57話 アルザスの手紙、皇女の居場所
まただ…また外れかよ…!
「フレイム グレナディア…ッ!」
「フリージング カノン…ッ!」
俺とレイナで、発見した魔獣兵の相手をする。
いつもの如く、俺が爆破攻撃をして、レイナの氷塊で残りをぶっ叩くやり方。
これはかなりいい戦い方を見つけた。――だがそんなこと言っている場合じゃない…!
「アイアンソード…! ――クソッたれ…こいつも違う…ッ!」
錬金術で左腕を剣に変形させ、呼吸を荒くして敵を斬り続けるジャックさん。
「――おいジャックさんよ…落ち着けって…⁉」
「落ち着いていられるか…‼ このままでは…本当に…」
同じく、戦闘に参加するクリスが彼を抑え続けた。
だがその静止も聞かず、我を忘れたようにジャックさんは剣を振るい、敵に流血を求める。
凶戦士となった彼の恐ろしさに、蹂躙される敵兵は泣き叫ぶ…。
その声を聞いたら、流石の俺でも哀れに思えてくる。
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状況を解説しよう。
皇女を探し始めてから三日…、その短期間でいくつものアテを潰しまくった。
怪しい動きを取る敵を見つけて、皇女を探す。
誘拐犯じゃなければ尋問して、敵の動きを聞き出す…。
これを何度も繰り返した…。
だが全てダメだった…! 皇女も、その手掛かりとなる物も、どこにもない!
「―――クソ…クソクソクソ…ッ‼ フィオナ様はどこだ…どこに連れ去った⁉」
「おい、止せって…!」
荒ぶるジャックさんを、クリスが抑える。
この前からずっとこうだ…。皇女が見つからないことに焦り、その怒りを敵にぶつけている。
「――このままでは帝国が危うい…、ゼスタ元帥たちも成果を上げられていないじゃないか!」
「確かにマズいが…、あなたがそこまで荒ぶる必要は無いんじゃないかな。」
「焦ったってどうにもなりませんよ? はい、これ食べて糖分補給。」
レイナがポケットに入れていたお菓子を差し出す。
この状況でそれは煽りにしかならなそうだけど…。
「――次だ、次の敵を探すんだ…! 今度こそは…今度こそは…!」
「ジャックさん! 本当に落ち着いてください…、あんたは一体――、」
「黙れ…ッ! ズベコベ言っている暇はないんだ‼」
…ジャックさん?
なぜだ…なぜこの男は、こんなにも焦っている?
そんなにも皇女を助けたいのか…? この男はそんなにも愛国者だったのか…?
そしてなぜ…、この男は泣きそうになっているんだ…。
焦り? 怒り? いや、違う…、これは。
「…あんた、何をそんなに恐れているんですか…?」
「違う…僕は…、僕は…!」
この三日間、おかしな感情をむき出しにしていると思ったんだ。
それは、恐怖だ。俺にはわかる。
ジャックさんは何かを恐れている…。訊ねたって、その理由を教えてくれそうにないが。
「僕は…証明しなきゃいけないんだ…。僕の忠誠を…闘争を…!」
「証明…?」
頭を抱え込み、泣き叫ぶように訴える。
「――僕が成すべきことで、それを成すことで…その価値が図られる…! だから僕は…、」
彼が何に縛られているのか、俺には知りえない。
忠誠だとか闘争だとか、そんなものは。
ただ一つ言えるのは…自分が残す成果によって、自分の価値を証明しようとしていること…。
それを証明し、誇示しなければ、彼にとって何かしらの悪いことがあるという事だ…。
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「――ファドラー中尉…! ファドラー中尉はいますか⁉」
「ん…なんだ?」
「誰か来たね…、アレは帝国軍の士官かな。」
接近する馬の足音。俺たちのもとへ、一人の帝国兵が早馬で駆けてきた。
あの様子だと急ぎの用事か…伝令か?
「なんだい…伝令か? ゼスタ元帥か…、」
「いえ、違います! ファドラー中尉がいるという事は…君がヴァルター・ヒューリーズか⁉」
「―――え、俺?」
なんと、伝令兵の用件は俺宛てだったのだ。
帝国軍が俺に急ぎの用事とは…、「俺か、あるいはHCの仲間が何かをしでかした」という考えが頭をよぎる…。
非常に不安だ!
「中尉と共に行動をしていると聞いたので、足跡を追ってみたらやっぱりいました!」
「ヴァルター、何かやらかした?」
「いや、なんでそうなるんだよ。 …あの、俺に一体何の用件があって?」
そう訊ねると…、帝国兵は懐から、ゴソゴソと何かを取り出す。
取り出して、俺に差し出したもの。
それは封入された手紙であった。
「君宛てに手紙が届いていたんだ。――差出人は、アルザス・T・ヨースター士官候補生だ。」
「――アルザス…ッ⁉ …ってちょっと待って、士官候補生⁉」
「えっと…要するに凄くエリートな人…だよね?」
「おいおい…こりゃまた随分と出世したもんだな。」
士官候補生…あいつはとうとう、軍人になる道を選んだってわけか。
ならきっと騎士軍だろう。戦死した兄の意志を継ぐとでも言いたいのか。
堅苦しい家柄に嫌気がさして、自由な暮らしを求めていたアルザス少年はどこへ行ったのやら…。
「…なんにせよ、今更なんの用だってんだ! あの時の言葉、俺は忘れたわけじゃねぇぞ…!」
あいつに言われた言葉…。
「家族を失った悲しみが、君にわかるのか⁉ 無いだろうね! だから俺の悲しみがわからない!」
…この言葉が、手紙の封を切ろうとする瞬間に甦る…。
チクショウ…、何がわからないだ…ふざけやがって!
俺は思いっきり、封を破り切った。
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手紙には、以下の通りに記されていた…。
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『ヴァルターへ、
君と決裂して暫く経つけど、今は近況報告やら仲直りやら、そんなこと言っている時間も余裕もなさそうだ。
君やレイナちゃん、クリスがいる前線でも、フィオナ皇女の捜索が進められている頃だろう…。
頭のキレる君ならわかっているはずだ、フィオナ様は南軍に誘拐されたという事。
誘拐の目的は、フィオナ様を人質にして戦争を有利に進めるだとか、その辺りだという事も。
単刀直入に言おう。俺がこれから伝える情報は、フィオナ様の手掛かりになるかもしれない。
俺は先日、帝都への帰路の途中である貨物車列と出会った。
前線への贈り物を運ぶ馬車だと聞いたけど、その車列には民間人が乗っていたんだ…。
その中に、とある女性とその娘が乗っていた。
戦場にいる夫、娘にとっては父親に会いに行くと、そう言っていたが…それは嘘だ…!
思い返してみれば、かなりおかしな点があったんだ。
特におかしいのはその娘…!
その容姿は、金髪に碧眼の幼い少女…。そう、フィオナ様と全く同じなんだ。
その時、その娘は眠っていてわからなかったけど、よく見ると顔色も悪かった。
アレは麻酔効果のある毒草を使用された時の…そんな顔色の悪さ。
いろいろとおかしいことが山ほどあるけど…その時に気が付かなかったのは俺の落ち度だ…!』
―― 手紙は一度途切れ、二枚目へ突入する ――
『 間違いない…あの娘がフィオナ様だった…!
俺にはわかる! なんせ、貴族の交流で以前にお会いしたことがあるんだから!
思い返せばあの母親も、他の民間人も、喋り口調に訛りがあった…!
南ヴィクタリア特有の訛り方だ。
つまり、そいつらが誘拐犯だ…!
補給物資を運ぶ車列に偽装して、民間人として怪しまれずに南まで向かう。
これが奴らの狙いだったんだ…!
ヴァルター急げ!
補給物資と共に南へ行ったなら、タイムリミットはもう残り僅かだ…。
前線へ向かった補給を探って、その民間人に扮した誘拐犯を探せ…!
きっとその中のどこかに、フィオナ様がいるはずだ…!
…君にあんなことを言った手前、ここまで懇願するのは虫がいいと思っているよ…。
それでも頼む…! 今この瞬間、帝国の運命を握る少女が消えようとしている…!
――俺がこんな時に頼れるのは…、君だけなんだ!
どうか…力を貸してくれ…。』
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「…本当に…、虫が良すぎるよ…! お前は…。」
「ヴェルタ―、どうする⁉ アルザスの情報が本当なら…、」
「あぁ…! こりゃ大きな手掛かりだ。」
俺は手紙を握りしめ、今一度あいつの言葉を思い起こす…。
それと同時に、今まであいつと一緒に歩んできた戦いを。
リオデシア拉致事件、評議大会、魔石龍討伐…そして今の南北戦争。
それらにあった価値を、決裂のときに忘れかけた価値を、この手紙を通して思い起こそうとした。
手紙の筆跡は、酷く擦れていた。
力強く、焦りながら、だが強い意志を込めて書いたであろう情景を、この太いインクの筆跡が物語っている。
「――ジャックさん、贈り物や物資が送られてくる場所って、この辺だとどこですか…⁉」
俺はライフルを握りしめ、移動の準備を進めながら訪ねた。
「…戦線中央にあるワーグランツの街に、大規模な集積所がある。ほとんどの物はそこで降ろされ、そこから各軍団へ送られていくんだ…。」
「…それって、人間もそこに届けたり、降ろしたりしますか?」
「もちろんだ。しかし連日続いた敵の大攻勢で、ワーグランツは一度陥落してしまっている…。―――まさか‼」
そう、そのまさかだ。
かなり疑問には思っていたんだ。帝国軍が大勢いる戦線で、どうやってフィオナ皇女を南へ連れ去るのかと…。
「帝国軍に見つからず、フィオナ皇女を運ぶ…。それが生身ではなく、ワーグランツで物資に紛れて運ぶのだったら?」
「…それを南軍が回収さえすれば、皇女は簡単に南ヴィクタリアへ…!」
恐らく敵はアルザスの言う通り、民間人に扮してワーグランツへ向かったのだ。
そしてワーグランツ付近で降ろされ、集積所の物資にフィオナ皇女を紛れ込ませ…、
ワーグランツを占領した南軍が、それを回収する…!
「急ぎましょう…。フィオナ皇女と誘拐犯はワーグランツ、その集積所にいます…!タイムリミットは、ソレが輸送されるまで…!」




