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劣等貴族のレクイエム -訳アリ転生の人生劇- (休載中)  作者: 山海ハルト少佐
第四章・劣等の真実編
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66話 襲撃事件の裏

「お客さん、着きましたぜ。」

「ありがとうございました。―――お代です。」


 帝都から南部行きの馬車に乗り、いくつかの路線を乗り換えて。最終的に通りがかった辻馬車を捕まえて、目的地へ降り立つ。

 ―――故郷・リンクシュタット領 リンクランツ


「……ただいま。」


 戦争終結から数か月。ここの領民もある程度の数が帰還し、戦火に包まれた街の修復に勤しんでいる。その中には、ここで戦った帝国軍兵士の姿も。

 至る所から灰の匂いが消えて、瓦礫も撤去。空に響くのは、修復作業でハンマーを叩く音。新たに植えられる、景観用の樹木。 

 南北戦争の傷跡が癒え始めたこの頃――、俺は再び戻って来た。


**********


「――ごめんください…。先日、こちらにお伺いすると手紙を送りました。ヴァルター・ヒューリーズです。」

「これはこれは…よくぞいらっしゃいました――帝国の英雄殿!」


 俺はまず先に、〈現リンクシュタット領主・ベルナール家〉を訪問した。

真っ先に出迎えに来たのは、当主である〈ドット・リンク・ベルナール〉

フィオナ皇女を救い、今や帝国英雄勲章とやらを授かった俺に、愛想よく丁重に対応する。

 …しかしこのベルナール家。領主と名乗ってはいるものの、現住所を置いているのは貴族の屋敷ではない。

―――帝国軍司令部が置かれていた、街中の建物である。


 ベルナール家の屋敷は、戦闘に巻き込まれて破壊されたらしい…。ご愁傷様。

「ただいまお茶を…」

「あ、そういうのはお構いなく。」


 使用人ですらいない、この没落貴族。彼自身がお茶を入れようとするのを止めて、用件に移らせる。


「それで…遥々帝都からどのようなご用件で?」

「調査したいことがあるんです。―――フィオナ様からは、如何なる事案も調べられる権限を頂いているので、その辺は大丈夫です。」


 こういった状況は、自身の権力範囲外まで調査してしまい、後で問題になるケースが多い。そのための、フィオナ女帝お墨付きの称号。


「具体的に何をお調べで…? 内容によっては、直ちにお手伝いをすることも可能なのですが。」


 無論。その為に、俺はベルナールを尋ねたのだ。――端的に述べよう。


「とある事件について調べたいのです。―――九年前、この領内で発生した〈ランシュタイン一家襲撃事件〉に関することを。…当時の記録や、襲撃を行なった軍人たちについても。」


 一瞬、内から込み上げる物があった。それをぐっと抑え込んで、述べる。

 ―――ランシュタインの名を出した瞬間、ベルナールの表情が曇った。


「ランシュタイン家…、リンクシュタット領内の一部を治めていた、元貴族ですな? ――もっとも、その正体は()()()()でしたがな…ッ!」


 …その血筋を隠して、自分達の土地を守り続けたランシュタイン家。

俺が日本で死に、転生した一族。

彼らに押された烙印は…〈劣等貴族〉


「それで、その劣等一族がどうしたのです? もう何年も前に死んだ連中ですが…」

「――ッ! …事件当時の事を知る人間がいれば、会わせていただきたい。また、軍や警察の調査記録なども、可能であれば調べさせていただきたいのです。」

「……あの事件をねぇ。今更何を調べるのかは知りませんが――」


 ベルナールは態度を一変させ、悪態をつくような雰囲気。


「ヒューリーズ殿はあれを〈事件〉と言いますがね。公的には()()()()()()()()()()()()。なんせ劣等民族を排除しただけですから。その正しき行いを、事件と称するのは如何なものかと…」

「―――ッ⁉」


 ……込み上げてきたものが胸の内で熱くなり、拳に力が入る。

しかし、文字通り歯を食いしばって。その様子を悟られぬように、堪えた。

 どうせそんなことだろうとは思っていたんだ。



「…ベルナール殿が何と言おうと構いませんが―――、こちらはフィオナ様のお墨付きを頂いてますんで。何卒、協力していただきたいのですがねぇ。」

「なっ―ー、…わかりました。では諸々、直ちに手配しておきましょう。」


 胸ポケットから、フィオナ女帝直々に授与された英雄勲章をチラつかせて。

ベルナールは態度を改めて、すぐさま行動へ。

 

**********


―― 南方駐屯軍 リンクシュタット師団本部 ――


「ヒューリーズ殿。こちらが、十年前と九年前の人員記録です。」

「――ありがとうございます。お手数をお掛けします、師団長殿。」


 ベルナールの手配で、再びの馬車移動。市の郊外へ。

この地に駐留する、リンクシュタット師団。再建されたその本部で、俺は調査の手を進める。

 髭を生やした師団長が、わざわざ仕事の暇を割いて手伝ってくれている。


 郊外の軍駐留施設まで出向いたのは、他でもない。ランシュタイン家を襲った軍人たち、その所属と行動を探るため。

―――なにより、父・アンソンが軍人であったから。襲撃者を率いていたのは、アンソンの上官だったはずだ。…たしか、〈ブラジノフ〉と言ったか。そこの繋がりも確かめなければならない…。


「リンクシュタット師団隷下 第一突撃連隊――第二、第三…これか。」


 前年度と、その年度の記録を軽くめくり、目当てのページを見つけた。


「…あった。アンソン・リンク・ランシュタイン…伍長」


 数百名の人員記録の中に、その名前を見つけた…。

彼が生きていた時の、生きていたという証拠が。

 俺たちエンティオ人は、本来魔術が使えない。だからアンソンも、近接戦の突撃連隊所属であったらしい。階級は下から数えたほうが早い、伍長。この国で魔術が使えないというのは、一部の生業で出世できないという事である。


 南北戦争が勃発して、この師団もリンクシュタットの防衛に当たった。その一部は、別戦線へと抽出されたそうだが。


「第三突撃連隊。九年前の連隊長は……ドミトリー・ブラジノフ。―――間違いない…、襲撃者はこの男だ。」


 ブラジノフ連隊長――、その名を確認した時、俺の中で湧き上がる物。

―――怒り。思い出したくもない、だけど忘れてはいけない、あの夜の記憶…。


『ブラジノフ連隊長ッ! 頼む…家族だけは…! 俺は殺されてもいいから――家族だけは殺さないでくれッ! …頼むッ…家族だけはッ…!』


 あの時、屋敷の窓から襲撃者たちを覗いていた俺。その耳に届いた、アンソンの叫びが……脳内で木霊した。丁度、エミリオの声のように。

湧き上がる感情が、俺の額に冷汗を流す。侵されそうになる精神。―――これはエミリオのせいか…? 否、これは俺自身だ。あの瞬間、あの惨劇に十年近く囚われ続けた…俺自身の声だ。


「ヒューリーズ殿。こちらが、ランシュタイン家襲撃の当該情報と詳細になります。」

「どうも…。」


 続いて届けられた別資料。そこに「事件」とは記されていない。

――あくまでも、あの虐殺は正義の行使。連中にとっては、その狂気も正義のうち。


「その資料には、襲撃に関わった連隊所属兵やその行動。そこに至るまでの経緯が記録されていますが……」


 一瞬だけ、師団長が口籠る。


「実はこの一件、原因不明の怪現象が起こっておりまして…。しかもそれは、『口外

するな』と、上から圧が掛かっていましたので…。ですから、ヒューリーズ殿も口外だけは…」


 ――原因不明の怪現象。この師団長は、それを知っているのか?

…この様子だと、知らないことはないようだ。

ただ、表面上の事しか聞かされていないか、それとも口止めされているか。

 なんにせよ、この英雄勲章をチラつかせれば何とかなる。


「それってもしや…()()()()()()()()()()、とかじゃないんですか? 例えばこう…外傷もなく事切れていた、とか――、」

「…な、なぜそれを⁉ この師団でも、当時の事を知る者は一部しかいないというのに…」


 ―――やはり、間違いではなかった。

母・ミアが惨殺された後、その辺りから俺の意識は無かった…。

そして気が付けば――、ブラジノフたちは全員、目の前で事切れていた。

俺の知らぬ間に、何かがあったはず。


 その情報が極秘とされていたなら…尚更おかしい。



**********


―――年・月・日

 我が師団に、匿名捜査官〈劣等狩り〉からの報告



リンクシュタット領 貴族階級 リンク・ランシュタイン家に、劣等民族の容疑

一家構成  当主の男が一名 その母、妻、息子。使用人が一人。

男の名は〈アンソン・リンク・ランシュタイン〉  第三突撃連隊所属 伍長


連隊内部で調査開始


―――――

 調査結果


匿名捜査官が提供した情報、帝都保管の記録と照合し、リンク・ランシュタイン家の略歴を調査

可能性が高いとみて、アンソン・リンク・ランシュタイン伍長を拘束・尋問

 精神魔術(自白剤)によって攻撃した結果――、黒


これにより、リンク・ランシュタイン家を〈劣等民族〉と断定

直ちにこれを排除し、帝国内部の安寧を維持せんとす。

 第三突撃連隊長 ドミトリー・ブラジノフ中佐が、直轄兵を率いて排除任務へ。


その結果報告は、別資料に記載。


**********



 惨劇の以前、アンソンの身に起こったことが、そこには記されていた。

彼は拷問にかけられ、魔術による精神攻撃の末に自白したか…。

それによって手に入れた情報を基に、俺たちを襲撃したのか。


 襲撃の結果は、生き残りである俺が一番よく知っている。

ただ、敵側の記録ではどのように――、ブラジノフらの死が記録されたのか。

 俺は、付属した報告資料を開いた。



**********


―――年・月・日  深夜

 匿名捜査官の報告に基づき、ブラジノフ中佐、及び隷下の十二人がランシュタイン家を攻撃。

拘束したアンソン伍長を連行し、ランシュタイン邸にて処分予定であった。



 ――翌朝

 ブラジノフと他十二名は、師団へ帰還しなかった。

数人の警官、そして兵士が捜索に派遣され、ランシュタイン邸へ。

捜索隊には、あの匿名捜査官も追随していた。


 その後、彼らの変死体が発見された。

遺体の状況は極めて異常。――目立った外傷は無く、襲われた形跡も無し。

ランシュタイン家の者が抵抗した様子もなく、自然と息の根が止まったような状態。


 されど、アンソン・リンク・ランシュタイン以下、その妻と母、使用人の死体が発見され、処分自体は為されていたと推定。

 しかし、一人息子であるヴァルターの姿は確認できず。

周辺には遺体も見られない。しかし、八歳の子供が一人で逃亡できるとも考えられない。


 これらの情報を纏め。

ブラジノフらはランシュタイン家の四名を処分した後、何らかの内的要因によって死に至ったと推定。

それが集団的に発生したため、毒によるものとして処理された。




―――追記

 計十三名の遺体は、サンクトバタリアンへ移送。

帝都の軍務省へ、こちらからは報告していない。

向こうから送られた人員によって、遺体は回収されていった。

師団各位の、これらを知る人間には口外禁止令が掛けられている。


 ヴァルター・リンク・ランシュタインの行方は、未だ不明。


**********  



「ヒューリーズ殿、大丈夫ですか? 顔色が優れないようですが…、」


 これは…一体なんだ?

軍の人間も、連中の死に関する正確な情報を掴めていなかったというのか?

いや、それどころか――、口止めされているのか。

 

 劣等民族を見つけたこと、十三人の軍人が死んだことも、軍務省へ報告していないという事。これにおかしな点は無い。

田舎の駐留軍で死者が出たくらいで、わざわざ騒ぎ立てるようなお役所ではないはずだ。

むしろ、この手の事件は警察機構の管轄に入るから…。


 問題はその後だ。

報告もしていないのに、帝都から人員が送られてきた。

―――しかもそれは、ブラジノフらの遺体を回収していったというのか…?

あの、気味の悪い変死体を…。


 

 そういえば――、

ブラムナスでネストが殺された時、バスキーの手下が同じような状態で…死んだ。

 アルグレイ・ヨースターが戦死した時も。

彼の遺体もこれと同じ状況であったのは憶えている。

 だが、グランドル連隊を壊滅させた()()()は――、死んだそうじゃないか。しかし、()()()()()()()()()()という話で…。


 共通する、変死体の状況。

ブラムナスの時は…ネストが()()()()()させた後だった。

そして俺も、襲撃者に殺されそうだった時…紋様を発生させていたはず。

それもはっきりと。

どちらも、エンティオ人がいた。それも危機的状況で。


 それなら、グランドル連隊が壊滅した時。

謎の敵が…本当にエンティオ人であったとしたら?

俺の仮設通り、敵が紋様を発生さたんだとしたら?


「……紋様が原因?」







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