56話 フィオナの行方を追え
「――ではこれより…救出作戦を開始する!」
「了解…!」
――俺は決心した。今だけは復讐も、敵対心も、血筋もすべて忘れて戦うと。
南軍に誘拐されたであろうフィオナ皇女を見つけ出し、帝国の決定的な敗戦だけは阻止する…!
俺が守りたいと思ったものの為、俺が生きた証の為、戦いに価値を見出すため…、
俺自身が成したことによって、その価値を図るため。
「ちょーっと待て待て…。まず、その皇女様とやらはどこにいるのかわかってるのか…⁉」
「私たち、無駄な戦いはしたくないですよ…?」
悪態をつくクリスとレイナ。
事態はとにかく急を要した。だからH・Cの全員を動かしている余裕も時間もない。
結果、部隊は信頼できる仲間に託し、リンクランツの街へ残してきた。
この作戦に参加するのはジャックさん、俺、レイナ、クリス、それと搔き集めた数人の騎士。
「言っただろ? 誘拐されたフィオナ様の居場所なんてわかるはずないって。だから僕らが捜すんじゃないか!」
「そんな簡単に言ってくれて…、」
「しっかりとした説明を求む。」
なら説明しよう、救出作戦の概要を…!
―――――――――
前提として、フィオナ皇女を誘拐したのは南軍。これはまず間違いない。
そして今、その犯行グループと皇女はどこにいるのか、それがまずわからない。
さてどうしようか。
しかしながら、犯行グループの行動が予想できないこともないのだ。
皇女を誘拐した目的は、この戦争における南軍の優勢を確実なものとするためだろう。
フィオナという一人の少女を手に入れただけで、それは大きなカードになる。
なにせ、人質として扱うことが出来るんだから…!
なら敵の行動は簡単だ。
敵はどんな手を使ってでも、皇女を南ヴィクタリアへ連れ帰らなくてはならない。
だったらどんな手を使うか…。答えは明白だ。
――――――――――
「―――俺だったら…、皇女を連れたまま真っ先に味方と合流したいところだね。」
「僕も同感だ。味方の軍勢に守られて、さっさと帰ってしまえばいいんだから。」
これが答えだ。
「なるほど…! つまり、それっぽい敵を片っ端から叩き潰せばいいんだな!」
「まぁそんなところだ…! そこまで脳筋ではないけど…、」
「――誘拐事件からの経過的に、敵はまだ遠くへ入っていないはず…。少なくとも南ヴィクタリアへ逃げおおせたことはないだろう…!」
「現に南軍主力は撤退しないし、むしろこの間から攻勢が強まってるみたいですからね。帝国軍の将校がボヤいてましたよ。」
「つまりは、誘拐グループとフィオナ皇女をお出迎えする準備か…!」
―――――――――――――――――――――
「――てなわけで! 最初の目標があの敵部隊だ!」
「誘拐グループの予想進路に近づく敵を片っ端から制圧する! そのお客様第一号がアレだ。」
俺たちが今どこにいるかって?
リンクランツから東へ数キロ、ワーグランツの近郊で陣取っている。
そして目前には敵部隊…! 数十人の手ごろな相手だ!
「とりあえず上っ面だけは理解できた! …久々の戦闘に血がたぎるぜ…!」
「やってることは盗賊みたいだけど…、ヴァルターがやるって言うなら私も戦うよ!」
作戦のメイン。
今日から俺たちで敵を襲いまくる。
拷問でもすればそのうち、犯人と皇女に近づけるかもしれないしな。
「――よし、それでは作戦開始だ…!」
「いつも通りだ…レイナは魔術を、俺は射撃を…! クリスとジャックさんは突っ込め!」
「「シャアァァァァァァァ…!」」
― 久しぶりの戦闘開始だ ―
さて、当たりは引けるかな…?
―――――――――――――――――――――――
「――いやぁ…! 痛いよッ放してぇ…!」
「おっと! あんまりうるさくすると、もっとキツイお仕置きが来ますぜ? 皇女様よ…。」
「うぅ…いやだぁ…、」
薄暗い空間で泣き叫ぶフィオナ。
その幼い少女を強制的に泣き止ませる、武器を携えた男がいた。
「――あんまり手荒なことはしないでよ? その子の可愛いほっぺに傷がついちゃうでしょ…?」
「我々の任務は、皇女を生きたままレッドモンドへ持ち帰ることだ…。傷を負わせれば評価が下がる。」
「…へいへい、すみませんでした。」
「うぅ…うっ…うぅぅ…、」
手荒な真似はよせと指示する、フィオナを誘拐した女スパイ。
自分たちの評価について語るのは、ガジリス首相を暗殺した男。
就寝中、寝巻のまま攫われてきたフィオナは、その豪華な寝巻を剥ぎ取られてしまっている。
服装一つで、誘拐された皇女だとバレてしまうから当然だ。
だから今は平民の娘に扮するため、ボロ衣で作られた洋服を一枚着ているだけである。
この女スパイはその母親役だ。
「しっかし…帝国のおバカさんたちは疑いもしないのね! ここに来るまで何人かの運び屋や軍人に会ったけど…、」
「あぁ、誰もフィオナ皇女だとは気が付かない。それだけ社会階級に固執する国という訳だ、帝国は。」
「平民風情が王族を見るべからず…ってか? ――いいご身分だなぁ皇女様よ!」
「いやぁ…⁉ お願い…怒らないでください…、怖いの…嫌です…!」
「へっ! 敬語か。言葉遣いだけは一丁前ですなぁ…流石は高貴な血筋のお方だ!」
泣き叫ぶことしかできないフィオナ。
少女が唯一できるのは、創造主ヴィクダスに祈ること。
帝国軍が自分を助け出してくれるように…。
創造主に、救世主の到来を祈ることしかできないのだ…。
――――――――――
「…隊長、少しいいですか?」
「ん、なんだい?」
フィオナと共に女たちが潜伏する、真っ暗な部屋。
その外からやって来た、部隊の下っ端が報告する。
「実は…我々を迎えに来るはずだった師団の先兵が、何者かの襲撃によって壊滅したそうです…。」
「壊滅…? 何者かってなんだ、帝国軍の迎撃じゃないのか?」
「いえ…情報によれば、帝国軍ではないそうです。軍服を着ていないうえ、少人数の精鋭だったそうで。」
南ヴィクタリアまではまだまだ距離がある。
彼らだけで、しかも帝国軍にバレずにフィオナを連れ帰るのは難しい話だ。
その為に、攻勢を強めていた第3軍団の部隊が、彼らを迎えに来る手はずだったらしい。
それがやられたって言うんだ…。
「…ヴィクダス様…? 祈りが…通じたの…?」
―――――――――――――――――――――
「――フリージング バレット…ッ!」
「続けて一発…、〈フレイム グレナディア〉」
氷の弾幕に続き、魔石龍の力で生み出したグレネードランチャー…!
このコンボで十人は倒した…!
「アルケミーアーム アイアンスピア…ッ!」
「な、なんだ…⁉」
「腕が槍になった…⁉ ば、バケモノだ…魔獣だ⁉」
「――死ね…ッ!」
原理不明のオリジナル技、錬金術で敵を串刺しにしていくジャック。
その技もさることながら、近接戦の腕前も上等…。
色々な面で恐ろしい男だ。
――――――――――
「さて…これで制圧できたかな?」
「そうですね。…さて、話してもらおうか! お前たちはここで何をしていたのか!」
一人だけ、確保できた捕虜がいる。
恐らくはこの部隊の隊長だ。
ジャックさんは捕虜の頭を掴み、荒々しくもてなす。
「――アァ゛…やめろ! お、俺を尋問する気か⁉」
「尋問で済むかどうかはお前次第だ…! 全て吐かないと拷問になるよ⁉」
うひゃあ…怖い。
「ねぇ…ジャックさんってなんかこう…取り調べ的なの得意なのかな。」
「わからん…。だが彼の職務上、拷問の経験くらいありそうで怖い…。」
レイナが俺に耳打ちし、俺もそれに答えた。
「お前たちはどこかで、誰かと合流するように命じられていたんじゃないのか? そうだな…例えば、金髪碧眼の少女を連れた連中とか。」
「――い、いやッ知らない! …知るかそんなこと…!」
「……、よし分かった。拷問をお望みのようだな。」
そういってジャックさんが、ギラリと光る鉄の腕を見せつけると、
「ひぃぃ…わかった! 知っていることは話すから!」
ジャックさんの目が相当怖かったのか、男は慌てながら洗いざらい話し始めた…。
「女が一人と男数人の部隊が、主への道を通ってやってくると聞いて…。そいつらと合流するように師団長から命じられたんだ!」
「…他には――?」
「あんたの言うとおりだ…! その部隊は小さな少女を連れているって聞かされた…!」
「その少女についての詳細は?」
「そこまでは聞かされていない…。 ――ひいぃ⁉ 本当だ…下っ端の我々にはそれくらいしか伝えられていないんだ! 頼む…許してくれ…。」
男はとうとう泣き出し…しまいには小便まで漏らし始めた。
それを見た俺、れいな、クリスはドン引きする…。
その男にじゃない。尋問慣れしたジャックさんにだ。
「―――ヴァルター君、どうやらこいつらは外れらしいね…!」
「そうみたいですね。 ……ジャックさん?」
「あ、えっと…大丈夫ですか…?」
なぜか、ジャックさんの様子が目に見えておかしかった。
これは…苛立ち? いや、焦りか?
「―――時間がない…時間がないのに…!」
「ジャックさん、まだ作戦は始まったばかりで…、」
「そんなこと言ってられない…! 帝国が負けてしまう…ヴィクタリアが負けてしまう…。この不信仰者どもに…!」
そういうとジャックさんは、男に手を上げる…。
「僕は…証明しなくちゃならないんだ…! 僕が成したことによって…その価値を…! 僕の闘争の価値を…!」




