのです。だから〈匿名捜査官〉。」


 表に出せないような任務…それを請け負い、名を明かさない。

元居た世界でも、そういう人間はよく映画か何かに登場していた。

それに似た要素を感じるが、


「―――それは、影の精鋭…みたいなものでしょうか?」

「うーん、精鋭とは少し違うかもしれません。私が知る限りですと…内部の粛清などですかね。」

「……粛清」

「それから、官民問わず反体制分子の摘発などですが…。この場合の捜査官は―――、()()()()()()()()()()()だったのでしょうな。」


 つまるところ…秘密警察か。

いや、軍人がそれを行うなら政治将校の方が近いかもしれない。

やはり、この帝国も一枚岩でないわけだ。

一見、盤石に見えるヴィクタリアの帝政。だがその内側は騒々しい。

そもそも南ヴィクタリアだって、帝国を見限ったヴィクトル人が分離独立した国だ。

なら、内部摘発を行う秘密警察がいても、おかしくはない。


「…この捜査官、やはり名前はわからないのですよね。」

「えぇ…。我々が知っているのは、〈劣等狩り〉という異名だけです。」


 劣等狩り―――、エミリオが聞いたら大変なことになりそうな異名だ。

今も、俺の頭がざわつき始めている。

 …これで確定した。

この捜査官、劣等狩りが〈密告者〉であることが。


**********


《素晴らしい…素晴らしいわ…ようやく密告者へ近づいたわね》


 ―――エミリオ

このタイミングで語り掛けてきた…。

ざわついていた頭の中が、一気に(うごめ)きだす。


《長年、あなたが進み続けるたびに…どれだけ喜んだことか》


 黙れ…! 俺は貴様の為に戦ってきた訳じゃない…!


《敵は、あなたのすぐ近くにいるはず…。いえ、あなたにとってはこの国の全てが敵かしら? そうよね! ここの人間はみんな、あなたを人間として見做さない…! あなただけじゃなく…私の子供たちみんな…》


うるさい…! 少なくとも、全員ではない…。共に戦った仲間だっている…!


《そう…あなたはヴィクトル人を仲間呼ばわりするのね? 大好きな家族を奪われてまで…その民族に情が沸いたのね? ――私はあなたの家族が殺されたことを…こんなにも嘆いているのに。大事な子供たちが…》


ジャックさんだって…共に戦った仲間だ!

フィオナは俺の正体を知っても…俺を人として見ている!

少なくとも、彼女はこの国を変えようと―――、狂った迫害を変えようとしている…。


《そう……あなたまで、私を裏切るのね? 私の嘆きを踏みにじるのね⁉ ……なら、あなたの嘆きを()()()()()()()()()…》


「―――⁉ グッ…ガア゛アアアアアアアアアア…⁉」


 激しい痛み…脳が握り潰されるような…激しい――嘆き


**********



『・・・君、一人で寂しくない?』


 ……は?

 突然、目の前の空気が変わった。

感じたことのある雰囲気、聞き覚えのある声、既視感のある光景。

―――俺は、何を見ている…?


『・・・君。あっちでみんなとご飯食べよう? ほら、先生も一緒に…』

『放っておいて。どうせ他人なんだから…。』


 これは――、前世の記憶…? 施設に入っていた頃の。


『…先生、どうして僕なんかに優しくするの?』

『どうして血の繋がっていない僕に、そんな目をするの?』


 その時――施設の子に里親ができ、愛くるしい人々に迎えられていく光景が浮かんだ。


『先生、どうしてあの子は行っちゃったの? 凄く…幸せそうだよ?』

『あの子にはね…家族が見つかったのよ。』

『じゃあ、どうして僕は一人なの?』

 

毎度毎度、その光景が苦しかった。なんで自分だけって…


『僕は一人だ…一人だ一人だ一人だ一人だ一人だ一人だ一人だ一人だ一人だ一人だ一人だ一人だ一人だ一人だ一人だ一人だ一人だ一人だ一人だ一人だ…』


―――ッ! やめろ…やめてくれ…!


『さぁ!自分に合った仕事も見つかったことだし、出来るだけ良い人生のパターンに沿えるように生きよう!』


 記憶の中で時は進む。激流のように、二十年間の記憶が渦巻いていって。

俺の目の前に映ったのは、頭の中に聞こえたのは。

――自分の道を見つけた時。クソみたいな人生に、希望を見出した時。


『――ちくしょう…せっかく、ここまで来たのに…! 俺は―――』


 死んだ…記憶の中で、俺は死んだ…!

希望を見出した瞬間、全て失った…。

やめろ……やめてくれ、ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ……! 


《このくらいね…。でも、私の嘆きはこんなもじゃない。》


 俺が懺悔した瞬間。記憶の流れは―――、ここで止まった。


《さあ…次は、密告者の正体。すぐ近くにいるはずの…あなたが負うべき仇。――そしてその先に、彼はいる…。私の子供たちの、最大の敵が》


「アァ…ガア゛アアアアアアアアアアアアアア―――ッ⁉」



**********



「…ズ殿! ヒューリーズ殿! お気を確かに…!」


 激しい苦痛からの解放。

記憶の流れからの脱出。

歪んだ視界と、揺れる脳で、俺を呼ぶ声がした。


「あぁ…戻ってきたのですね⁉ 今、医術師を呼びましたので…」

「ホッとしましたよ…英雄殿。」


 俺を呼んでいたのは、師団長とベルナールだった…。

ふと、周囲を見渡し。自分が今、どのような状況なのかを確認。

 

「俺は…なんで外に? さっきまで師団本部にいたはずじゃ…」

「覚えていないのですか…? あなたが急に頭を抱えて、発狂しながら地面を這いずり回ったのですよ?」

「えぇ…。途中から見ていた私も、英雄殿がとち狂ったのかと思いました。」


 …エミリオが、俺を苦しめた。

前世の記憶を使って、俺を内から攻撃した…。

俺の言葉を、裏切りと罵って。


「それはもう苦しそうで…見ていられませんでした。―――あ! 医術師が来ましたよ…!」

「ヒューリーズ殿…今日の調査はこのくらいにして、もうお休みください。宿を用意しましたので、医術師に診てもらって安静に…」


 ……怖い。恐怖心ばかりが、俺の中に残っている。

神硝石を喰ったから? だからここまで干渉されるのか?

…奴の気を損ねたら、またこうなるのか…? 

 神に逆らう、天罰か。 ただただ、怖い。


 俺に駆け寄り、担架を持ってきた医術師が触れる。

その部分が、異様に気味が悪い。


*****



 奴の言う通り、密告者には一歩近づいた。

後は、その正体を暴いて…殺すのみ。

そしてエミリオが最後に呟いた〈彼〉という存在。

恐らくは―――、ヴィクトル人の創造主・ヴィクダス。


六年前にエミリオが言っていた。

《密告者に、密告を促した存在がいる》 それがヴィクダス。

となれば、密告者も神硝石を持っているのか。

俺のように創造主と交信し、劣等を狩っているのか…。


 超えた敵の先、最終地点にいるのは神か。


「あぁ、ヒューリーズ殿。思い出したことがあります。」

「……何でしょう、」


「例の、匿名捜査官の事ですが…」

「あぁ…! ランシュタインを劣等だと見抜いた、忠誠心高きあの捜査官!」


 担架に横たわった俺に、師団長は語り掛ける。

ベルナールは、まるで真の英雄を語るような声で。


少しだけ、表情を硬くして。師団長は言った。


「彼は確か――、()()が無かったんです。昔、事故にあったとかで…」


 …左腕。 腕の無い、捜査官。




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