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劣等貴族のレクイエム -訳アリ転生の人生劇- (休載中)  作者: 山海ハルト少佐
間章・休息編
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ケーキと紅茶を、レイナと共に

「ふぁぁぁぁ…。凄い!」

「一、十、百、千…それなりのお値段…。」


 戦争終結から数週間。経済の疲弊と為政者の暗殺により、帝国は混乱期を迎えている。

しかし、フィオナ皇女が正式な統治者となったことで、内部の不安は治まりつつあった。

 俺たちH・Cは、すでに解散している。帝国からある程度の報奨金が支払われたため、彼らは満足してそれぞれの生活に、また戻っていったのだ。正式な軍隊ではない俺たちに、そんな待遇は訪れない物かと思っていたが…、フィオナ皇女の優しさに救われたようだ。


 そして現在。俺とレイナは帝都の高級菓子店を訪れている。…約束のケーキの為に。


「まさか本当に約束を果たしてくれるなんて…。ありがとうございます!」

「――本当は地元のケーキ屋がよかったんだろ? ベリーが乗ったやつ…。」

「確かにそうだけど…そんな贅沢言わないって。…街も壊れちゃったし。」


 リンクランツの街に入った時、レイナは懐かしい故郷の店を見て回っていた。住民が疎開して、寂しくなった思い出を。

 その時、『誕生日になると父親がベリーのケーキを買ってくれた』という店を見つけたのだ。…そして俺は、「落ち着いたら食べに行こうか」と言ったのだ。…その約束は果たせずじまい。街は戦火に巻き込まれ、その店ももうない。


「でもね、両親は無事だったから! …それだけでもよかったよ。」

「あぁ、そうか。この間、会って来たんだもんな。」

「うん。…ヴァルターの家も、無事でよかったね。」


 両親との思い出の詰まった、あの故郷を守りたい。その一心で戦いに臨んだ。――結果的に、彼女はそれを成し遂げたのだ。両親と再会し、涙を流したそう。

 俺の実家、旧ランシュタイン邸も無事だった。領地のはずれにあったのが、運を導いたらしい。

―ーあの家を破壊されちゃ、調()()()()()()調()()()()()



**********


「……しけた話はここまでだ。―――さぁ、腹一杯食え!」

「よーし…それでは、いただきまーす。」

「いただきます。」


 テラス席。テーブルに並べられるのは、日本円にして一個千円は下らぬケーキたち…。

西方で採れたメローニの果実をふんだんに入れた、フワフワのスポンジケーキ。

グリープの実を使ったソースに、クリームを混ぜ合わせたロールケーキ。

トメットやキュウリバーなどの野菜をメインとしたサンドイッチ。酸味の強い大人の味。

その他もろもろ…色とりどりの食材たち。

 そして、紅茶だ。


 まずはレイナ。初手から果実クリームを一口…。


「んんーーーーーーー! 美味しい…。」

「おぉ…こりゃすげぇや。そこにすかさず、紅茶を…。」


 うん! 糖分が脳を破壊しようとしたところを、紅茶の渋みが丁度良く中和してくれる…。

これは美味い。確かに美味いが…欲を言えば、苦めのコーヒーが欲しい。


「うむぅ…。メローニが口の中で溶けるぅ…。」

「美味い美味い。流石は高級店! 金かかってると違うなぁ…。」

「――お金の話やめない? 純粋に楽しもうよ。」

「……すみません。謝る、謝るからそんな怖い顔しないで。」


 続いてロールケーキ。口に入りきらんほど、豪快にナイフで切り取り…


「――はぐっ…。んんーーーーー!」

「すっげ、一口で行きやがった。」

「むふふぅ…最高…!」


 一口、また一口…レイナの胃に吸収されていく。あっという間に無くなった。

こいつ、小柄の割に結構食べるんだよな。流石は、自称・貪欲な女。


 …しかし、本当に美味い。

ケーキの上のみならず、スポンジの内部にまで敷き詰められた果実。口に入れた瞬間、驚くほど甘い果汁が濃厚なクリームと合わさり、俺の脳を幸せホルモンで支配する…。

さらに飲み込んだ後、鼻を抜けるほのかな香り…。これを美味いと言わずして、何を美味いというのか。


**********


 ケーキと紅茶を交互に楽しみながら、口元にクリームをつけて無邪気に頬張るレイナを、ただ静かに眺める。…やけに不思議な気持ちだ。なにか、新鮮な感情。

 ふと、レイナは食べる口を止める。


「…意外と、初めてかもね。二人きりでゆっくり食事なんて。」

「あぁ…。言われてみれば確かに!」


 そうか。この新鮮な感情は、これが原因か。

 俺たちはそれなりに長い時間を共にしている。故郷を、学校を、評議大会を、戦場を。むしろ、幼馴染ともいえるかもしれない。それなのに、この感情。

 今までこういうことが、何気に無かったのだ。お互いの慣れない雰囲気を、微かに感じていたらしい。


「…男女、長い付き合い、二人きり、お茶する…。」


 俺はふと、こんなことを考えた。何故だかわからないが、不意に頭に浮かんだのだ。


「―――これって実質…デートでは?」

「……はへ?」


 俺はこの時、自分がどんな意味合いを持つ発言をしたのか、よく理解していなかった。

見る見るうちに、彼女の顔が、エルフ耳が紅潮していく。


「――いや…いやいやいやいや⁉ デデ、デートだだなんてそそそんな⁉」

「え…違うのか? 世間ではこういうシチュエーションを…。」

「い、いやデートと言うのは…! …それはまぁ、こういうシチュエーションももちろんそうなんだろうけど…⁉」

「はへぇ…? じゃあ何だってんだ。」


 完全にしぼみきり、ケーキの果実のように真っ赤になった顔を、その碧い髪で隠して。小さく、(かす)れるような声で呟いた。


「…デートっていうのは…! こ、恋仲の男女がするものであって…。」

「………あ。」


 失言。そして、己の間抜けさを嘆いた。―――俺は一体…なんてことを抜かしたんだ⁉

 さらに俺のこれまでの記憶が、羞恥心をさらに締め上げて、増幅させる。

皇女奪還の際、俺がレイナを強く抱きしめたこと…。あの時のセリフの数々。

そしてブラムナスで…。『一緒に生きよう』と、彼女が言ったこと。その言葉が、自暴自棄になっていた俺を引きずり戻してくれたことも…。



「――あぁいや⁉ 今のは決してそういう意味で言ったんじゃ…!」

「……うん…。」


 ―――やらかした…。


「…ケーキ、食べようか…。」

「……うん。」


 終始和やかに、とはいかず。気まずい空気、両者共に赤面しながら、残りのケーキに手を付けるのだった。

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