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劣等貴族のレクイエム -訳アリ転生の人生劇- (休載中)  作者: 山海ハルト少佐
第三章・南北戦争編
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58話 ネズミはネコの下へ

「――隊長、いよいよもってヤバいです。」


 誘拐グループの一員が、ガジリスを殺した男へ進言する。

それに対し男は、さも落ち着いた様子で答える。


「例の襲撃者の事かい…?」

「はい。今日も先遣師団の一個小隊がやられました…。我々の動きに多少勘付いているのでしょうか。」

「大丈夫さ。それらの部隊の迎えには期待していない。…もはや本命はワーグランツの第三軍団本隊だよ。」


この男からは、不安要素など微塵も感じない。

むしろ、いかなる状況にも動じないほどの胆力が無ければ、「敵の政府要人を暗殺し、皇女を誘拐する」なんて特別任務が与えられるわけがない。

この者を含めたグループの皆が、状況に不安を抱いていた。

作戦は成功するのか…、自分たちは無事に帰還できるのか…。


「…ったく、頼むから大人しくしておいてくれよ? 皇女様よぉ。」

「――怖い…お外に出たい…。」


 小さな木箱の中に寝転がり、小さく訴えたフィオナ。

恐怖心とその幼さから散々泣き叫んだ結果、可愛らしかったその声は(かす)れてしまっている。

『危険物質梱包につき、開封禁止』と書かれた木箱。

この中に入れられたまま、自分はどこへ連れていかれるのだろう。

一心不乱に祈っていた神も、自分を助けてはくれない。

…絶望だ。


「大丈夫よ…、お迎えが来れば明るい所へ出られるわ。きっと悪いようにはしないわよ? 美味しい物だって食べさせてあげるから…。」

「――いらない…帰りたいよ…。」


 そこへ、隊長である男が口を開く。


「もうじき第三軍団が、ワーグランツの制圧を終える。我々は帝国軍が一掃されるまで、この()()()に潜伏する。」



 タイムリミットは…刻々と近づいていた。



**********


― ワーグランツ近郊 帝国軍補給路 ―


「急げ急げ…ッ! もうじきここも敵が来る…ッ‼」

「――頼むから見つかってくれよ…皇女様よ!」

「ヴァルター…クリス…! ちょ、ちょっと待ってぇ…!」


 大急ぎで突っ走って、伝令兵の馬を奪っ…拝借して荷物を乗せて、元の拠点から十キロは離れたこの場所までなんとかたどり着くことが出来た…!

アルザスの情報が正しければ、フィオナ皇女はこの先のどこかにいるはず…。


――その瞬間だ。


「―――うお…ッ! …なんの音だ。」

「これは…、砲撃魔術? クリス、どう?」

「あぁ…感じるぜ。強力な魔力が、この街に渦巻いてやがる…!」


クリスの魔力感知が働く…。という事は、やはり戦闘が行われているという事。

誘拐グループか? いや違う…、明らかに大規模な戦闘のサウンド。


「やはり来たか…、南軍の総攻撃だ。 これでこの周辺一帯を手中に収めるつもりなんだろう!」


ジャックさんが言うには、そう言う事らしい。


 さらに情報が正しいなら、フィオナの身柄が完全に敵の手に渡るまでそう時間はない…!

帝都で誘拐された日付、そしてここまで連れてくるまでの時間、南軍主力部隊がワーグランツを攻撃したタイミングも全て込みで…。

――猶予はもって一日だ…!


急展開で誰も追いつけやしないが、事態は一刻を争う。



「――おいッ⁉ なんだ貴様たちは…!」

「待て…止まれ! この先では戦闘が…、」


 街の境界へ差し掛かった頃、周辺を警備していたであろう帝国軍部隊に止められる…。

今は事情を説明している暇はないのに…!

俺たちはその静止を振り切り、市街地へと突入する。


「あぁ、そうだ! 物資の集積所はどこですか⁉」

「集積所だと? そんな所に行ってどうなる…! あそこはもう敵の手に堕ちるぞ!」

「…いいから! さっさと答えてください!」


 一瞬だけ足を止め、兵士のおっさんに慌ただしく訊ねてみれば、予想通りの事態だ。

集積所が敵の手に堕ちる。タイミングが合いすぎるだろ…!


「――ッ中央広場の手前に、ワーグランツの旅館がある! その建物と庭園が集積所になっているぞ!」

「ありがとう…!」


 その方向からは、兵士たちの方向が轟いている…。

一月前の〈リンクシュタットの戦い〉以来…。久しぶりに体感した、大規模戦闘。

その時は大勢の仲間がいた。そして、敵司令官を討ち取った。


しかし、今回は違う…!

H・Cの仲間も無し、アルザス達帝国軍の囮も無し、作戦も無し…!

しかし与えられた使命は、ここにいる()()()()()()フィオナ皇女を救い出すこと…。

クソッたれのヴィクタリア帝国の命運をかけた、俺たちの闘争。

復讐とか恨みとか、本当に今は無しだ。

…戦争に負ければ全てがオジャンだって、ようやく気が付いたから。



「…僕の成したことによって、その価値が図られる…。 神よ…我に力を与え給え…!」


 相も変わらず同じことを繰り返すジャックさん。

今の感情は勇気か、怒りか、恐れか、わからないが何でもいい…。


「ヴィクダス様…証明して見せます。 今度こそ、真のヴィクトル人として…。」



**********



「見えたぞ…アレが集積所の旅館だ…!」


 砲撃魔術が降り注ぐ中、市街地を走り続けて数分。

俺たちの視界には、豪華な5階建ての洋館が映り込んだ。

南軍はあそこを目指して攻撃してきている…。はたして、皇女を見つけ出す時間があるだろうか。


「ジャックさんよ…、帝国軍はどうなってんだ⁉ 皇女を探すのを手伝ってもらえないのか⁉」

「多分無理だ! 彼らも敵を抑え込むので精いっぱいだよ!」


でしょうな! …なら、他部隊からの応援は?


「――ゼスタ元帥からの増援はありそうですか⁉」

「わからない…来るかもしれないが、彼らも彼らで皇女を探していたんだ…! 難しいかもしれないね…!」」


 …もう最悪。増援も無し、敵が来ている、そして皇女を探し出せ…。

――あの()()()()()から!


「――え? なにこれ…想像の二十倍は多いんですけど…。」

「この中から…ちんけな子供一人を探すのか…?」



 俺たちが見たのは、集積所にこれでもかと積まれた木箱の数々…。

パッと見ただけでも数百はある。しかもこれは、旅館の外に置かれている分だ。

このデカい旅館の中まで探すとなれば…、


「…ヴァルター、マズいニュースだ。敵の大部隊が、すぐそこまで来ている…。」

「魔力感知に引っかかるのか…?」

「あぁ、間違いねぇな。」


…さぁどうする? 時間に余裕はない。

敵が本格的にこの集積所へたどり着けば、それこそ捜索の猶予はなくなる。

そもそも本当に、この場所にフィオナ皇女はいるのか?

前提として、そこに確証が無いのが問題だが…。それを議論してはどうしようもない。

もう他にアテは無いんだ。アルザスの手紙を信じるしかないんだ…!



「――ヴァルター、みんな…行って。私は帝国軍と一緒に、敵さんを喰いとめてくるから…!」


 なに…⁉ こんな時にレイナは何を言いだすんだ…!

それはこう言う状況で、絶対に行っちゃいけないセリフで…、


「こんな時にふざけたことを抜かすな…! 第一、お前を一人で残していくなんて…、」

「そうだぜ嬢ちゃん!」

「レイナちゃん…、」

「私は大丈夫! それとも何…、みんなは私の腕前を疑ってかかってるの?」

「いや…そんなことは!」


 俺たちに背中を向け、敵軍が迫る方向へ杖を向けるレイナ。

まだ敵は見えてこない…、だがじきに来る。

なぜだ…なぜお前は…、


「嬢ちゃん…、なら俺が行くよ! 乱戦なら、この魔獣狩りのクリスの得意分野だ…!」

「クリスはダメだよ。フィオナ皇女を探すのに、あなたの魔力感知が必要になるかもでしょ?」

「そ、それは…、」

「それに私の氷魔術は、狭い室内じゃ有効的じゃないよ。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()でしょ?」


合理的…確かにそうだが、


「あれ、いつの間にか合理的な判断が出来なくなっちゃった?」


そういうお前は…、お前はいつからそんなことを言うようになった…?

本当はもっと、合理的なんて似合わないような奴じゃないか…。


 レイナは開き直ったように…、小さく笑って見せて。


「――私は貪欲な人間なの。合理的なヴァルターと違って。 …だからね、大好きな人の役に立つことが、今の私のしたいことなの。」


…前言撤回だ。やっぱりコイツは合理的じゃない。

何が大好きな人だよ…、こんな時にクサいこと言いやがって。



 それを聞いたクリスもジャックさんも、とうとう開き直った。



「…八ッハハ! ヴァルターよ、女にそこまで言われちゃどうしようもねぇな!」

「…確かにね。ヴァルター君、彼女の意志を尊重したいと言っていたのは君だよ? あの言葉は嘘かい?」


 煽りか? 俺が女一人を戦場に残して、先へ進むような非道な男に見えるのか? お前らは。

…でも、あの言葉は嘘じゃない。

信頼され過ぎるのも、裏目に出ることがあるんだな。



「――絶対に、死ぬんじゃないぞ…。いざとなったら逃げろ?」

「…了解、指揮官殿。 それじゃ、行ってらっしゃい。」



**********



「――隊長。ネズミが三匹、この建物に入ってきました。」

「なに…居場所がバレたのか?」

「えぇ…噓でしょ? そんなヘマはしてないはずよ?」


 フィオナが入った物を含め、いくつもの木箱をカモフラージュとしてまとめ上げていた誘拐グループ。

お迎えがもうじきやってくる…作戦は成功だ。という事で、ヴィクタリア帝国からの撤収準備を済ませていたのに。

まさかこの期に及んでこうなるとは。誰も予想していない。


「――全員、武器を持て。南へ帰るのは、そのネズミを全員片づけてからだ。」

「まったく…しょうがないわね。神聖なディナーの前に血は見たくないのだけれど…。」


 館内にうっすらと差し込む光が、彼らの刃に光の尾を引かせる。

ネズミを狩るため、ネコたちが爪を研ぎ澄ませ、己の縄張りで待っているのだ…。


「隊長…、ネズミは三方向にそれぞれ分かれたようです。…何かを探している動きですね。」

「これで、奴らがフィオナ皇女の居場所を知ってきたことが確定したな。」


 血を流すことになるのは…ネコかネズミか、勝つのはどちらか。



「みんな、こちらも三つに分かれて一人ずつ相手をしてやれ…!」






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