49話 ジャックと突撃
新年初投稿です。
― リンクランツ ―
「前衛は殆どやられたか…。」
「えぇ、生き残った兵たちは街へ退却できたようですが…。」
「しかし…魔獣を兵器として利用するとは。敵も考えたものだ。」
後方の指揮所から遠く離れ、戦場へやって来たシュタウゼン大佐、ヨースター大尉。
騎兵の相棒たる馬に跨り、戦場を一望する。
火、雷魔術や怪鳥フォルゴーレが吐く火炎弾により、草木が燃え上がっている。
そこに水魔術が被さり、一帯に硝煙と水蒸気が撒き散っていた。
「大尉、こっ酷くやられた部隊にはアルザスがいるだろう? 心配ではないか。」
「大佐殿、私は誇り高き帝国騎士です。兵が血縁を越えたモノで結ばれる戦場で、身内の心配ばかりしませんよ。」
「そうかそうか…。まぁ仮にも君の弟だ、そう簡単にくたばったりはせんだろう。」
「それに〈剣を持つ以上はいかなる覚悟もせよ〉、と教えていましたのでね。十三騎士族の一員として、恐れることのないように…。」
大佐は一度、後方を振り返る。
地面を揺らし、響く蹄の音。馬の荒い息、鳴き声。
その馬に跨る、聖剣を持った数百人の騎士たち。
シュタウゼン大佐が率いているのは、ヴィクタリア帝国最強の部隊
グランドル近衛連隊である。
精鋭中の精鋭が今、最前線へ投入されるのだ。
そのような部隊を投入することは、それだけ戦況がひっ迫している証拠でもあるが、帝国軍が形勢逆転の一手を打つという事でもある。
この栄誉ある騎士たちの到来に、戦場の兵たちは大きく沸き上がった。
「大佐殿…! 敵がさらに前進、街へ接近します…!」
先行していた通常兵の伝達が入る。
「時が、来ましたな…。」
「各員! これより我が隊は、リンクランツ市街へ進む敵戦列の側面へ突っ込む…!」
「「「「「 おう…! 」」」」」
「…平民階級の私から言えることは数少ない! だがこれだけは信じている!」
大佐は自身の聖剣を抜き、天に掲げて部下たちへ訓辞を送った。
「諸君らの剣はいかなる敵をも撃ち滅ぼし、帝国に偉大な勝利をもたらすであろう! なぜなら我々は、誇り高き帝国騎士なのだから‼」
「「「「「 おぉォォォォ…‼ 」」」」」
「そして、必ずや吉報を帝都へ持ち帰り、皇女殿下に捧げよう。」
湧き上がる歓声。騎士たちの誇らしげな笑顔。
…これから死地へと飛び込んでいく者たちには見えない。
彼らに見えているのは、自分たちが背負った「誇り」というレッテルのみ。
「第一大隊はシュタウゼン大佐殿に続け! 第二大隊はこの私、アルグレイ・ヨースターについてこい!」
「――総員ッ、抜剣! 目標、敵戦列の魔獣及び魔術師!」
響く、鞘から剣を抜く金属音。轟く馬たちの声。
シュタウゼン大佐が掲げた剣が振り下ろされた時、それが始まる。
「――突撃ィィィィィィィ…ッ‼」
「ヴィクタリア帝国万歳‼」
―――――――――――――――――――――――
― そのころ 敵の後方 ―
「クリス…お前の大好きな魔獣ちゃんがお出ましだぜ。」
「おッしゃァ‼ ようやく俺の出番か…!」
ライフルの一斉射撃で敵のシールドを吹き飛ばした後。
後方から迫りくる大きな土煙が見えてきた…。
魔獣だ! 装甲を身にまとったゾウ。
まるで戦車部隊だな、ありゃ。
敵も俺たちに接近できないと理解したんだろう。
魔獣兵器を持ってきやがった。 それもたんまり。
だがしかし! 対抗策が無いわけがない!
こっちには将来大物になるであろう天才魔術少女。
そして、裸一貫の大剣一つで、どんな魔獣だって好んで相手するバーサーカーがいる。
「レイナ、攻撃をあの魔獣へ移せ。他のやつは引き続き撃ち続けろ。」
射撃し、交替を繰り返す仲間たち。
俺とレイナはそれぞれの武具を構え、前方から迫るゾウ部隊に狙いを定める。
『オ゛オ゛オ゛オオオオオオオオオオオォォォォン…ッッッ‼』
「レイナ、撃て! ケーキと紅茶がお前を待っているぞ!」
「フリージング カノン! …お腹すいてきた。」
デッカイ氷塊を瞬時に展開し、先頭のゾウへ吹っ飛ばす。
風を切る太い音が聞こえた後、氷塊はゾウの頭に命中する。
しかし…
「あちゃ~、この距離だと氷塊が負けちゃうか。」
ゾウが被っていた装甲が、レイナの得意技を粉砕する。
距離が離れているから威力が落ちたのもあるだろうが、それほどあの鎧は硬いのか…。
レイナの魔術が防がれるなんて、クリス以外で初めて見た。
「しゃーない。もう少し近づいて撃った方がよさげだな。」
「ヴァルター君! そんな悠長に喋っている暇があるのかい⁉ 」
遠距離武器を持っておらず、しばし様子見をしていたジャックさんがようやく喋った。
確かに、ああいうデカ物に対抗するには遠距離から高威力な魔法を撃つのが鉄則だろう。
それが防がれても余裕ぶっている俺は、この人からすればバカか。
「大丈夫ですよ。対魔獣用の切り札は…コイツですから。」
「クリス君が? 彼は大剣一つしか持っていないじゃないか。」
ジャックさんの疑問はごもっとも。
さて、そろそろゾウ共が接近してきたころだし、クリスに仕事をしてもらおう。
「よし…行って来い、魔獣狩りのクリス!」
「シャァァァァァッ! クリス、行きまーす!」
身一つで素晴らしいダッシュを決め、敵の方へ突っ込んだクリス。
それを見たジャックさんは驚愕していた。
「…なんだ今のは⁉ 風魔法で加速…ではないな。しかしもの凄いダッシュだったぞ…」
「あいつは魔術に頼ったりしませんよ。今のも単純な身体能力です。」
突っ込んでくるクリスを見つけた敵の魔術弓兵が、一部の兵隊に指示して矢の雨を差し向ける。
火、水、雷、魔術矢に最適な能力を付与し、駆けるこの男に降り注がせた。
しかしこのバーサーカーは止まらない。
身長195センチ、シュ〇ちゃんみたいな体型を矢の雨の隙間に通す。
「シャァァァァァ‼」
跳びかかるクリス。
ゾウがこの男を迎撃しようと、鼻を振りかざした。
ーーー
しかしクリスは、それをお構いなしに切断してしまう。
久しぶりの対魔獣戦で、このバーサーカーの興奮は最高潮に達していた。
「うおぉぉぉるぁァァァ…ッ‼ 一刀両断ッ!」
そのままゾウの上に駆け上がり、大剣を肉の中へお届け。
幅1メートルほどある首を、そのまま両断した。
その勢いで次のゾウへ飛び乗り、ゾウを操っていた敵の獣使いを斬殺。
ゾウの脊髄があるだろう箇所を何度も串刺しにし、息の根を止める…。
本当に恐ろしい男だよ! あいつは絶対に敵に回しちゃいけない奴だ…。
と思いつつも、数か月前にそのクリスと殺し合っていたという事実。
「うわうわ、流石はブラムナスの生き残りだ…。」
「そうでしょう、まぁあいつはその中でも特に頭おかしい部類に入りますが。」
「しかし彼一人ではジリ貧だろう…。どれ、僕も加勢しようか…!」
一人だけ正規軍の制服を着ている、場違い感がすごいジャックさん。
そういうと、彼は俺たちの下を離れて突撃していった…!
「えぇ…⁉ ちょ、ちょっとジャックさん!」
ただ無言で、クリスが斬り開いた突破口を突っ走るジャック。
見れば遠距離どころか、武器を何も持っていないじゃないか⁉
「ええい…! レイナ、援護してやれ!」
「わ、わかった…。」
一体何をするつもりだ…?
かくいう俺も、近接戦の準備はできているんだが。
――――――――――――――――――――――――
「神よ…我に力を与えたまえ…! 〈アルケミー アーム〉」
左腕にはめた黒手袋。それを外しながら神への信仰を唱えるジャック。
彼の左腕はその詠唱と共に、形を変えた。
俺の目に映ったのは、今日までいくつも見てきた魔術の中で、どれにも該当しない物…。
「アイアン サイズ…、 ウォーター プレッシャー‼」
「なッ…⁉ 嘘だろ…」
「う、腕が…変形した?」
俺とレイナは、ジャックが見せたその技に驚愕せざるを得なかった…。
だって肉体(?)を変形させる魔術なんて聞いたことがない!
彼の腕は鉄のような質感になり、大きな鎌となって敵に降りかかる。
鎌と一緒に展開された水圧カッターの魔術。
それがゾウの頭をカチ割る…! 一体何なんだアレは!
「次…、〈アイアン ソード エンシェント スパーク!〉」
今度は鉄の剣…!
いやそれはもうただの剣だが、そうじゃない。腕が剣になってるんだよ!
なんなんだあの男は…サイボーグかなんかなのか⁉
「タァ…ッ‼ 」
『オ゛オ゛オ゛オオオオオオオオオオオォォォォン…ッッッ‼』
ゾウの下へ回り込んだと思いきや、雷魔術を付与したその腕を喉元へ突き刺す…。
しかも!〈エンシェント〉は魔術の中でも上級の技につく詠唱!
アルグレイも前に使用していた、上級騎士レベルの威力を誇る。
当然、その威力も半端じゃなく…一か所に剣を突き刺しただけでゾウは死んだ。
流した電撃が強すぎて、そのままショック死したのだろう…。
ゾウの巨体が倒れ込み、ソイツに乗っていた敵兵が下敷きになった。
「さらに次…、〈ロック アバラン〉!」
今度は岩の鈍器か…! 土魔術の上級レベル!
鉄の腕に取り付いた岩が、雪崩となって降り注ぐ。
それは複数のゾウと兵士を巻き込み、さらには後続の敵部隊の移動を阻害した。
ここまで出したのは水・雷・岩。しかも中~上級のもんだ。
一体この人は何種類の技が使えるんだ…?
得意な属性や技術を強化するんじゃなく、バリエーション豊富な技を持つ奴がたまにいる。
俺とアルザス、レイナにリオデシア。俺たちの担当教諭がそうだった。
だがこの人はそれぞれが強い…。
そもそもなんだあの腕は? アイアンアーム? アルケミー?
「おぉ…ジャックすげぇ! 俺も本気出しますか‼」
いや、今までのは本気じゃなかったんかい。
クリスがジャックの技術を見て、さらに興奮度合いを上げた。
むしろ恐ろしさが増しただけかもしれない。
こいつら二人だけでそれだけの魔獣を殺したんだ…。
そこにレイナの氷魔術が援護で入るから…、こいつらホントに怖い。
かくいう俺は、ここで指揮を執っているほかない。
それが俺の役目だからだ。
「す、すごい…。」「この人たちがいれば…戦争に勝てる。」
「俺、この戦争に勝ったらプロポーズしよう!」
これを見た隊員たちの士気も大いに高まっている…!
なんか一人だけ余計なこと言ったけど。
しかし敵の様子を見てみれば、連続した遠距離攻撃で多くの兵が倒れている。
大半の魔術師はリンクランツへ出払っているのか、この距離での反撃はあっても弱弱しい。
ゾウ部隊も食い止められた今、敵は攻撃から防御に移った。
「これは…そろそろカタを付けに行きますかな!」
俺は後方に控える、弾薬や魔力の残っているであろう隊員に告げた。
「第二中隊、前へ! 銃剣を付けろ、突撃準備!」
俺の指示はいつも瞬時に効果を発揮する。
今まで積み上げた信頼とネームバリューは、非常に役に立つ。
「目標は敵の将軍を見つけて探し出すこと! それが出来れば少なくとも敵軍の行動を麻痺させ、リンクランツを防衛、延いては帝都への道を守ることへとつながる!」
「おぉォォォォ‼」
うむ。諸君らいい返事だ。
俺にはプロパガンダや人を煽動する才能があるのではないかと、時々感じる。
ではここで一発、
「最も功績を上げた、もしくは敵将の首を取った小隊には、敵軍の酒を独占する権利をやろう‼」
「フォォォォォォォ…‼」
「そのお酒の中には、大陸南部の良質な果実から作った最高級ブランドもあるかもよー。」
「イェェェェェェェェイッ‼」
後半はレイナのセリフだ。お前もよくわかってるじゃないか。
うんうん、酒の力は偉大なり。
レイナには、ケーキと紅茶の約束をきちんと果たしてやろう。
その中で俺も、新型ライフルに銃剣を取り付ける。
新兵器、その名も〈魔石ライフル〉
評議大会が終わりブラムナスから撤退するとき、俺が持ち出した魔石龍の肉片。
鍛冶屋のおやっさんに頼んで、それをライフルの素材とする鋼材に練り込んでもらった。
銃剣もそれと同様。
俺なりに調べた結果、魔石龍の体細胞組織は聖因子を増幅させる効果があるとわかった。
大規模な火炎を生成したり、オリジナルの治癒魔術で肉体を再生できたのも、その能力おかげだったらしい。
これは、劣等と言う血筋によって魔力の無い俺の大きな力になる。
「それじゃあ行こう…。3、2、1、行けェッ!」
「うおぉぉぉォォォォ…‼」「酒ぇぇぇぇ…‼」
俺の合図で一斉に始まる突撃。
たぶん、この中の大半は死ぬと思う。
そりゃそうだ。近距離になればこいつらはみんな雑魚だ。
でも俺は、この知識のない連中にそうさせる。
華々しい戦果には、それに見合う華々しい戦いと死に方が必要だからだ。
――――――――――――――――――――――――
俺はライフルの力を呼び起こすため、精一杯の魔力を体に意識する。
「魔石龍…お前が散らせたその命、その糧を俺に捧げろ…!」
俺の祈りに呼応するように…銃身に刻み込まれた魔石龍の血が騒ぎだす。
赤く燃え上がるような血の流れ。そこに俺の聖因子が注ぎ込まれ、さらにその因子を増幅させる…!
あの時聞いた、魔石龍の鳴き声が脳内で響いた。…。
薬室に5発の弾薬を装填し、ボルトを閉じる。
「16年の進化だ…、〈フレイム バレット〉!」
==発射==
弾丸が炎魔術をまとい、敵の重武装兵を貫く。
すかさずボルトを引き、2発目を装填。
==発射==
同じ手順で順調に、軽快に敵を葬っていく。
これまでとは違う感覚…。
劣等の俺が、魔術で戦っているという事実が信じられない…!
見知らぬ顔ぶれを殺すのにはもう慣れた…!
ただ今は、自分が16年の歳月を経て手に入れた成長、力を行使したい…!
見ているか…? アンソン、ミア、マルガレーテ、メソット…。
俺はこの地で殺された彼らに、敵の死を持って哀悼を捧げようと思った。
「――フリージング バレット!」
レイナもひたすら魔術を撃ち続ける。ひたすらに杖を振るい続ける。
彼女が抱く戦う理由は、俺の虚しい復讐心とは違う。
彼女はただ、「故郷を守りたい。家族と過ごした思い出の地を、敵に怪我されたくない」という愛。
「――ハッハッハ! ここまで距離を詰められちゃ、ご自慢の魔獣も出せないようだなぁ…。味方を巻き込んじまうもんなぁ!」
ゾウ部隊を蹴散らしたクリスが、この乱戦に参加した。
クリスもこれに賭ける思いがある。
「エミルドへ行った家族のため、劣等の汚名を払拭する」
自分たちが人間として生きているという証明をするという思い…。
みんなそれぞれの思いを背負って俺についてきてくれた。
なら、俺もそれに応えなくてはならないな…。
「――死ねぇぇぇ帝国の愚か者ども…ッ‼ 〈ストーム ブレイド〉!」
「あぶねぇ⁉ 風魔術か…、」
おっと、よそ見をしていたら斬りかかってくる敵がいるじゃないか…!
コイツはアルザスと同じ、魔術剣士か…!
本来なら近接戦に持ち込まれるのは、俺の土俵から外れることになるんだが…、
「今はそんなの怖くないね! どうした魔石龍…もっと力を寄こせ!」
敵の嵐の剣を避けつつ、今度は銃剣に魔力を込めた。
ライフルと同様、燃え上がる魔石龍の血肉。
その原子と原子の隙間から、湧き上がる魔術。
「できた…、ロードレクイエム…! 疑似的だが…こりゃ使える…!」
俺は心のままに、正面に立つ敵の腹目掛けて銃剣を突き立てる…!
そのまま斬り裂き、続いて他方の敵に攻撃した。
一人、二人、三人、四人…五人目。
前世で鍛えられた銃剣道が、ここで役に立つとは。
「いたぞ…! アレが敵の将軍だ!」
誰かが叫んだ、そして酒を求める男たちが全員そっちを向いた。
奥に、指揮所と思われるテントと軍旗が見える…。
そこに見える、立派な馬に跨った兜をかぶった男。
「―――間違いない…あいつが司令官か⁉」
戦略目標…みーっけ。




