表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
劣等貴族のレクイエム -訳アリ転生の人生劇- (休載中)  作者: 山海ハルト少佐
第三章・南北戦争編
58/76

57話 アルザスの手紙、皇女の居場所

 まただ…また外れかよ…!


「フレイム グレナディア…ッ!」

「フリージング カノン…ッ!」


 俺とレイナで、発見した魔獣兵の相手をする。

いつもの如く、俺が爆破攻撃をして、レイナの氷塊で残りをぶっ叩くやり方。

これはかなりいい戦い方を見つけた。――だがそんなこと言っている場合じゃない…!


「アイアンソード…! ――クソッたれ…こいつも違う…ッ!」


錬金術で左腕を剣に変形させ、呼吸を荒くして敵を斬り続けるジャックさん。


「――おいジャックさんよ…落ち着けって…⁉」

「落ち着いていられるか…‼ このままでは…本当に…」


同じく、戦闘に参加するクリスが彼を抑え続けた。

だがその静止も聞かず、我を忘れたようにジャックさんは剣を振るい、敵に流血を求める。

凶戦士となった彼の恐ろしさに、蹂躙される敵兵は泣き叫ぶ…。

その声を聞いたら、流石の俺でも哀れに思えてくる。


**********

 

 状況を解説しよう。

皇女を探し始めてから三日…、その短期間でいくつものアテを潰しまくった。

怪しい動きを取る敵を見つけて、皇女を探す。

誘拐犯じゃなければ尋問して、敵の動きを聞き出す…。


これを何度も繰り返した…。

だが全てダメだった…! 皇女も、その手掛かりとなる物も、どこにもない!



「―――クソ…クソクソクソ…ッ‼ フィオナ様はどこだ…どこに連れ去った⁉」

「おい、止せって…!」


 荒ぶるジャックさんを、クリスが抑える。

この前からずっとこうだ…。皇女が見つからないことに焦り、その怒りを敵にぶつけている。


「――このままでは帝国が危うい…、ゼスタ元帥たちも成果を上げられていないじゃないか!」

「確かにマズいが…、あなたがそこまで荒ぶる必要は無いんじゃないかな。」

「焦ったってどうにもなりませんよ? はい、これ食べて糖分補給。」


レイナがポケットに入れていたお菓子を差し出す。

この状況でそれは煽りにしかならなそうだけど…。


「――次だ、次の敵を探すんだ…! 今度こそは…今度こそは…!」

「ジャックさん! 本当に落ち着いてください…、あんたは一体――、」

「黙れ…ッ! ズベコベ言っている暇はないんだ‼」


 …ジャックさん?

なぜだ…なぜこの男は、こんなにも焦っている?

そんなにも皇女を助けたいのか…? この男はそんなにも愛国者だったのか…?

そしてなぜ…、この男は泣きそうになっているんだ…。

焦り? 怒り? いや、違う…、これは。



「…あんた、何をそんなに恐れているんですか…?」

「違う…僕は…、僕は…!」


 この三日間、おかしな感情をむき出しにしていると思ったんだ。

それは、恐怖だ。俺にはわかる。

ジャックさんは何かを恐れている…。訊ねたって、その理由を教えてくれそうにないが。


「僕は…証明しなきゃいけないんだ…。僕の忠誠を…闘争を…!」

「証明…?」


頭を抱え込み、泣き叫ぶように訴える。


「――僕が成すべきことで、それを成すことで…その価値が図られる…! だから僕は…、」


 彼が何に縛られているのか、俺には知りえない。

忠誠だとか闘争だとか、そんなものは。

ただ一つ言えるのは…自分が残す成果によって、自分の価値を証明しようとしていること…。

それを証明し、誇示しなければ、彼にとって何かしらの悪いことがあるという事だ…。



**********


「――ファドラー中尉…! ファドラー中尉はいますか⁉」

「ん…なんだ?」

「誰か来たね…、アレは帝国軍の士官かな。」


 接近する馬の足音。俺たちのもとへ、一人の帝国兵が早馬で駆けてきた。

あの様子だと急ぎの用事か…伝令か?


「なんだい…伝令か? ゼスタ元帥か…、」

「いえ、違います! ファドラー中尉がいるという事は…君がヴァルター・ヒューリーズか⁉」

「―――え、俺?」


 なんと、伝令兵の用件は俺宛てだったのだ。

帝国軍が俺に急ぎの用事とは…、「俺か、あるいはHCの仲間が何かをしでかした」という考えが頭をよぎる…。

非常に不安だ!


「中尉と共に行動をしていると聞いたので、足跡(そくせき)を追ってみたらやっぱりいました!」

「ヴァルター、何かやらかした?」

「いや、なんでそうなるんだよ。 …あの、俺に一体何の用件があって?」


そう訊ねると…、帝国兵は懐から、ゴソゴソと何かを取り出す。

取り出して、俺に差し出したもの。

それは封入された手紙であった。


「君宛てに手紙が届いていたんだ。――差出人は、()()()()()T()()()()()()()()()()()()だ。」

「――アルザス…ッ⁉ …ってちょっと待って、士官候補生⁉」

「えっと…要するに凄くエリートな人…だよね?」

「おいおい…こりゃまた随分と出世したもんだな。」



 士官候補生…あいつはとうとう、軍人になる道を選んだってわけか。

ならきっと騎士軍だろう。戦死した兄の意志を継ぐとでも言いたいのか。

堅苦しい家柄に嫌気がさして、自由な暮らしを求めていたアルザス少年はどこへ行ったのやら…。



「…なんにせよ、今更なんの用だってんだ! ()()()()()()、俺は忘れたわけじゃねぇぞ…!」


 あいつに言われた言葉…。

「家族を失った悲しみが、君にわかるのか⁉ 無いだろうね! だから俺の悲しみがわからない!」

…この言葉が、手紙の封を切ろうとする瞬間に甦る…。

チクショウ…、何がわからないだ…ふざけやがって!


 俺は思いっきり、封を破り切った。


**********


 手紙には、以下の通りに記されていた…。


――――――――――――――――――


『ヴァルターへ、

 君と決裂して暫く経つけど、今は近況報告やら仲直りやら、そんなこと言っている時間も余裕もなさそうだ。


 君やレイナちゃん、クリスがいる前線でも、フィオナ皇女の捜索が進められている頃だろう…。

頭のキレる君ならわかっているはずだ、フィオナ様は南軍に誘拐されたという事。

誘拐の目的は、フィオナ様を人質にして戦争を有利に進めるだとか、その辺りだという事も。


 単刀直入に言おう。俺がこれから伝える情報は、()()()()()()()()()()になるかもしれない。


 俺は先日、帝都への帰路の途中である貨物車列と出会った。

前線への贈り物を運ぶ馬車だと聞いたけど、その車列には民間人が乗っていたんだ…。

その中に、とある女性とその娘が乗っていた。

戦場にいる夫、娘にとっては父親に会いに行くと、そう言っていたが…それは嘘だ…!


思い返してみれば、かなりおかしな点があったんだ。

特におかしいのはその娘…!

その容姿は、金髪に碧眼の幼い少女…。そう、フィオナ様と全く同じなんだ。

その時、その娘は眠っていてわからなかったけど、よく見ると()()()()()()()

アレは麻酔効果のある毒草を使用された時の…そんな顔色の悪さ。


 いろいろとおかしいことが山ほどあるけど…その時に気が付かなかったのは俺の落ち度だ…!』



―― 手紙は一度途切れ、二枚目へ突入する ――



『 間違いない…()()()()()()()()()()()()…!

 俺にはわかる! なんせ、貴族の交流で以前にお会いしたことがあるんだから!

思い返せばあの母親も、他の民間人も、喋り口調に(なま)りがあった…!

南ヴィクタリア特有の訛り方だ。

つまり、そいつらが誘拐犯だ…!


 補給物資を運ぶ車列に偽装して、民間人として怪しまれずに南まで向かう。

これが奴らの狙いだったんだ…!


ヴァルター急げ! 

補給物資と共に南へ行ったなら、タイムリミットはもう残り僅かだ…。

前線へ向かった補給を探って、その()()()()()()()()()()()()()…!

きっとその中のどこかに、フィオナ様がいるはずだ…!


 …君にあんなことを言った手前、ここまで懇願するのは虫がいいと思っているよ…。

それでも頼む…! 今この瞬間、帝国の運命を握る少女が消えようとしている…!

――俺がこんな時に頼れるのは…、君だけなんだ!


 どうか…力を貸してくれ…。』


――――――――――――――――――


**********


「…本当に…、虫が良すぎるよ…! お前は…。」

「ヴェルタ―、どうする⁉ アルザスの情報が本当なら…、」

「あぁ…! こりゃ大きな手掛かりだ。」


 俺は手紙を握りしめ、今一度あいつの言葉を思い起こす…。

それと同時に、今まであいつと一緒に歩んできた戦いを。

リオデシア拉致事件、評議大会、魔石龍討伐…そして今の南北戦争。


それらにあった価値を、決裂のときに忘れかけた価値を、この手紙を通して思い起こそうとした。

手紙の筆跡は、酷く(こす)れていた。

力強く、焦りながら、だが強い意志を込めて書いたであろう情景を、この太いインクの筆跡が物語っている。



「――ジャックさん、贈り物や物資が送られてくる場所って、この辺だとどこですか…⁉」


俺はライフルを握りしめ、移動の準備を進めながら訪ねた。


「…戦線中央にあるワーグランツの街に、大規模な集積所がある。ほとんどの物はそこで降ろされ、そこから各軍団へ送られていくんだ…。」


「…それって、人間もそこに届けたり、降ろしたりしますか?」

「もちろんだ。しかし連日続いた敵の大攻勢で、ワーグランツは一度陥落してしまっている…。―――まさか‼」


 そう、そのまさかだ。

かなり疑問には思っていたんだ。帝国軍が大勢いる戦線で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と…。


「帝国軍に見つからず、フィオナ皇女を運ぶ…。それが生身ではなく、ワーグランツで()()()()()()()()のだったら?」

「…それを南軍が回収さえすれば、皇女は簡単に南ヴィクタリアへ…!」



 恐らく敵はアルザスの言う通り、民間人に扮してワーグランツへ向かったのだ。

そしてワーグランツ付近で降ろされ、集積所の物資にフィオナ皇女を紛れ込ませ…、

ワーグランツを占領した南軍が、それを回収する…!



「急ぎましょう…。フィオナ皇女と誘拐犯はワーグランツ、その集積所にいます…!タイムリミットは、ソレが輸送されるまで…!」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ