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劣等貴族のレクイエム -訳アリ転生の人生劇- (休載中)  作者: 山海ハルト少佐
第三章・南北戦争編
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53話 何かがおかしい

 ーーなるほど…それはみんな絶望するわけだ…。

街にいた兵士たちは、連隊が壊滅したことを聞いたのか、見たのか。


「元帥閣下…、ヨースター大尉はなぜ死んだんです。敵に殺されたんですか。」


半狂乱で泣き続けるアルザスを横目に、

俺は震えた声で訊ねる。


「それが…変なのだ。医術師によれば、遺体には外傷が無く、外的要因による死は考えられないと。」

「ーー? つまりどういうことです。」

「一言で言えば、原因不明だ。」

「そして、何より恐ろしい事実があるようだ。」


ジャックさんが、元帥から聞いたであろう情報を語る。


「大尉だけではない。連隊全員が、同じような死に方をしていたんだ…! シュタウゼン大佐も…。」


ーーーーー


全員が死んだ…? しかも原因不明だと…?

おかしい…、全ておかしいが何かが引っかかる…。

一度に大勢の人間が突然死…。

しかも外傷は無く、息の根が止まる…。

――こんな事、確か以前にも!


ーーーーー


「あの…! 連隊が死んだ時の状況を、詳しく教えてもらえませんか⁉︎」

「ヴァルター君? 急にどうしたんだ。」

「お願いします…! 教えてください!」


俺が深々と頭を下げると、元帥とジャックさんは目配せををした。

そして渋々と…、


「彼らは、白旗を掲げた民間人の集団を見つけたらしい。彼らが死んだのは、その集団を保護しようと近づいた直後だった。」

「ーーその民間人は…どうなりましたか。」

「全員死んだよ。その体は敵が回収して行ったそうだかな…。」


――やっぱりだ…似ている…。

ブラムナスで見たあの光景に…。

ネストが殺された時、周囲のヴィクトル人が死んだあの光景に!


「まさかとは思いますが…、その民間人に()()()()()はありませんでしたか?」

「――⁉︎」


俺のこの発言により、この場の全員が血相を変えた…。

ふざけた発言だと思うだろう…。

だか、俺にしかわからないことだ…!

奇妙な紋様。

この世界、この国でそれが表すものは一つしかない。


「まさか君は…その民間人がエンティオ人(劣等民族)だと言いたいのか⁉︎」

「その根拠は…⁈ これが冗談で言ったことだとしたら、到底許されんぞ!」

「ただの憶測ですよ。…俺だけのね…。」


俺だって、自分がトンデモナイ事を言っている事くらい分かってるさ。

ただ俺はこの目で見たんだ…!

ネストに劣等の紋様が現れた後、今回と同じような「不可解な事象」を…!

でも…理由も原因もわからない。


「…君の言う紋様とやらが何を指しているかはさておき、その事実を確認する手段は無い。」

「死体は…敵が回収したんですね?」

「そうだ。」


なぜわざわざ死体を…? 他の南軍兵士は野ざらしのままだったぞ?

ただし、状況からしてその集団が、ブラムナスでのネストと同じ事が起こった可能性が高い…。

そもそもエンティオ人の紋様ってなんなんだ…⁉︎

俺も発動したことはある!

だがそのシステムも、原因も不明だ…!

わかっているのは発動の条件、「極度な感情の高ぶり」だけ…。

感情の中でも恐怖心や怒りの部類ではあると思うが…。



あぁチクショウ…! 訳のわからないことだらけだ…!



―――――――――――――――――――



「ねぇヴァルちゃん…。今の話、本気で言っているの?」

「アルザス…?」


枯れない涙を流し続け、生き絶えたアルグレイから手を離すアルザス…。


「兄さんが…劣等に負けたって言いたいの? 兄さんの死を侮辱するの…?」

「…アルザス、俺は…!」

「ーー答えてよッ⁉︎ なんのつもりでそんな馬鹿みたいなこと言ったの⁉︎ ねぇ、早く答えろよ‼︎」


おいおい冗談だろ…。

こっちは必死で考えてんだよ、お前の兄貴が死んだ理由を。

でも、お前にそれを言うことはできないんだよ…!

だって俺は…、



「そもそも、君は今までどこに行っていた⁉︎ 俺たちが死に物狂いで戦って、兄さんやみんなが死んだその瞬間! どこで何してたんだよ⁉︎ 」

「何って…戦ってたに決まってんだろ⁉︎」

「じゃあどうして君は無傷なんだ⁉︎ 言ってみろよ!」


なんかとばっちりを受けている気がする…。

無傷で帰ってきたのがそんなに悪いかよ…!


「ヴァルター君の戦いは素晴らしかった。彼の部隊は南軍司令官、バイナモイネン中将を討ち取ったんだ。」

「…私も、そのように報告を受けている。」


間に入って俺の肩を持つ、ジャックさんとゼスタ元帥。

ただその言葉、今はまずい気が…。


「…なんだよそれ…。まるで俺たちや兄さんが役立たずみたいじゃないか…。」

「アルザス…誰もそんな事は言ってな、、」


「その冷静な態度も腹が立つ…! 君は味わったことがあるのか…、憧れを…()()()()()()()()を…!」

「ーーは?」

「無いだろうね! 無いからそんなに冷静なんだ…! 俺の悲しみがわからないんだ…!」



……コイツ、今なんて言った?

失う悲しみが…俺にはわからないだと…?

あぁ、そうか…さっきから劣等だの侮辱だの言ってたけどさぁ…。

所詮はお前も、そっちの人間なんだな…アルザス。



次の瞬間、俺の手は自然と動いていた。


「ーーテメェ…‼︎」


「…ヴァルター君ッ⁉︎」

「お、おい…よしたまえ!」


涙まみれの顔面に、俺の拳がめり込む…。

怒りだ…今の俺を支配しているのは、怒りだ…!

咄嗟のことで避けられず、体勢を崩したアルザス。

感情に任せて、その顔に何度も何度も拳を振りかざす…!


「……ッ! なにしやがる…! ーーッ‼︎」

「ーーガッ…、」


壁に押し付けられたコイツは、必死に反撃してきた…。

理不尽な怒りに任せて俺を殴り続ける…!

だから俺も殴り返す…! 殺してやる勢いで!


「アルザス…テメェは何様のつもりだ⁉︎ 悲劇の主人公のつもりかよ…!」

「そっちこそ…人の気も知らないで! ヴァルターッ…!」


初めてだ。初めてコイツは、俺を呼び捨てにした。

さっきまで互いの無事を祝った俺たちが、なんでこんなことに。

殴り合いは次第に、剣士であるアルザスが有利になり、俺は床に仰向けで押さえつけられた…。

…なんかもう、どうでもいい。


「死ね…アルザス!」

「ヴァルター君、よせ!」


俺は腰に携えていたピストルを、アルザスの額へ向けていた。

弾と星硝石は装填済み…、後は点火口を開いて〈イグニッション〉を唱えるだけ…。

その瞬間、いくつもの死線を共に乗り越えてきた、友人の脳が吹き飛ぶ…!


「アルザス…お前は馬鹿な奴だとつくづく思っていたが…本当にガッカリしたよ!」

「…なんの話だよ。」

「お前に、俺の何がわかる…! 何が兄さんだ、何が騎士族だ! 全てを失った俺に比べりゃ、お前なんか甘ったれだ!」


その時、


「…もうよせ。このピストルを下ろしなさい。」


ジャックが、俺の手を掴んでなだめる…。

なだめつつも、彼の左手は錬金術によって刃物へと変形していた…。

致し方なく、俺はピストルを下ろす…。


そのナイフをアルザスにも向け、殴り合いを強制的にやめさせた。

俺は立ち上がり、銃を持つ。一刻も早く出ていきたい。

今の仲間の元へ…レイナの元へ帰りたい。


「俺は…さっきの言葉を忘れない…。俺が今まで何の為に生きて来たか、いずれ教えてやる…!」


そう言い残し、司令部を後にした。



――――――――――――――――――――――――



 ――――あれから数日経った…。

俺たちはまだリンクシュタットに留まっている。

アルザスは剣の腕を見込まれて、別部隊へ移動になったらしい。

俺はあの時以来、あいつと顔を合わせていない。

事情を知ったレイナもクリスも、最後の別れ以外はあいつと会っていないらしい。

変に気を使わせてしまったな…。


「ここもジリ貧ですね…。」

「そうだねぇ。東のワーグランツは敵に取られたらしい。我々にも近々、退却の指示が来るだろう…。」


と、俺と一緒に領地内の偵察をしていたジャックさんが言う。

しかし退却か…。

他の二都市が取られた以上、ここも退路を断たれる可能性が高い。

ならばここで帝国軍全体の体力を消耗するより、後方の帝都への道に戦力を集めるほうがいい。

合理的な判断だ…。それが無能な上流権力者にできるかどうかは別として。


「でもそれはレイナが許しませんよ。もちろん俺も…。」

「故郷を守る、それが君たちの目的だったね。」

「俺はともかく、それが彼女の意志です。なら俺はその意志を尊重したいし、貫き通してほしい。だから俺も逃げたくありません…。」


実を言うと俺は…もうこのリンクシュタットに、命を賭けて守るほどの価値があると思えない。

戦略的にも、個人的にも…。

領内の豊かな風景は戦火で荒廃し、資源は敵が根こそぎ回収していった…。

街には空腹の新兵が横たわり、神の下へ送れなかった遺体は次々と腐敗している…。


どこの世界でも、戦争ってのは嫌だね…。


「昔と何ら変わらず、懐かしいなと思っていた所なんだけどねぇ…。南の連中が全てを変えてしまった…。」


嘆くように静かな声で、ジャックさんが言った。


「懐かしい? ジャックさん、リンクシュタットに来たことがあったんですか?」

「あぁ、そういえば言っていなかったね。実は僕、この領内で仕事をしていたんだよ。もう8、9年くらい前になるかな…。」


なんと…! まさかのカミングアウト!


「なんだぁ、それなら早く行ってくださいよ! 懐かしい話ができたかもしれないのに。」

「ハッハッハ…ごめんごめん! なにせ、子供に話すような仕事じゃないもんだから。」

「8、9年前って言ったら…俺が()()()()()()()()()()()()()()です!」

「そうなのか! なら、僕らは昔どこかで会っていたかもしれないね。」


これも、神の定めた運命って奴なのだろうか。

意外な共通点が見つかって、俺は純粋に喜んだ。

なんとなくだ。この会話で、故郷に対する俺の心がぶり返したような気がする…。

まだ俺たちは戦える。なら限界まで、故郷を守ろう…と。



―――――――――――――――――――――――――


― リンクランツ郊外  ランシュタイン邸 ―


 やっぱり…この家は保存されていた。

故郷に戻るにあたって、ここだけは絶対に訪れなければいけなかった。

なのに…勇気が出なかった。



「凄いね…まだ家が残されているなんて。」

「あぁ。マルクスが保存に尽力して、管理をしてくれていたんだ。…ほんと、あいつには頭が上がらないな。」


 リンクシュタットで代々の領地を守ってきた地方貴族・ランシュタイン家の屋敷。

今では「ヴィクトル人の皮を被った〈()()()()〉」の烙印を押され、消滅してしまったが…。

俺が生まれた家であり、一家が殺された家でもある。

ここに戻れば懐かしさよりも、怒りや憎しみ、悲しみが俺を殺しに来る…と思っていた。


しかし俺は来た。レイナに支えられながら、勇気を持って戻って来た。



「それじゃあ…入ろうか。」

「うん…。 …ヴァルター、大丈夫?」

「――大丈夫だ。きっと…、」


随分と痛んだ扉の前に立ち、俺は思い返す。


「あの夜、ここに襲撃者たちが立っていた…。父はそいつらに捕まっていて、俺はその様子をあの窓から見ていたんだ…。



襲撃当時の自分の姿が、ビジョンとして(よみがえ)る。

扉を開き、俺たちは室内へ入る。


「――ただいま…。」


あぁ…、チクショウ…! 悔しい…憎い…!

涙が…止まらない…。わかってはいたのに…。


「ここで父が焼き殺された…使用人のメソッドさんも…。」

「――うぅ…。」


俺は薄暗く、所々劣化した壁を触りながら廊下を進んでいく。

思い出の詰まった食卓も、自室も、全てを素通りして。

惨劇の足跡を辿っていく。


「この奥が祖母の部屋で…そこで殺された。その瞬間は見ていない…。」


俺の中に残っているのは…無残に焼き殺される、祖母の断末魔のみ。

そのまま廊下の右手にある部屋に入り、奥の窓を指さした。



「あそこから俺は、母に抱かれながら裏手へ逃げたんだ。」

「ヴァルター…。」

「彼女は必死だった…。殺される家族を横目に、俺だけは絶対に守ろうと、裸足のまま逃げたんだ…。」


泣き叫ぶのを堪え、裏返る声のまま…淡々と思い返し、語る。


「だが逃げ切れなかった…。母は足を射抜かれて…そのまま岩魔術で串刺しにされた…! 俺の…目の前で――ッ‼」



…俺はその瞬間、全てを失った。

そして、自分の名前も存在も殺し、復讐の為に生きた…!

だがその元凶は…ヴィクトル人の創造主。明らかに届かない手…。


しかし、俺たち一家の正体を嗅ぎ付け、襲撃を唆した「密告者」はどこかにいる…!

俺は生き続けて…そいつを探し出して…、レクイエムを謳い切るんだ…!



――――――――――――――――――――――――


「ここで逃げ延びたあなたは…エミルドに行ったんだね。6歳の子供が、たった一人で。」

「そうだ…。」

「――あれ? でもどうして…、」


レイナが突然、疑問符を投げかけた。


「ヴァルターは…どうやって逃げ延びたの? 誰かに助けてもらったとか…、」

「いやそれが…その時のことは記憶にないんだよ…。」


どういうこと…? みたいな表情を浮かべるレイナ。

俺だってわからないんだよ。何が何だったのか…。


「襲撃者に殺されそうになった時、突然体が熱くなって…。何かが込み上げてきて…。」



そうだ…そして気が付いたら、目の前の襲撃者が()()()()()()()

そっくりそのまま、息の根が止まったように。

そう、まさにアルグレイの死に様みたいな…、


「―――あれ…?」



なんで…似ている。

なぜ襲撃者たちはいつの間にか死んでいた?

そしてなんで…その死に様が似ているんだ。





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